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序章
9.自分のために
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レーテオさんは、特に感情を表情に出す事はなく、前と変わらず無感情のまま首を傾げた。
そして、艶やかな黒髪に指先を通すと、搔き上げる。その全ての動作はどこか気だるげでゆったりとしている。相変わらずといった様子だ。
「さて。ここに戻ってきたという事は、またお前に聞かなければならない」
「……待ってください。それを答える前にレーテオさんに質問があります」
「レーテオでいい。何だ、愛し子?」
話を遮るもレーテオさん……レーテオには不満そうな様子はない。前から感じていたが、彼女は基本的に俺に甘いような気がする。いや、一応俺は神子だからそういうものなのか?
とにかく、いつもの問いかけが始まる前に、俺にはどうしても聞きたい事があった。
「レーテオ。黒の神子は危険なんですか?」
俺の言葉に一瞬だけ、レーテオの動きが止まる。そして、地面に座りながら俺を見上げてくる。
まだちゃんと理解はしていないが、黒の神子が自身の玉座とやらに座ると恐ろしい事が起こるらしい。
それが理由で俺が殺されたというなら……納得は出来ないが、理解しようとする事は出来る。
世界が滅びる、とかだとこの世界で平和に生きる人たちならば俺を殺したくなるものだろう。
「ふむ。危険か、危険でないかという質問ならばお前次第といえるか」
「俺、次第?」
「そうだ。とりあえずはこの言葉だけ送ろう。私は、レーテオ。この世界を見守る四柱の神の一つにして、その頂点。お前はその愛し子だ」
俺は、その言葉に眉を顰めるしかない。四人の神様に序列があるなんて初めて知った。しかも、レーテオはその頂点? だというのに、黒の神子は恐ろしいのか?
ちゃんと答えてくれたがどうにも理解したとはいえない答えだ。
「それってどういう」
更に問いかけようとした俺の言葉を遮るように、唇にレーテオの人差し指が押し付けられる。レーテオは柔らかい指先が俺の唇をなぞるように撫でながら、瞳を細める。
うっ、いつの間にか至近距離に迫っている美女の顔はどうにも心臓に悪い。
「続きは次回会えた時にしよう。どうやらお前はまだ私の側にはいてくれなさそうだからな」
レーテオの溜め息交じりのその言葉には明らかな不満が滲んでいた。
次回って。俺がまた死ぬと思っているのか、この人。わりと酷い発言だ。……それにしても、かなり嫌そうだな。
俺がその態度に戸惑っている間に、レーテオは俺の腰へ腕を回す。女性の細腕なのにそれは力強い。そして、反対の手は緩やかに俺の頬を撫でた。
俺は緊張から全身が強張る。
さっきから思うが、本当に俺との距離感がおかしい。
「さて、愛し子。改めて問おう。どうする、諦めるか?」
それは二度目の返答だ。
前回は他の人のことを考えて、ただ死んだ事実から逃げるように首を横に振った。
しかし、今回は違う。
この先、泣いて嫌だと思う日がくるかもしれない。それでも、俺はさっき願った事を諦めずにやり遂げよう。
出来る事ならば元の世界に戻る。それが叶わない事ならば、この世界で誰よりも最高に幸せになる。
その願いはどこのどいつにも邪魔はさせるか。俺は、俺を大切にして生きる。
「諦めてやるもんか」
そんな俺の言葉を聞いたレーテオはどこか困ったように眉を垂らす。しかし、口許だけは優しく微笑んでいた。
そして、その指先が俺の額に触れた瞬間、前回と同じように耐えきれない睡魔が襲い掛かってくる。
次は抗う事はせずに、自分の意志でそっと目を閉じた。
◇◇
前回と似た感覚を身体中で感じて、その気分の悪さに眉を顰める。どろどろの沼に溺れて、やっと息継ぎができたような安堵感と倦怠感。これは何度やっても慣れそうにもない。
目蓋を開くとすぐに飛び込んで来たのは天井ではなく、ディオスさんの顔だった。
そして、艶やかな黒髪に指先を通すと、搔き上げる。その全ての動作はどこか気だるげでゆったりとしている。相変わらずといった様子だ。
「さて。ここに戻ってきたという事は、またお前に聞かなければならない」
「……待ってください。それを答える前にレーテオさんに質問があります」
「レーテオでいい。何だ、愛し子?」
話を遮るもレーテオさん……レーテオには不満そうな様子はない。前から感じていたが、彼女は基本的に俺に甘いような気がする。いや、一応俺は神子だからそういうものなのか?
とにかく、いつもの問いかけが始まる前に、俺にはどうしても聞きたい事があった。
「レーテオ。黒の神子は危険なんですか?」
俺の言葉に一瞬だけ、レーテオの動きが止まる。そして、地面に座りながら俺を見上げてくる。
まだちゃんと理解はしていないが、黒の神子が自身の玉座とやらに座ると恐ろしい事が起こるらしい。
それが理由で俺が殺されたというなら……納得は出来ないが、理解しようとする事は出来る。
世界が滅びる、とかだとこの世界で平和に生きる人たちならば俺を殺したくなるものだろう。
「ふむ。危険か、危険でないかという質問ならばお前次第といえるか」
「俺、次第?」
「そうだ。とりあえずはこの言葉だけ送ろう。私は、レーテオ。この世界を見守る四柱の神の一つにして、その頂点。お前はその愛し子だ」
俺は、その言葉に眉を顰めるしかない。四人の神様に序列があるなんて初めて知った。しかも、レーテオはその頂点? だというのに、黒の神子は恐ろしいのか?
ちゃんと答えてくれたがどうにも理解したとはいえない答えだ。
「それってどういう」
更に問いかけようとした俺の言葉を遮るように、唇にレーテオの人差し指が押し付けられる。レーテオは柔らかい指先が俺の唇をなぞるように撫でながら、瞳を細める。
うっ、いつの間にか至近距離に迫っている美女の顔はどうにも心臓に悪い。
「続きは次回会えた時にしよう。どうやらお前はまだ私の側にはいてくれなさそうだからな」
レーテオの溜め息交じりのその言葉には明らかな不満が滲んでいた。
次回って。俺がまた死ぬと思っているのか、この人。わりと酷い発言だ。……それにしても、かなり嫌そうだな。
俺がその態度に戸惑っている間に、レーテオは俺の腰へ腕を回す。女性の細腕なのにそれは力強い。そして、反対の手は緩やかに俺の頬を撫でた。
俺は緊張から全身が強張る。
さっきから思うが、本当に俺との距離感がおかしい。
「さて、愛し子。改めて問おう。どうする、諦めるか?」
それは二度目の返答だ。
前回は他の人のことを考えて、ただ死んだ事実から逃げるように首を横に振った。
しかし、今回は違う。
この先、泣いて嫌だと思う日がくるかもしれない。それでも、俺はさっき願った事を諦めずにやり遂げよう。
出来る事ならば元の世界に戻る。それが叶わない事ならば、この世界で誰よりも最高に幸せになる。
その願いはどこのどいつにも邪魔はさせるか。俺は、俺を大切にして生きる。
「諦めてやるもんか」
そんな俺の言葉を聞いたレーテオはどこか困ったように眉を垂らす。しかし、口許だけは優しく微笑んでいた。
そして、その指先が俺の額に触れた瞬間、前回と同じように耐えきれない睡魔が襲い掛かってくる。
次は抗う事はせずに、自分の意志でそっと目を閉じた。
◇◇
前回と似た感覚を身体中で感じて、その気分の悪さに眉を顰める。どろどろの沼に溺れて、やっと息継ぎができたような安堵感と倦怠感。これは何度やっても慣れそうにもない。
目蓋を開くとすぐに飛び込んで来たのは天井ではなく、ディオスさんの顔だった。
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