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序章

1.目覚めた先

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 まずは深呼吸。そこから始める。
 大きく吸って吐いてを数度繰り返してから、手にある封筒を睨み付ける。そして、心臓の鼓動を早めながら封を切った。
 ──佐治理二さじ りじ様、選考結果のご通知。
 お決まりである最初の文字を読んだ時、なんとなく結果には気付いていた。それでも最後まで読むのは、いつもの諦めの悪い性格のせいだ。文字を慎重に読んでいく。
 ──ご提出いただいた全ての関係書類を同封、ご返却させていただいております。
 そこまで読み終わると、俺は深い溜息を吐いて不採用通知を床へと投げ捨てた。
 これで何社目だろう。
 数十社目の不採用通知に思わず目尻が熱くなる。それでもここで泣き出すのは悔しさがあり、誤魔化すように自室のベッドに倒れ込んだ。

「……落ちる心当たりがあるのが辛い」

 ベッドに顔を埋めて、くぐもった声で呟いた。現在俺は就活という最難関にぶち当たり、そこから動けなくなっていた。
 元々誰かと話すのは苦手な性格だった。初対面の人間相手と話そうとすると必ずどもってしまうし、人の顔色ばかりを窺がって動いてしまう。
 その為に損する事も多く、友人たちに色々気にし過ぎだとよく言われる程だ。
 それらの事が、就活での面接では悪い方向に働いてしまうのだ。
 上手く質問に答えられない、人の顔色を窺いすぎて失敗をする。
 考えるだけで情けない。そのくせ、諦めが悪いので始末に負えない。
 無理だと投げ出せばいいのに自分が決めた事は、嫌だ嫌だと泣きながらいつも続けてしまうのだ。

「けれど、今度こそ無理かもなあ……」

 無理と言って、どうにかなるものでもないと知っている。
 それでも弱音を吐きながら、目蓋を閉じる。涙と共に流れ出た鼻水を啜って、ベッドの上で丸まった。必ずくる朝日を憂鬱に思いながら、出来る事なら夢では幸せでありたいと願いながら。
 睡魔に任せて、意識はすっと落ちていった。

 ◇◇

「さあ、目を開いて」

 その声と共に俺は目を開いた。全く聞き覚えのない声が聞こえた為に驚いて、起きたというのが正しい所だった。
 起きた時にまず目にしたのは吹き抜けの天井、そしてどこまでも真っ白な内壁。
 そこには自分にはわからない記号の様なものが描かれており、神秘的な印象を受ける。それが一度も見た事のない内装だと理解してから、飛び起きた。
 ぐるりと辺りを見渡すと部屋に調度品などは一切なく、ただただ広い一室。更に真っ白なローブを着た人間が中央に一人、他にも鉄製の鎧を着込んだ人間が十数人程、こちらを囲むように立っていた。

「は? え……?」

 どこだ、ここ。
 現状を理解できずに、口を間抜けに開いたままだ。
 一瞬にして頭は真っ白だ。固まってしまい、呼吸も忘れた。
 待て、落ち着け。落ち着け、理二。
 自分の名前を繰り返し心の中で呼びながら眠る直前の事を思い出してみる。狙っていた企業の不採用通知を読んで、愚痴りながらも半分ふて寝状態で眠った。
 それだけだ。それ以上の特別な事はどこにもなくて、平凡で少し運のない一日。そのはずだった。
 しかし、目が覚めれば今は見知らぬ場所にいる。

「きゃあ! あ、あなたたち、誰!」

 女性の甲高い悲鳴が響き渡る。
 そこで俺はこの場所にいるのが、自分だけでないと初めて気付く。俺の他に女性と男性がいた。女性は先程悲鳴を上げた人物だ。
 その女性は艶やかな黒髪だった、髪は真っ直ぐで髪は肩程の長さ。肌は白く目も大きく、顔立ちがとても愛らしい少女だ。彼女が着ているのは制服だった、高校生だろうか。
 辺りを見渡して肩を震わせている所を見ると、俺と同じような状況ではないかとすぐにわかる。

「どこだ、ここは」

 次に声を上げた男性は頭を手で押さえながら顔を上げていた、眉を顰めて不機嫌さを隠そうともしない。男性は淡い茶色に染めた髪に、衣服は黒のスーツ姿だ。年齢は三十前半といった外見だろうか。

「皆様、お目覚めになりましたね。初めまして、神子様方。私はパスカル=ピカードと申します。現状に混乱していらっしゃると思いますが、まずは私にお話をさせてください」

 俺が全員の顔を確認していた辺りで、白いローブ姿の人物が口を開いた。その声は低く、男性だろうというのは予想がついた。
 ただローブを深く被っている為に、はっきりとした容姿も性別もわからない。

「初めに、貴方たちは神々に選ばれた人間なのです」

 そのように切り出されては、誰が聞いても胡散臭いと感じるものだろう。
 そこからパスカルさんが続けて語る様は仰しく、無駄ともいえる賛美が含まれていた。
 彼の話を要約すると、これは『異世界召喚』というものだというものだとわかる。
 それなりに漫画や小説を目にしているので、そういうものがフィクションとしてあるというのは知っている。もちろん、それが自分に降りかかるなどは全く考えてはいなかった。
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