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獣の愛
獣の愛_1
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「……ケホッ……ッ……ハァ……ゴホッ!」
──湖のほとり
岩場に身を横たえているセレナ。
「…ハァー‥‥‥コフッ…!! 」
水を大量に飲んだ彼女は苦し気に咳き込む。
ずぶ濡れのセレナの周りには小さな水溜まりができていた。
わたし……
生きて、いる……!?
死ぬのを覚悟した、のに
どうしてわたしは此処にいるの
「──…!? 」
息ができなくて、水をたくさん飲んで
前も後ろも……上も下も分からなくなって
目の前が真っ暗になった。
──その時に、わたしの腕を強く引いたのは
「……、…誰…?」
わたしを滝壺から引き上げたのは……誰なの……
「……そんな の…」
そんなの、あの男しかいない──…
空が少しずつ明るさを失っていく時間……銀狼はまた何処かに行ったようだ。
その代わり、出口付近には数頭の狼が見張りのように彷徨いていた。
──逃げる道は断たれている。
緊迫した状況は変わらない中、自分がすべき行動もわからずに、濡れた裸体を腕で庇う。
……セレナの視線は、ふと、銀狼が運んできた荷物の上で止まった。
彼が落としたそれは、布にくるまれたまま岩場に放置してある。
大きな白い織物は街の仕立て屋で見る上質な物だ。
何が入っているのか見当もつかないけれど、セレナはそっと手を伸ばした。
「……?…これ…」
中身を見たセレナは声を呑む。
手始めに中から出てきたのはドレスだった。 女性用の衣服が現れ、セレナの腕におさまった。
そのドレスは貴族の服ほど高価な物ではなかったが、庶民服の中では十分に上等な布で織られていた。色は、彼女がもともと着ていた物と同じ菖蒲色。
「どうしてあの男がこれを……?」
何も身につけず ずぶ濡れのセレナは、それを胸でしっかりと抱いた後──着る物まで濡らしては意味がないと慌てて離した。
銀狼によって破かれたドレスの残骸はまだ祭壇の手前に残されたままだ。
自分で破いておいて……
“ 何のつもり……?あの……化け物 ”
彼は見た目こそ人だが
その本性は残虐な獣なのだ。
……こんな真似をされたら、勘違いをしてしまう。
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