59 / 60
第6章 血戦
7.夜明け
しおりを挟む
騒乱が収まり、広間は重苦しい静寂に包まれた。
虎長は、警護の者に付き添われ、静かに引き下がっていった。
藤田重政はその場で止血の処置を受けると、縄を打たれて連行されていく。
澄長は竹丸に駆け寄り、意識を失ったままの竹丸を両腕でしっかりと抱きしめた。
彼の顔は、安堵と、深い悲しみ、そして新たな重責の決意によって歪んでいた。
四方田内蔵助が、粛々と評定の場を取り仕切った。
「よって、本日をもって、殿は病のため隠居なされ、家督は若様が継承されることと相成った」
重臣たちは口々に澄長を「殿」と呼び、一斉に頭を下げた。
「おもてを上げよ」
澄長は、竹丸を弥三郎と清太郎に預けると、立ち上がった。
その声は震えていたが、覇気があった。
十万の領民と、千の家臣とその家族の命運。
そして、この悲惨な闘いの犠牲となった竹丸の忠義を、すべて背負う覚悟を決めた、新しい藩主の誕生であった。
「……まずは竹丸の手当てを頼む。そして、藩内に不穏な動きを見せる者、父の乱行に積極的に加担した者を、厳正に処分する。この藩の膿を出し切らねばならぬ」
澄長の決意は、冷徹な理性に裏打ちされていた。
彼の抱く怒りと憎悪は、個人的な復讐ではなく、藩を清めるための原動力へと変わっていた。
山坂藩を覆っていた長い夜の闇が、ついに明けたのである。
その日のうちに、虎長は本丸を退去し、西の丸にある隠居所に移った。
虎長の父──今は亡き先代が、晩年を過ごした屋敷であり、元藩主が余生を送る住まいとして相応しい格式を備えていたが、周囲をぐるりと兵で囲まれ、実質的な幽閉であった。
藤田は切腹を申し出、その日の夕刻、庭の隅で果てた。
幕府への報告は、病気療養による隠居として滞りなく済まされ、澄長の家督相続が認められた。
奇しくも、山坂藩の新しい時代の幕開けに呼応するように、元和十年の二月三十日をもって、元号は寛永に改められた。
虎長は、警護の者に付き添われ、静かに引き下がっていった。
藤田重政はその場で止血の処置を受けると、縄を打たれて連行されていく。
澄長は竹丸に駆け寄り、意識を失ったままの竹丸を両腕でしっかりと抱きしめた。
彼の顔は、安堵と、深い悲しみ、そして新たな重責の決意によって歪んでいた。
四方田内蔵助が、粛々と評定の場を取り仕切った。
「よって、本日をもって、殿は病のため隠居なされ、家督は若様が継承されることと相成った」
重臣たちは口々に澄長を「殿」と呼び、一斉に頭を下げた。
「おもてを上げよ」
澄長は、竹丸を弥三郎と清太郎に預けると、立ち上がった。
その声は震えていたが、覇気があった。
十万の領民と、千の家臣とその家族の命運。
そして、この悲惨な闘いの犠牲となった竹丸の忠義を、すべて背負う覚悟を決めた、新しい藩主の誕生であった。
「……まずは竹丸の手当てを頼む。そして、藩内に不穏な動きを見せる者、父の乱行に積極的に加担した者を、厳正に処分する。この藩の膿を出し切らねばならぬ」
澄長の決意は、冷徹な理性に裏打ちされていた。
彼の抱く怒りと憎悪は、個人的な復讐ではなく、藩を清めるための原動力へと変わっていた。
山坂藩を覆っていた長い夜の闇が、ついに明けたのである。
その日のうちに、虎長は本丸を退去し、西の丸にある隠居所に移った。
虎長の父──今は亡き先代が、晩年を過ごした屋敷であり、元藩主が余生を送る住まいとして相応しい格式を備えていたが、周囲をぐるりと兵で囲まれ、実質的な幽閉であった。
藤田は切腹を申し出、その日の夕刻、庭の隅で果てた。
幕府への報告は、病気療養による隠居として滞りなく済まされ、澄長の家督相続が認められた。
奇しくも、山坂藩の新しい時代の幕開けに呼応するように、元和十年の二月三十日をもって、元号は寛永に改められた。
3
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる