18 / 33
18 フィー。
しおりを挟むそれからヒューは何度も私の手を取り、魔力をみて整えてくれた。
数日後、ここを離れたらもう味わえないかもしれない感触だと思うと、何回でもやって貰いたい、そんな気持ちにもなった。
暫くするとメイドの女性が来てくれて、着替えを幾つか用意してくれた。
最初は丁重にお断りしたものの、昨日海でずぶ濡れになった服を洗濯して貰い、倒れている間も寝間着を借りていたので、もう今更かな……と思い一番シンプルなものをお借りした。
着替えの時以外、ヒューはずっとこの部屋にいた。
今までヒューといるときは一緒に居られる時間も短く、説明を要するものが多かったのでよく話していたけれど。こうやって特に何もすることもなくぼんやりしていると、ヒューはとても口数が少なかった。
でも不思議と同じ空間に居ても気まずさは無くて。
ヒューは私のベッドから少し離れたところにある椅子に腰かけて、サイドテーブルにある本を読みながら何かをずっと書き込んでいた。
時折、北部の水の魔法の訓練の質問が私にきて答えることもあった。
ふんわりと自然に同じ空間に居られた。
なので私もベッドに中で、仕事の資料を確認したりうとうとしたりしながらゆっくり過ごした。お互いがそれぞれ自分のことをしているのに、同じところに居ても苦にならないのが心地よかった。
「そうだ。ニナの宿泊先のホテルに荷物を取りに行こうと思うんだけど、俺が行っても大丈夫? こういうのって女性が行った方が安心な感じ?」
「あ……、可能なら女性にお願いしたいです、下着とかもあるので……」
正直、これも遠慮してこのままホテルに戻りたい気持ちもあったけれど。この身体の重たい感じが、いつ解消されるか想像がつかなかったのと。
今ホテルの部屋に置いてある仕事の書類が早く見たくて、それだけ取りに行って貰うなら同じかなと思ってお願いすることにした。
それに出張の時は、下着を手洗いをして室内に干している。
知り合いに見られるより、淡々と作業として詰めてくれるメイドにお願いしたかった。
「では私が行って参りますね」
着替えを持ってきてくれた女性がそう言ってくれたので、余裕があれば南部特有のお菓子も買ってきてほしいとお金を多目に手渡した。
暫くすると別のメイドが来て、フィーが挨拶をしたいのでこの部屋に来ることを望んでいると伝えられた。私は髪だけ手伝って貰って整えた後に、「いつでもどうぞ」と伝言を託した。
程なくして部屋に来たフィーは、松葉杖をついていた。そうだ、ねん挫をしたってヒューから聞いたっけ。
ヒューが慌てて入り口まで迎えに行き、フィーの歩行を手伝った。
「ごめんなさい……! 私がフィーさんのお部屋に行くべきでした」
「いえ、ニナさんは身体がツラいですよね、私もこの屋敷の中に居たので大丈夫です」
ヒューの手を借りて、フィーは私の向かいに腰掛けた。テーブルにはメイドによってお茶とお菓子が手際よく並べられた。
フィーがサっと手を上げると、メイドたちは一礼をして静かに部屋から出ていった。
「ヒュー、厨房にチャイを淹れるようお願いしてきてくれる?」
「え! 嫌だよ、あれ時間かかるじゃん。今お茶あるし」
「ニナさんに、南部のお茶を飲んでほしいのよ、お願い」
「……わかった」
ヒューは私とフィーを交互にチラっと見たあと、渋々という足取りで部屋から出た。
扉が閉まる音を聞いて、フィーと私はお茶を一口飲んだ後、お互い何か言葉を探しているような少しの沈黙の中で息をのんだ。
「あの、お身体の調子は大丈夫ですか……?」
おずおずと私が切り出すと、フィーは長い指で綺麗に持ったカップを静かに置いて、頭を下げた。
「ニナさん、昨日は助けて戴き、本当にありがとうございました。ねん挫と打ち身以外は本当に大丈夫です。それと……、あの、昨日は盗み聞きをするような真似をしてしまい大変申し訳ございませんでした」
「顔を上げてください。え? 盗み聞きですか……?」
「あ、はい……。ヒューが心配で、昨日お二人の後をつけてしまったんです」
「え……! そうだったんですか?!」
それで後ろ側の木陰にいたんだ……と納得しつつ、あまりにバツの悪そうな顔をして横を向くフィーを可愛いなと思ってしまっているのを必死で隠した。
「ヒューは、人の感情を敏感に感じ取ってしまうところがあって……。九年前もそれで泣いて泣いて大変だったので、家族で相談を重ねて記憶を封じ込めることにしたんです」
「え……?!」
記憶が無いのは事故のせいではなく、故意に封じ込めたものだったの……? 意外なフィーの言葉に驚きが隠せずにいると、フィーはテーブル越しに少し前屈みになって私の方へ顔を寄せ、抑えた声で言った。
「九年前、何があったかヒューからは聞いているのですが、ニナさんからも聞いていいですか……?」
私は頷くしかなかった。近づいてきた美人の迫力、すごい。……それだけではなく、この人がどれだけ必死にヒューを守ろうとしているのかが解ったような気がして、自分に出来る手助けはしたいと心から思った。
「わかりました」
私がそう言うとフィーは扉の外にいるメイドを呼び小声で何かを言付けて、一回座り直し、お茶を一口飲んだ。
「九年前のあの日、私は前の北のご当主と次期ご当主がいらっしゃるから同席するよう言われて、この屋敷に父と来たんです」
「あぁ、アークさんのお兄さんがうちの父と兄たちを招待したという時ですね」
「はい。ヒューは普段から長男なのに魔力なしで……とか、私と逆だったら良かったのにね……という周囲の評価に悲しんでました。泣く時は必ずどこかに隠れて泣くんです。だから探すのが大変で。あの日も私だけが呼ばれたことに悲しんでいなくなってしまったんです」
「そうだったんですね……」
「だからヒューを探すのは母に任せて、私は父とこの屋敷へ来ました。きっとその時、ニナさんはあの海でヒューと会ったんですよね……?」
「たぶんそうです。私は当時、父と兄が招待を受けていたことを知らなかったのですが、あの時私だけ護衛とメイドとあの海へ行ったんです。一人で長く泳いでいたところ、あの岩のところで泣いているヒューと会ったんです」
「昨日のあの岩のところですね。あの場所まで泳げる子が当時ほとんどいなかったので、ヒューのお気に入りの場所だったみたいです」
「……ヒューも私もここまで泳げる子供に会ったことに驚いて話したんです。私が泣いている理由を尋ねたら、大切な家族と喧嘩してしまったことと、みんなに魔力がない魔力がないと言われることが悔しくて、毎日ちょととずつ寝ている時にお姉さんの魔力を盗んでいるんだと話してくれました」
「そうなんです、当時は気付いていなかったのですが昔から【吸収】の能力があったのか……、少しずつ私の魔力を溜め込んでいたみたいなんです」
「それがあの時、爆発しちゃったんですね」
「……やっぱりヒューは爆発したんですね?」
「はい。急に空を見上げて無言になったと思ったら、なんで! と叫んだ後、大きな炎が立ち上がりました。なので私は慌てて水で包んで消火したんです」
「……当時のあなたが水で?」
「あ、えっと、ここだけの話にしてほしいのですが、私は子供の頃から兄さんの魔力をのせて貰っていたので、当時から多少は水の魔法が使えたんです」
「あぁ、そうだったんですね。……ということは、あの宰相さんが【吸収】?」
「恐らくそうかと」
「なるほど。……たぶん、あの日のこの屋敷での北との会合で、私が北の次期ご当主様、あ、今のご当主様を格好いい素敵素敵ってベタ褒めしていたら、アークに嫉妬されてしまって。会合が終わってから裏庭でキスされたちゃったんです。初めてのキスでした。たぶんそれがヒューに伝わっちゃて、爆発したのかなって思っています……。それから二日間ほどヒューが何も食べないし話もしないし、もうどうしようかと思って……」
「……は?」
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」
幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。
あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。
しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。
俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる!
「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」
俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。
その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。
「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」
「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」
『コメント:なんだこの配信……神か?』
『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』
これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる