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第1章 蜜の罠
10.噂
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年が明けて、元和十年(1624年)になった。
からっ風が容赦なく吹き抜ける、よく晴れた朝。
佐々木甚介は、馬場で汗を拭いながら、耳に飛び込んできた噂話を吟味していた。
「若様のお気に入り、お小姓の竹丸殿は、四方田家の縁戚だそうだな」
同僚の馬廻が、軽い調子で漏らした言葉だった。が、佐々木にとっては無視できぬ一言だった。
四方田家──藩の宿老である重臣の家系。
下級武士の次男として生まれ、澄長の寵愛ひとつで立場を跳ね上げたと見られていた竹丸が、そんな血筋とは。
佐々木の胸に、かすかな、しかし確かな希望の光が灯った。
厩に戻り、愛馬の背を拭いながら、佐々木は知らず知らずのうちに眉間に皺を刻んでいた。
あの無邪気な笑顔が脳裏に浮かぶ。
実千代の面影を宿した少年が、虎長の病んだ視線に狙われている今、重臣の縁戚の存在は単なる噂では済まされない。
竹丸の母方の祖母、すなわち四方田家の娘が、菅野家に嫁ぎ、その娘が織部家に嫁いだ結果、生まれたのが竹丸だという。
菅野家は百五十石の勘定方という小身。
重臣である四方田家とは、まさに雲泥の差だ。
たとえ妾腹の子とはいえ、何故、これほど家格に差のある家に嫁いだのか?
──何かしらの裏があるやもしれぬ。
佐々木は不可解な思いを抱き、確かめずにはいられなかった。
からっ風が容赦なく吹き抜ける、よく晴れた朝。
佐々木甚介は、馬場で汗を拭いながら、耳に飛び込んできた噂話を吟味していた。
「若様のお気に入り、お小姓の竹丸殿は、四方田家の縁戚だそうだな」
同僚の馬廻が、軽い調子で漏らした言葉だった。が、佐々木にとっては無視できぬ一言だった。
四方田家──藩の宿老である重臣の家系。
下級武士の次男として生まれ、澄長の寵愛ひとつで立場を跳ね上げたと見られていた竹丸が、そんな血筋とは。
佐々木の胸に、かすかな、しかし確かな希望の光が灯った。
厩に戻り、愛馬の背を拭いながら、佐々木は知らず知らずのうちに眉間に皺を刻んでいた。
あの無邪気な笑顔が脳裏に浮かぶ。
実千代の面影を宿した少年が、虎長の病んだ視線に狙われている今、重臣の縁戚の存在は単なる噂では済まされない。
竹丸の母方の祖母、すなわち四方田家の娘が、菅野家に嫁ぎ、その娘が織部家に嫁いだ結果、生まれたのが竹丸だという。
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たとえ妾腹の子とはいえ、何故、これほど家格に差のある家に嫁いだのか?
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佐々木は不可解な思いを抱き、確かめずにはいられなかった。
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