リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

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第40章 カレーライスの爆発と、世界の強制収支

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ペントハウスのリビング。  シルヴィアを招き入れたことで、我が家のセキュリティシステムは誤作動を起こし、エアコンからは熱風が出たり冷風が出たりと大混乱だった。

「……すみません、すみません……」  シルヴィアは小さくなって謝り続けている。

「いいから、食べなさい」  ミナが出したのは、特製のカレーライスだ。スパイスの香りが食欲をそそる。

「……いただきます」  シルヴィアがスプーンを口に運ぶ。  その瞬間、スプーンが折れた。

「……あ」

「……ステンレスのスプーンが折れるなんて、どんな確率ですか」  一ノ瀬が頭を抱える。

 ミナが予備のスプーンを渡す。今度は手が滑ってカレー皿がひっくり返りそうになるが、私が横からナイスキャッチした。

「……食べるのも命がけだな」  私がスプーンで掬って、彼女の口元へ運んでやった。 「ほら、あーん」

「は、はい……あーん……」  シルヴィアがパクっと食べる。  途端に、彼女の表情が輝いた。

「……おいしい……! こんな美味しいもの、初めて食べました……!」  彼女の目から涙が溢れ出す。 「監査局の食堂は、いつもパンがカビてたり、スープに虫が入ってたりするから……」

 どんなブラック職場だ。

 お腹が満たされたところで、本題に入った。

「それで、シルヴィアちゃん。その『運命監査局』っていうのは、何なんだ?」  堂島さんが、警戒心を露わにしながら尋ねる。

 シルヴィアは姿勢を正した。

「……この世界には、『幸運』と『不運』の総量が決まっています。誰かが幸運を得れば、世界のどこかで誰かが不運になる。それが『運命保存の法則』です」

 彼女は私を指差した。

「でも、柏木誠さん。貴方はこの一年で、一生分どころか、数億人分の幸運を一人で消費しました。宝くじ、競馬、ビジネス、命拾い……。その歪み(ひずみ)が限界に達しています」

「歪みが起きると、どうなる?」

「……『強制精算(チャラ)』が発生します。貴方の周りで、大事故や天変地異が起きて、貴方が得たプラス分を、マイナスで埋め合わせようとするんです。……先ほどの植木鉢落下は、その予兆です」

 一ノ瀬の顔色が強張る。 「つまり、柏木様の幸運が続く限り、周囲に不幸をまき散らす爆弾になると?」

「はい。だから、私が派遣されました。私は『特異点型・不運保有者』。貴方のそばにいることで、貴方の幸運を中和し、世界のバランスを保つのが任務です」

 なるほど。  彼女がドジっ子なのは、天然ではなく、世界の不運を一手に引き受けているからなのか。  彼女は、歩く「身代わり地蔵」みたいなものだ。

「……じゃあ、君はずっと不運なままなのか?」  私が尋ねると、シルヴィアは寂しげに笑った。

「それが私の役目ですから。……でも、柏木さんのそばにいれば、私の不運も少しは中和されて、普通の生活ができるかもしれません。……その代わり、貴方の『豪運』は消えて、ただのオジサンになっちゃいますけど」

 究極の選択だ。  彼女を受け入れて「普通の人」に戻るか。  彼女を追い出して「豪運」を維持し、いつか来る破滅(カタストロフィ)に怯えるか。

 カレンが不安そうに私を見る。 「オーナー……豪運がなくなったら、映画も、会社も……」

 私はカレーの皿を置いた。  そして、シルヴィアの頭をポンと撫でた。

「……ちょうどよかった」

「え?」

「勝ち続けるのも飽きてきたところだ。それに、女の子一人を不幸にしたまま、自分だけ幸せになるなんて、寝覚めが悪い」

 私はニヤリと笑った。

「いいだろう、シルヴィア。俺の豪運、好きに使っていい。その代わり……君のその『超ド級の不運』、俺たちのチームの武器として使わせてもらうぞ」

「……ぶ、武器?」

「ああ。敵に塩を送る……じゃない、敵に『不運』を送るんだ。最強のデバフ使いとしてな」

 一ノ瀬がハッとして、それから悪魔的な笑みを浮かべた。 「……なるほど。競合他社のプレゼン前に彼女を送り込むだけで、相手は自滅しますね。……採用です」

 シルヴィアがポカンとしている。 「え、えっと……私、ここにいてもいいんですか? またお皿割っちゃいますよ?」

「割れたら買えばいい。……ようこそ、チーム・カシワギへ」

 こうして、最強の幸運男と、最凶の不運少女の奇妙な同居生活が始まった。  プラスとマイナスが打ち消し合うのか、それとも化学反応で大爆発するのか。  それは、神様にも予測できない。

 その夜。  私のベッドの足が折れた。  ……前途多難だ。
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