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第5章 女神の間にて

花咲く丘にキミと2人で -12-

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『婚約者がいる男性を略奪してそんなに楽しいですか? 貴女風に申し上げるなら、お昼にサラダだけ食べるのを選んだ癖に両隣で他の女の子が食べてる牛肉やお魚を断りもなしに、いきなりフォークで突き刺して奪い去り、無遠慮に食べるようなことをしているのですよ?』
『一口ちょうだいって言えばいいの?』
『礼儀作法の問題を横に置いておけば、お食事やデザートなら了承する女性もいらっしゃるでしょう。ですが、自分の婚約者を貴女に差し上げる方はいらっしゃらないと思いますわ』

 食べ物の話しとして混ぜっ返そうとしたように見えるアリューシャの言葉を冷静に婚約者の話しへと戻した14歳リリエンヌが答えるとアリューシャが不思議そうに首を傾げた。

『男の子達は、そう思ってないみたいよ? 学院に居る間が、許された最後の自由なんだから、子供の頃から親が勝手に決めた婚約者じゃない女の子と普通に、お友達として過ごしてみたいんですって。だけど、貴女達みたいな女の子ばっかりで、他の女の子には逃げられちゃうからお友達になれなくて、わたしの所に来るみたいよ?』

 親が勝手に決めた婚約者。

 その単語は、3人の女の子の矜恃をゴリっと削り取ったようで顔が一気に強張った。

 婚約者の男が出会った頃から自分達に優しくないのは分かっていたが、政略結婚を親から言い含められていた彼女達には、好かれようと努力することしか選択肢がなかったからだ。

『貴女達もさ? 男とか女とか、婚約者が居る居ないってところ以外で他人と付き合えないの? 家に利益があって結婚することができなくちゃ、男の子とはお友達にすらなれないの? 婚約者と繋がりがある女の子は、全員、自分達から婚約者を奪う人間だとしか思えないの?』
『貴女は違うとでも仰るの⁈』
『お友達だって言ってるでしょ? それに奪うとか奪われるとか、男の子達は、貴女達婚約者になった女の子達専用の物や道具じゃないのよ? 自分の意思があるの。さっきその子が言ったみたいに、わたしとお友達にならないことを選ぶ人が居るように、わたしとお友達になってくれることを選んだ人達の中にたまたま、貴女達の婚約者が居ただけじゃない。それをわたしに文句言ったからって、貴女自身の何が変わるのよ? 女としての魅力が上がるとか、婚約者ともっと仲良くなれたりとかするの?』
『しないな』

 出た。

「さすが、ぎゃくハールートですわね。アルフレッドさまのとうじょうは、かくていえんしゅつではございませんのに」

 俺が14歳アルフレッドの声に思い浮かべた短い単語の意味を友理恵さんフランソワーヌが補完するように言った。

『少なくとも私は、たった1人の女の子を3人がかりでこんな所まで連れてきて、くだらん言いがかりをつける女に対して「嫉妬してくれて嬉しい」なんて思う程、頭は湧いてない。寧ろ、虐めの現場にしか見えなくて正直、幻滅と軽蔑の思いしか抱けないな』
『アルフレッド様……っ!』
『すまないな、アリィ。嫌な思いをさせて。婚約者という立場を守る為に必死なだけだから、放っておいてくれていいぞ』
『アルフレッドは、婚約者の女の子、好きじゃないの?』
『親の決めた婚約だ。私達子供は、男も女も関係なく好きだ嫌いだで相手を選べてはいないよ。ああ、それと私のことはアルフでいい。友達だからな』
『うん!』

 婚約者ですら名前に敬称をつけて呼んでいるのに、その目の前で2人は互いに愛称呼び。

 その理由を「友達だから」の一言で片付けようとしている。

 これは貴族の常識としては、有り得ない事だった。

 案の定、我慢の限界を迎えた14歳フランソワーヌの手にした扇が、物凄い音を立てて真っ二つに折れて、ゲームキャラの視線がそちらに集中していた。

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