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第5章 暗転
4.未明
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二の丸へと戻る夜道、澄長の胸中には、地下牢で聞いた竹丸の絶叫が残響のように轟いていた。
目を閉じれば、針に貫かれ、白目を剥いて痙攣する愛しい者の姿が、瞼の裏にありありと浮かび上がる。
その光景は、澄長の心を引き裂く刃であると同時に、迷いを断ち切る牙ともなった。
──父上を欺くには、まず己が心を殺さねばならぬ。
あの場での降伏は、竹丸を即座の死から救うための苦肉の策。
しかし、もしここで、せっかく動き始めた歩みを止めれば、竹丸は永遠に父の玩具となり、山坂藩もまた狂気の底に沈むだろう。
居室に戻るやいなや、澄長は弥三郎と清太郎を近くに招き寄せた。
瞳には、鬼気迫る光が宿っていた。
「諦めるものか。あの時は、ああするしかなかった。だが、あの作戦は当初の計画どおり続行する。竹丸の叫びを聞いた今、もはや父上の悪行を許すことなどできぬ」
「若様……」
弥三郎が不安と安堵の入り混じった声を漏らす。
「だが、暴発すれば竹丸の命が危うい。此度は、藩の行く末と竹丸の命、その双方を天秤にかけて慎重に綱渡りをせねばならぬ」
澄長は拳を握りしめた。
竹丸一人のために藩を乱せば、多くの血が流れるか、家臣とその家族は路頭に迷う。
だが、あのような非道を働く者を藩主と仰ぎ続ければ、武士としての矜持は無論、人の道をも踏み外す。
「竹丸の犠牲を、無駄にはせぬ。あやつの苦しみを、藩全体を救う楔とする」
澄長は冷徹な決断を下した。
「弥三郎、四方田内蔵助に使いを送れ。私は父上の要求に屈したふりをしたが、明日の評定では予定通り父上に隠居を迫れ、と。そして清太郎は佐々木を呼べ。竹丸の救出は、あやつに託す」
二人の忠臣は深くうなずき、夜の闇の中へと駆け出していった。
目を閉じれば、針に貫かれ、白目を剥いて痙攣する愛しい者の姿が、瞼の裏にありありと浮かび上がる。
その光景は、澄長の心を引き裂く刃であると同時に、迷いを断ち切る牙ともなった。
──父上を欺くには、まず己が心を殺さねばならぬ。
あの場での降伏は、竹丸を即座の死から救うための苦肉の策。
しかし、もしここで、せっかく動き始めた歩みを止めれば、竹丸は永遠に父の玩具となり、山坂藩もまた狂気の底に沈むだろう。
居室に戻るやいなや、澄長は弥三郎と清太郎を近くに招き寄せた。
瞳には、鬼気迫る光が宿っていた。
「諦めるものか。あの時は、ああするしかなかった。だが、あの作戦は当初の計画どおり続行する。竹丸の叫びを聞いた今、もはや父上の悪行を許すことなどできぬ」
「若様……」
弥三郎が不安と安堵の入り混じった声を漏らす。
「だが、暴発すれば竹丸の命が危うい。此度は、藩の行く末と竹丸の命、その双方を天秤にかけて慎重に綱渡りをせねばならぬ」
澄長は拳を握りしめた。
竹丸一人のために藩を乱せば、多くの血が流れるか、家臣とその家族は路頭に迷う。
だが、あのような非道を働く者を藩主と仰ぎ続ければ、武士としての矜持は無論、人の道をも踏み外す。
「竹丸の犠牲を、無駄にはせぬ。あやつの苦しみを、藩全体を救う楔とする」
澄長は冷徹な決断を下した。
「弥三郎、四方田内蔵助に使いを送れ。私は父上の要求に屈したふりをしたが、明日の評定では予定通り父上に隠居を迫れ、と。そして清太郎は佐々木を呼べ。竹丸の救出は、あやつに託す」
二人の忠臣は深くうなずき、夜の闇の中へと駆け出していった。
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