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第40章 カレーライスの爆発と、世界の強制収支
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ペントハウスのリビング。 シルヴィアを招き入れたことで、我が家のセキュリティシステムは誤作動を起こし、エアコンからは熱風が出たり冷風が出たりと大混乱だった。
「……すみません、すみません……」 シルヴィアは小さくなって謝り続けている。
「いいから、食べなさい」 ミナが出したのは、特製のカレーライスだ。スパイスの香りが食欲をそそる。
「……いただきます」 シルヴィアがスプーンを口に運ぶ。 その瞬間、スプーンが折れた。
「……あ」
「……ステンレスのスプーンが折れるなんて、どんな確率ですか」 一ノ瀬が頭を抱える。
ミナが予備のスプーンを渡す。今度は手が滑ってカレー皿がひっくり返りそうになるが、私が横からナイスキャッチした。
「……食べるのも命がけだな」 私がスプーンで掬って、彼女の口元へ運んでやった。 「ほら、あーん」
「は、はい……あーん……」 シルヴィアがパクっと食べる。 途端に、彼女の表情が輝いた。
「……おいしい……! こんな美味しいもの、初めて食べました……!」 彼女の目から涙が溢れ出す。 「監査局の食堂は、いつもパンがカビてたり、スープに虫が入ってたりするから……」
どんなブラック職場だ。
お腹が満たされたところで、本題に入った。
「それで、シルヴィアちゃん。その『運命監査局』っていうのは、何なんだ?」 堂島さんが、警戒心を露わにしながら尋ねる。
シルヴィアは姿勢を正した。
「……この世界には、『幸運』と『不運』の総量が決まっています。誰かが幸運を得れば、世界のどこかで誰かが不運になる。それが『運命保存の法則』です」
彼女は私を指差した。
「でも、柏木誠さん。貴方はこの一年で、一生分どころか、数億人分の幸運を一人で消費しました。宝くじ、競馬、ビジネス、命拾い……。その歪み(ひずみ)が限界に達しています」
「歪みが起きると、どうなる?」
「……『強制精算(チャラ)』が発生します。貴方の周りで、大事故や天変地異が起きて、貴方が得たプラス分を、マイナスで埋め合わせようとするんです。……先ほどの植木鉢落下は、その予兆です」
一ノ瀬の顔色が強張る。 「つまり、柏木様の幸運が続く限り、周囲に不幸をまき散らす爆弾になると?」
「はい。だから、私が派遣されました。私は『特異点型・不運保有者』。貴方のそばにいることで、貴方の幸運を中和し、世界のバランスを保つのが任務です」
なるほど。 彼女がドジっ子なのは、天然ではなく、世界の不運を一手に引き受けているからなのか。 彼女は、歩く「身代わり地蔵」みたいなものだ。
「……じゃあ、君はずっと不運なままなのか?」 私が尋ねると、シルヴィアは寂しげに笑った。
「それが私の役目ですから。……でも、柏木さんのそばにいれば、私の不運も少しは中和されて、普通の生活ができるかもしれません。……その代わり、貴方の『豪運』は消えて、ただのオジサンになっちゃいますけど」
究極の選択だ。 彼女を受け入れて「普通の人」に戻るか。 彼女を追い出して「豪運」を維持し、いつか来る破滅(カタストロフィ)に怯えるか。
カレンが不安そうに私を見る。 「オーナー……豪運がなくなったら、映画も、会社も……」
私はカレーの皿を置いた。 そして、シルヴィアの頭をポンと撫でた。
「……ちょうどよかった」
「え?」
「勝ち続けるのも飽きてきたところだ。それに、女の子一人を不幸にしたまま、自分だけ幸せになるなんて、寝覚めが悪い」
私はニヤリと笑った。
「いいだろう、シルヴィア。俺の豪運、好きに使っていい。その代わり……君のその『超ド級の不運』、俺たちのチームの武器として使わせてもらうぞ」
「……ぶ、武器?」
「ああ。敵に塩を送る……じゃない、敵に『不運』を送るんだ。最強のデバフ使いとしてな」
一ノ瀬がハッとして、それから悪魔的な笑みを浮かべた。 「……なるほど。競合他社のプレゼン前に彼女を送り込むだけで、相手は自滅しますね。……採用です」
シルヴィアがポカンとしている。 「え、えっと……私、ここにいてもいいんですか? またお皿割っちゃいますよ?」
「割れたら買えばいい。……ようこそ、チーム・カシワギへ」
こうして、最強の幸運男と、最凶の不運少女の奇妙な同居生活が始まった。 プラスとマイナスが打ち消し合うのか、それとも化学反応で大爆発するのか。 それは、神様にも予測できない。
その夜。 私のベッドの足が折れた。 ……前途多難だ。
「……すみません、すみません……」 シルヴィアは小さくなって謝り続けている。
「いいから、食べなさい」 ミナが出したのは、特製のカレーライスだ。スパイスの香りが食欲をそそる。
「……いただきます」 シルヴィアがスプーンを口に運ぶ。 その瞬間、スプーンが折れた。
「……あ」
「……ステンレスのスプーンが折れるなんて、どんな確率ですか」 一ノ瀬が頭を抱える。
ミナが予備のスプーンを渡す。今度は手が滑ってカレー皿がひっくり返りそうになるが、私が横からナイスキャッチした。
「……食べるのも命がけだな」 私がスプーンで掬って、彼女の口元へ運んでやった。 「ほら、あーん」
「は、はい……あーん……」 シルヴィアがパクっと食べる。 途端に、彼女の表情が輝いた。
「……おいしい……! こんな美味しいもの、初めて食べました……!」 彼女の目から涙が溢れ出す。 「監査局の食堂は、いつもパンがカビてたり、スープに虫が入ってたりするから……」
どんなブラック職場だ。
お腹が満たされたところで、本題に入った。
「それで、シルヴィアちゃん。その『運命監査局』っていうのは、何なんだ?」 堂島さんが、警戒心を露わにしながら尋ねる。
シルヴィアは姿勢を正した。
「……この世界には、『幸運』と『不運』の総量が決まっています。誰かが幸運を得れば、世界のどこかで誰かが不運になる。それが『運命保存の法則』です」
彼女は私を指差した。
「でも、柏木誠さん。貴方はこの一年で、一生分どころか、数億人分の幸運を一人で消費しました。宝くじ、競馬、ビジネス、命拾い……。その歪み(ひずみ)が限界に達しています」
「歪みが起きると、どうなる?」
「……『強制精算(チャラ)』が発生します。貴方の周りで、大事故や天変地異が起きて、貴方が得たプラス分を、マイナスで埋め合わせようとするんです。……先ほどの植木鉢落下は、その予兆です」
一ノ瀬の顔色が強張る。 「つまり、柏木様の幸運が続く限り、周囲に不幸をまき散らす爆弾になると?」
「はい。だから、私が派遣されました。私は『特異点型・不運保有者』。貴方のそばにいることで、貴方の幸運を中和し、世界のバランスを保つのが任務です」
なるほど。 彼女がドジっ子なのは、天然ではなく、世界の不運を一手に引き受けているからなのか。 彼女は、歩く「身代わり地蔵」みたいなものだ。
「……じゃあ、君はずっと不運なままなのか?」 私が尋ねると、シルヴィアは寂しげに笑った。
「それが私の役目ですから。……でも、柏木さんのそばにいれば、私の不運も少しは中和されて、普通の生活ができるかもしれません。……その代わり、貴方の『豪運』は消えて、ただのオジサンになっちゃいますけど」
究極の選択だ。 彼女を受け入れて「普通の人」に戻るか。 彼女を追い出して「豪運」を維持し、いつか来る破滅(カタストロフィ)に怯えるか。
カレンが不安そうに私を見る。 「オーナー……豪運がなくなったら、映画も、会社も……」
私はカレーの皿を置いた。 そして、シルヴィアの頭をポンと撫でた。
「……ちょうどよかった」
「え?」
「勝ち続けるのも飽きてきたところだ。それに、女の子一人を不幸にしたまま、自分だけ幸せになるなんて、寝覚めが悪い」
私はニヤリと笑った。
「いいだろう、シルヴィア。俺の豪運、好きに使っていい。その代わり……君のその『超ド級の不運』、俺たちのチームの武器として使わせてもらうぞ」
「……ぶ、武器?」
「ああ。敵に塩を送る……じゃない、敵に『不運』を送るんだ。最強のデバフ使いとしてな」
一ノ瀬がハッとして、それから悪魔的な笑みを浮かべた。 「……なるほど。競合他社のプレゼン前に彼女を送り込むだけで、相手は自滅しますね。……採用です」
シルヴィアがポカンとしている。 「え、えっと……私、ここにいてもいいんですか? またお皿割っちゃいますよ?」
「割れたら買えばいい。……ようこそ、チーム・カシワギへ」
こうして、最強の幸運男と、最凶の不運少女の奇妙な同居生活が始まった。 プラスとマイナスが打ち消し合うのか、それとも化学反応で大爆発するのか。 それは、神様にも予測できない。
その夜。 私のベッドの足が折れた。 ……前途多難だ。
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