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第6章 血戦
4.逆転(1)
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澄長が馬廻たちに周りを囲まれ、万事休すと思った、その瞬間である。
「控えよ!」
雷鳴のごとき一喝が広間を揺るがした。
入口の襖が大きく開け放たれ、そこに立っていたのは、佐々木であった。
「殿、逆賊はそちらでございます!」
「貴様、血迷ったか?」
虎長は眉ひとつ動かさず、冷ややかに佐々木を見た。
「何の証拠があって我を逆賊と呼ぶ。主への狼藉、万死に値するぞ」
「証拠なら、ここにある!」
佐々木が合図を送ると、その背後から、加納と野村に両脇を抱えられ、宮田に背中を支えられた人影が、足を引きずりながら現れた。
織部竹丸である。
その姿を見た瞬間、場内の空気が凍りついた。
竹丸は、かろうじて息をしているだけの死体のようだった。
顔は漆喰のように白く、唇は灰色で、虚ろな目は焦点を失っている。
そして何より、素肌の上にまとっているのは一枚の羽織だけという、武士が人前に出るべき姿ではなかった。
「各々方、ご覧ください!」
佐々木は叫び、竹丸が身に着けている羽織を、腕まで大きくはだけさせた。
「ひッ……!」
重臣の誰かが、短い悲鳴を上げた。
そこに曝されたのは、無数の鞭の跡、鬱血痕、そして、下腹部の惨状であった。
「これが、殿のなさった悪行の証でございます!」
重臣たちは息を呑み、ある者は目を覆った。
竹丸の陰茎は無惨に腫れ上がり、そのカリ首には、銀色の太い縫い針が、横一文字に貫通したまま残されていた。
傷口からは血が流れ、内出血でまだらに紫色に変色している。
「……な、なんとむごい……」
「針が、刺さったままで……」
「これが、人のすることか……」
竹丸は、衆人環視の中、己の最も恥ずべき姿を晒されながらも、朦朧とした意識の中で、最後の力を振り絞った。
彼は震える指で、上座の虎長を指差した。
「……お、に……」
蚊の鳴くような声だった。
だが、その一言は、その場にいる全員の胸に残る人の心を貫いた。
竹丸はそのまま、糸が切れたように崩れ落ち、加納らの腕に抱きとめられた。
広間に静寂が落ちた。
「控えよ!」
雷鳴のごとき一喝が広間を揺るがした。
入口の襖が大きく開け放たれ、そこに立っていたのは、佐々木であった。
「殿、逆賊はそちらでございます!」
「貴様、血迷ったか?」
虎長は眉ひとつ動かさず、冷ややかに佐々木を見た。
「何の証拠があって我を逆賊と呼ぶ。主への狼藉、万死に値するぞ」
「証拠なら、ここにある!」
佐々木が合図を送ると、その背後から、加納と野村に両脇を抱えられ、宮田に背中を支えられた人影が、足を引きずりながら現れた。
織部竹丸である。
その姿を見た瞬間、場内の空気が凍りついた。
竹丸は、かろうじて息をしているだけの死体のようだった。
顔は漆喰のように白く、唇は灰色で、虚ろな目は焦点を失っている。
そして何より、素肌の上にまとっているのは一枚の羽織だけという、武士が人前に出るべき姿ではなかった。
「各々方、ご覧ください!」
佐々木は叫び、竹丸が身に着けている羽織を、腕まで大きくはだけさせた。
「ひッ……!」
重臣の誰かが、短い悲鳴を上げた。
そこに曝されたのは、無数の鞭の跡、鬱血痕、そして、下腹部の惨状であった。
「これが、殿のなさった悪行の証でございます!」
重臣たちは息を呑み、ある者は目を覆った。
竹丸の陰茎は無惨に腫れ上がり、そのカリ首には、銀色の太い縫い針が、横一文字に貫通したまま残されていた。
傷口からは血が流れ、内出血でまだらに紫色に変色している。
「……な、なんとむごい……」
「針が、刺さったままで……」
「これが、人のすることか……」
竹丸は、衆人環視の中、己の最も恥ずべき姿を晒されながらも、朦朧とした意識の中で、最後の力を振り絞った。
彼は震える指で、上座の虎長を指差した。
「……お、に……」
蚊の鳴くような声だった。
だが、その一言は、その場にいる全員の胸に残る人の心を貫いた。
竹丸はそのまま、糸が切れたように崩れ落ち、加納らの腕に抱きとめられた。
広間に静寂が落ちた。
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