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第1章 センター
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不思議なことだけど、噂を聞く前から知っていたような気がした。
三十一歳だとか国民に準ずる特権というような具体的なことは知らされていなくても、ホームにいた頃から仄めかすようなことは聞いていたような気がして、必死に記憶のページをめくる。
しかし、泥で汚れたサッカーボールや、地面に落ちて干からびたスズメの雛の死骸など、まったく関係のない映像が脈絡もなく思い出されるだけだった。
「国民に準ずるって、どういう意味だろう?」
タケルがつぶやいた。
「おそらく、外の人みたいなことができるって意味じゃないかな」
「バスの運転手やカフェの店員みたいなことができるのか」
この頃の僕たちは、外の人に対する具体的なイメージを描くとなると、バスの運転手やカフェの店員の姿がせいぜいだった。
いや、正直にいうと、それ以上のことを想像しようとしてはみたものの、この先は危険だと感じて尻込みした。
期待して、そうならなかったら落胆するだろうと、そのときに受けるショックを予想して、気持ちにセーブをかけていた。
当時まだ十三歳だった僕たちに、三十一歳は遠いところにあるように思え、まだまだ先のことだと感じていたせいもあり、この噂について深く話し合うことはなかった。
三十一歳だとか国民に準ずる特権というような具体的なことは知らされていなくても、ホームにいた頃から仄めかすようなことは聞いていたような気がして、必死に記憶のページをめくる。
しかし、泥で汚れたサッカーボールや、地面に落ちて干からびたスズメの雛の死骸など、まったく関係のない映像が脈絡もなく思い出されるだけだった。
「国民に準ずるって、どういう意味だろう?」
タケルがつぶやいた。
「おそらく、外の人みたいなことができるって意味じゃないかな」
「バスの運転手やカフェの店員みたいなことができるのか」
この頃の僕たちは、外の人に対する具体的なイメージを描くとなると、バスの運転手やカフェの店員の姿がせいぜいだった。
いや、正直にいうと、それ以上のことを想像しようとしてはみたものの、この先は危険だと感じて尻込みした。
期待して、そうならなかったら落胆するだろうと、そのときに受けるショックを予想して、気持ちにセーブをかけていた。
当時まだ十三歳だった僕たちに、三十一歳は遠いところにあるように思え、まだまだ先のことだと感じていたせいもあり、この噂について深く話し合うことはなかった。
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