リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU

文字の大きさ
16 / 44

第16章 闇を切り裂く雷光と、1000万ボルトの救世主

しおりを挟む
京浜工業地帯の夜を、防弾仕様のハイヤーが疾走する。  ハンドルを握るのはベルンハルト氏の部下だ。後部座席で、一ノ瀬玲奈がタブレットを操作しながら緊迫した声を上げる。

「状況は最悪です。オリオン社の受電設備が物理的に破壊されています。予備のディーゼル発電機も起動しないとのこと。恐らく、燃料タンクに細工がされています」

「……徹底しているな」

 私は窓の外を流れる街灯を見つめた。  工場には、納品直前のジェットエンジン用部品が入った高温炉がある。温度管理が命だ。電源が落ちて冷却が始まれば、コーティングにムラができ、数億円分の製品がただの鉄屑になる。

「炉内の温度が許容範囲を下回るまで、あと十五分といったところです。それまでに数千キロワット級の電力を供給しなければ、すべて終わりです」

「十五分か……」

 電力会社の手配では間に合わない。  横に座るエレナが、蒼白な顔で唇を噛んでいる。

「私のせいです……。私が来たから、彼らが動き出してしまった……」 「違いますよ、エレナさん。これは彼らが『焦っている』証拠だ。自分たちの技術じゃ勝てないから、盤面をひっくり返しに来た。……負け犬のやり方だ」

 私は努めて明るく言った。  だが、手札がないのも事実だ。私の「豪運」は、この物理的な絶望をどう覆すつもりなのか。

          *

 工場に到着すると、そこは深い闇に包まれていた。  赤い非常灯だけが点滅し、不気味な静寂が支配している。

「柏木社長ぉぉぉ!」

 懐中電灯を持った六郷社長が、転がるように駆け寄ってきた。

「だ、ダメです! 受電盤が完全に溶断されてる! 復旧には半日はかかる! 炉の温度はもう下がり始めてます……このままじゃ、製品が全滅だ!」

 工場の入り口付近には、頭を抱える従業員たち。その絶望的な空気の中、私の視線はある一点に吸い寄せられた。

 工場の搬入スペースに、一台の巨大なトラックが停まっていた。  未来的なフォルムをした、銀色の大型トレーラーだ。

「……六郷さん。あのトラックは?」

「え? ああ、あれは……社長が先週、『配送業者はここを使え』って指名した『未来運輸』のトラックですよ。明日の朝一で出荷するために、今夜から待機してもらってるんですが……」

 そうだ。思い出した。  配送業者を選定する際、数ある大手の中から、私は無名に近いベンチャー企業である『未来運輸』を選んだ。理由は単純。「ロゴマークが可愛かったから」だ。

「運転手は?」 「中で寝てますよ。この騒ぎでも起きないくらい爆睡してます」

 私は走った。  直感が、脳内でサイレンのように鳴り響いている。  ――そこだ。そこに「正解」がある。

 ドンドンドン!  私は運転席のドアを激しく叩いた。

「う、うーん……なんだぁ? まだ朝じゃねえぞ……」

 眠そうな顔で出てきたのは、金髪の若者だった。

「兄ちゃん! このトラック、ただのディーゼル車じゃないな!?」 「あ? 当たり前っすよ。ウチの社名、『未来運輸』っすよ? これは社長が借金しまくって導入した、最新鋭の水素燃料電池(FC)トラックの試作一号車っす」

 水素燃料電池。走る発電所。

「外部給電機能は!?」 「ありますけど……災害時用っすよ? 最大出力で工場一つくらいなら動かせるバケモノっすけど」

 ビンゴだ。

「一ノ瀬! ケーブルだ! このトラックと工場の配電盤を直結しろ!」

 私の叫びに、一ノ瀬が一瞬で状況を理解し、弾かれたように動いた。 「六郷社長! 工業用高圧ケーブルを持ってきてください! ベルンハルトさん、接続作業の補助を!」

 現場が一気に動き出す。  若者運転手は目を白黒させている。 「え、えっ? 俺のトラックで工場動かすんすか!? マジで!?」 「特別ボーナスを出す! 言い値でいい! スイッチを入れろ!」

 太いケーブルが、トラックの給電ポートと、工場の分電盤に強引に接続される。

「接続完了! 炉の温度低下、限界まであと三十秒!」

 六郷社長が叫ぶ。

「いっけぇぇぇぇ!」

 若者がコンソールパネルを操作し、エンターキーを叩いた。

 ヒュオオオオオン……!

 トラックの内部で、水素と酸素が化学反応を起こす音が響く。  次の瞬間、バチバチッ! と火花が散り、工場の照明が一斉に点灯した。

「電力が……来た!」 「電圧安定! 出力十分です! 炉の温度、持ち直しました!」

 従業員たちから「うおおおお!」という歓声が上がる。  間一髪。闇が払われ、工場の心臓が再び鼓動を始めた。

「はは……すげえ。本当に動きやがった」  運転手の若者が、自分のトラックを見上げて呆然としている。

 私は額の汗を拭い、大きく息を吐いた。  ロゴが可愛いという理由だけで選んだトラックが、世界に数台しかない高出力発電車だった。この確率、我ながら恐ろしくなる。

 だが、これで終わりではない。

「……さて。次は害虫駆除だ」

 私はベルンハルト氏を見た。彼はニヤリと笑い、闇の中に視線を向けた。

「ええ。ネズミが一匹、裏口から逃げようとしていますが……残念ながら、袋の鼠のようです」

          *

 工場の裏手。  作業服を着て、工具袋を抱えた男が、フェンスを乗り越えようとしていた。電源を破壊した実行犯だろう。

「くそっ、なんで復旧しやがる……! 計画と違うぞ!」

 男は焦り、フェンスを諦めて、近くのマンホールから地下水道へ逃げようとした。  バールで重い蓋をこじ開けようとする。

 ガチン!

「……あ?」

 蓋が開かない。何かが上で引っかかっている。  男が隙間から上を覗くと、そこには太いタイヤが鎮座していた。

 それは、私たちが乗ってきた防弾ハイヤーの後輪だった。  工場に到着した際、運転手が「なんとなく」停めた場所が、偶然にも逃走経路であるマンホールの真上だったのだ。

「な、なんだよこれぇぇぇ!」

 男が絶望の声を上げた背後から、冷徹な声がかかった。

「……そこまでだ」

 振り返ると、月光を背に、巨大な影――ベルンハルト氏が立っていた。  その横には、エレナと、そして私がいる。

「サーペント社の使い走りか? 随分と荒っぽい仕事をするな」

 私が問うと、男は腰からサバイバルナイフを抜き、震える手で構えた。

「う、うるせえ! 俺はただ金で頼まれただけだ! 近寄るな!」

 ベルンハルト氏が一歩踏み出す。  男は叫び声を上げてナイフを突き出した。

 だが、その刃が届く前に。  男の足元が、ズルリと滑った。  先ほど、彼自身が破壊した配管から漏れ出ていた油。それを踏んでしまったのだ。

「あべしっ!?」

 男は漫画のように後頭部から転倒し、持っていたナイフが手から離れて宙を舞い――カアン! と澄んだ音を立てて、私の足元に突き刺さった。

「……危ないな」

 私は爪先でナイフを蹴り飛ばした。  ベルンハルト氏が呆れたように溜息をつき、気絶しかけている男の襟首を片手で掴み上げた。

「……自滅ですか。柏木様、貴方は本当に手がかからない護衛対象だ」

「運も実力のうち、と言いますからね」

 私はエレナに向かってウィンクをした。  彼女は安堵のあまり、その場にへたり込みそうになっていたが、その瞳には強い信頼の光が宿っていた。

「カシワギ様……貴方は、本当に魔法使いのようです」

「いえ、ただの強運な中年ですよ。……さあ、彼には洗いざらい吐いてもらいましょう。黒幕への『招待状』を書くためにね」

 工場の窓からは、復活した機械たちの稼働音が、力強く夜空に響いていた。  反撃の準備は整った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

私が張っている結界など存在しないと言われたから、消えることにしました

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私エルノアは、12歳になった時に国を守る結界を張る者として選ばれた。  結界を張って4年後のある日、婚約者となった第二王子ドスラが婚約破棄を言い渡してくる。    国を守る結界は存在してないと言い出したドスラ王子は、公爵令嬢と婚約したいようだ。  結界を張っているから魔法を扱うことができなかった私は、言われた通り結界を放棄する。  数日後――国は困っているようで、新たに結界を張ろうとするも成功していないらしい。  結界を放棄したことで本来の力を取り戻した私は、冒険者の少年ラーサーを助ける。  その後、私も冒険者になって街で生活しながら、国の末路を確認することにしていた。

処理中です...