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獣の愛
獣の愛_2
しおりを挟むそれから暫く──
湖のほとりの大岩に背を預けて、彼女は目の前の滝を眺めていた。
夜へと移ろう此の地に従って、徐々に闇を溶かし込んでいく水面の様子は綺麗だった。
叩きつける滝の音も、心なしか昼間より控え目になったように聞こえる。
……きっとこれから夜にかけて、あの幻想的な風景に様を変えるのだろう。
見る者を虜にする
危ない魅力をもって。
「──…」
身体が乾き、衣服を身に付けたセレナ。
彼女は両手で荷物を抱いていた。
ドレスを包んでいた布の中には、人間の食物であるパンが数個と、さらにセレナが見たことのない果実まで入っていたのだ。
どう考えても此等はセレナのために用意された食料に違いなく、実際、湖で喉は潤せたけれど昨日から何もお腹に入れていないのだから、今のセレナは空腹だった。
“ お腹が空いて仕方がない… ”
生まれてこのかた味わうことのなかった " 空腹 " という現象を、彼女はここで意図せずして経験することとなったのだ。
“ でもこんなの食べるわけにはいかない ”
中身を見ないようにぐしゃりと抱き締める。
あの男…銀狼が、何を考えているのか分からない以上、与えられたものをほいほいと口にする訳にはいかない。
何より、このドレスもパンも、いったいどうやって手に入れたというのか──恐ろしい想像が頭から離れなかった。
「…ハァ…、……──」
あなたの施しなんて
わたしに必要ない……
ギュルルル・・・・
そうは思ってみても代わりに気を紛らわすようなものも無く……
ギュルルッッ
「──…っ//」
飢えばかりが増していき次第にセレナの頭はそれでいっぱいになる。
“ ……だめなのに ”
少しだけ隙間を開けて中を覗いてみると、我慢もいよいよ難しくなり、堪えきれず、とうとうセレナは中から果実を取り出した。
何の実かしら
……食べれそうなの?
「……いい匂い」
屋敷の食事ではいつも何かしらの果物が添えられる。そんなセレナですら初見なのがこの果実だった。
怪しいのは勿論だが、空腹を満たすためには致し方なく…。
緑色の厚い果皮を剥いて、柑橘系の酸味を香りで感じた後、中の白い実を恐る恐る口にする。
「───!! 」
──酸っぱい!!
それに、苦い…ッッ
「…ッ……!!…なっ何なのこれ!? 」
食用かと思い口にしたその果実は、酸味が強すぎてとても食べれた物ではなかった。
その酸っぱさ…舌が痺れるほど。
“ どうしてこんな物を入れるの……! ”
どうしようもない味を中和する為、慌てて彼女は口直しにパンを頬張る。
パンの味は──いたって美味であった。
「~~~!! 」
何とか苦味と酸味は緩和されたが、一度パンを口にした身体は空腹を満たすさらなる量を欲しがった。
悔しさに顔を赤くしながらもかじり付く口の動きを止められない──。
両手で掴むほどの大きさのパンを、気付けばペロリとたいらげてしまう。
『 食欲だけは、獣並か…… 』
そんな声が聞こえてきそう。
“ 仕方がないもの……// ”
「これが悪いのよ、これが」
セレナは恐ろしい味の果物を手に取る。
そして湖に投げ入れようとした。
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