秘密施設の少女は 血ダマリ美青年の狂気愛に犯される【R18】

弓月

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逃走

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 少女は部屋の外を知らない。

 これまで診察の時だけは、外に出る機会があった。ただ彼女は必ず目隠しを当てられた状態で研究員に手を引かれていた。

 それは、常人より優れた彼女の視力は、多くの情報を与えすぎると脳へ負担をかけてしまうから。それ故の、彼女を守るための処置だった。

 でも今は……少女は部屋から逃げるしかない。

 背後の青年への恐怖が、彼女を外の世界に押しやった。


「………ぅ…!」


 ドアの先──そこは、青年が現れた、あの血溜まりの惨状。


「ひ、酷い…」


 首をかき切られて倒れているのは、見知った研究員の男だ。

 壁にもたれるように倒れている男も

 こちらに手を伸ばし、うつ伏せている女も

 みんな、この朝まで変わりなく元気だったのに。

「うっ…うう…なん で」

 少女は苦しそうに頭をかかえ、鼻と口を手で覆った。

 薄暗いのに鮮やかな赤が、彼女の脳を攻撃してくる。

 通路いっぱいに広がる血の匂いも息ができないほど生々しい。

 遠くの部屋で鳴る警告音も、彼女にとっては頭が割れそうな慟哭( ドウコク )だった。


 気を失ってしまいそう

 だけど


「…逃げるの?あんたが逃げるなら、俺は追いかけるけど」

「……!」

「追うし…逃がさないけどな?」

「…ひっ」

 背後から、不気味に落ちついた声でそう言われる。

 さらに相手が立ち上がる気配がわかった。悠長に気絶していられるものか。

“ だれか助けて ”

 少女は走った。

 通路の先には、機材やモニターが並んだ広い部屋があり、そこにも白衣を着た研究員の動かない身体があった。

 ひとつのモニターが何かの映像を流している。

 それが何の映像なのか見る余裕はなかった。




 それから施設をさまよった彼女は、結局、生きた人間のひとりにも会えないまま…ドアが開いていたひとつの部屋に飛び込んだ。

「はぁっ…はぁ、は……!」

 部屋のすみで倒れるように床に座り、入口をむいて、両手で口をふさぐ。

 口をおさえる手の内側で、カタカタと歯が震えて音が鳴るから、必死にこらえようとするけどダメだった。

「……っ」

 あの人は…ここまで追ってくるだろうか?

 部屋にはいるところを見られただろうか?

 あ、いけない

 パニックになっていたから、ドアの鍵をかけるのを忘れていた。

 これだともし中に入ってこられたら逃げ道を失う。

“ 閉めないと…っ ”

 鍵を閉めないといけない



 でも


.....カツン



 音が……



.....カツン



 近づいている



 隠れ場所が、バレてる…?



「……!」



 どうしよう
 足がすくんで動かない



...カツン


...カツン


......





───ギイッ·····!!





「ひ…ッ」


「馬鹿なのか?……あんた。足跡のこして、逃げ切れるわけないだろ」



 あっけなく見つかり、部屋にはいった青年によって逃走経路は阻まれた。

 彼女が隠れていたのは、もといた部屋と同じ白色の空間で、電気も付いていて明るい。3m方形の小さな部屋には、中心に変わった形の椅子、その横に器具を置くための架台があるだけ。

 少女が逃げ込める所はないのだ。

“ 捕まった ”

 彼女は絶望した。

 ムダな抵抗をしたせいで今度こそ相手を怒らせたに違いない。

 そう覚悟する少女だった。けれど、恐る恐る見上げた青年の表情に…苛立っている様子はなかった。


「…逃げたくなるほど俺が怖いらしい」

「……っ」

「何が怖い?教えなよ。俺はあんたに殺意を向けてないし、あんたをよくしてイカせてやった…。甘い声で鳴いたじゃないか」

「…!?何がっ…て」

 何を当たり前の事を聞いてくるんだろう……そう思うが、自分を壁際に追いつめたこの青年の顔を見たとき、本気で彼が理解できていない可能性に気がついた。

 ふざけているんじゃなくて、本気で彼女の " 恐怖 " がわからないのかもしれない。


“ それだけじゃない、この人、なんだか……! ”


「ど……どうして、あなたは、わからないの……!?どうしてっ…こんな怖いコト、するの?……酷いコト……するの?」

「……俺に触られるのが、怖いって?」

「当然です!あなたはっ……みんなを殺した」

「そうだな俺はあんたを捕らえていた連中を殺してやった。ならあんたの味方になるんじゃないのか?」

「捕らえていた連中……!? 誰の、こと?」

「へぇ……自覚なしか」

「─…ッ」

 薄笑いながら顔を寄せられて、少女は反射的に相手の頬を叩いた。

パシッ───!

「あなたの好きにされる くらいなら…っ…!殺されたって、抵抗、します……!」

「……」

 叩かれた青年の左の頬が、赤みを帯びる。

 自分で叩いておきながら手は震えているけれど、少女は必死に、気丈に振舞おうとした。

「──…?」

 でもやはり青年にダメージはないようだ。

 彼は怒ったり苛立ったりするわけでなく、叩いた彼女の手首を掴む。

「自覚ないなら教えてやろうか?連中が、あんたに何をしてきたか」

「あなたって……!?」

 少女はハッとした。

 もしやこの人は、恐怖や怒り……そして痛みにいたるまで、あらゆる感覚が普通より " 鈍い " のではなかろうか。

 会話をしているときの違和感も、どことなく感じる薄気味悪さも、そのせいなのかもしれないと…。

 なら自分を虐めているときの楽しそうな顔はなんだったのかと、彼女が疑問に思ったとき

「きゃあ!!」

 少女は青年に抱き上げられた。



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