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四章
四十二話
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虎之助は終始混乱していた。
――今日も炭を売ってある程度売れたら暗くなる前に帰るつもりだった。夕食の準備をしなくてはいけないし、病気で臥せている母の世話だってしなくてはいけない。しかし、今日に限って売れ行きが良くない。さらに途中から雨が降ってきてしまった。そうなってしまってはもう時間の無駄である。
そう思い、虎之助はさっさと帰る準備を進めていたが、そんな虎之助を突如腹痛が襲った。
経験したことの無い痛みに道端であるにもかかわらず悶えてしまう。
それをあろうことか、上等な着物を着て歩く姉弟に見つかってしまった。
そんな姿なんて誰にも見られたくなかったし、誰の助けも借りたくなかった。虎之助が今まで会ってきた人は親切を盾に法外な要求をしてくる人ばかりで、この姉弟もきっとそうに違いない、と考えたからであった。
しかし、この姉弟、特に姉の方は何だか他の人とは違った。
何がどう違うかと言われると咄嗟に言葉を重ねることは出来なかったが、人を無条件に包み込むその空気感に虎之助は自然と警戒を解いていた。
そして、気がつくと医者のところまで運んでもらうだけでなく、食事と寝床まで提供してくれた。
その時にようやく虎之助は彼女がどんな人物であるかを理解した。
――この瞳のせいで忌み子と言われ誰からも疎まれてきた。かといって、それを跳ね除けるほどの権力もなければお金もない。〝絶対に諦めるんじゃないよ〟と母に耳にたこができるほど言われたから、何が起きようとも諦めない。気持ちは常に前を向いているつもりだ。……しかし、それでも、俺は齢十三にして、限界があることを知った。何をどうやって努力をしようとも生まれてきた時から人とは土俵が違い過ぎる。これからは冷遇も甘んじて受け入れよう。それが俺の運命なのだろう。
八千代に会うまではそう考えていた。
――どうして彼女はこんな俺なんかにも優しくしてくれるのだろうか。親切にしたところで何も得なんてないというのに……。ああ、頭がぐるぐる回って考えても分からない。いっそ、他の人みたいに冷たく扱ってくれれば、こんなに悩まなくて済むのに、どうして……。
八千代と話していくうちにそう考えるようになった。
名を八千代というその女性は聞けば、虎之助よりも年下だという。
しかし、温かく包み込むような雰囲気は十の歳とは思えない厚みと深みがあった。そして、その温かさは虎之助の冷え切った心を少しずつ溶かす。同じ歳の人間でここまでストレスを与えずに人の心に寄り添うことが出来る人間もいないのではないか、と思ってしまう。八千代と一緒にいることにそれほどの安心感と充実感を得ていたのだ。
そして、今では……。
――今ならはっきりと分かる。俺は八千代のことが好きだ。会ってまだ一日と経っていないかもしれないが、そう思い、感じることが出来たのは紛れもない事実だ。幸い八千代も俺の事を好きでいてくれている。俺は八千代のために生きる。
虎之助は確固たる覚悟をひそかに決め、柔らかい布団に包まり、緩んだ頬をそのままに身を悶えさせる。
――今日も炭を売ってある程度売れたら暗くなる前に帰るつもりだった。夕食の準備をしなくてはいけないし、病気で臥せている母の世話だってしなくてはいけない。しかし、今日に限って売れ行きが良くない。さらに途中から雨が降ってきてしまった。そうなってしまってはもう時間の無駄である。
そう思い、虎之助はさっさと帰る準備を進めていたが、そんな虎之助を突如腹痛が襲った。
経験したことの無い痛みに道端であるにもかかわらず悶えてしまう。
それをあろうことか、上等な着物を着て歩く姉弟に見つかってしまった。
そんな姿なんて誰にも見られたくなかったし、誰の助けも借りたくなかった。虎之助が今まで会ってきた人は親切を盾に法外な要求をしてくる人ばかりで、この姉弟もきっとそうに違いない、と考えたからであった。
しかし、この姉弟、特に姉の方は何だか他の人とは違った。
何がどう違うかと言われると咄嗟に言葉を重ねることは出来なかったが、人を無条件に包み込むその空気感に虎之助は自然と警戒を解いていた。
そして、気がつくと医者のところまで運んでもらうだけでなく、食事と寝床まで提供してくれた。
その時にようやく虎之助は彼女がどんな人物であるかを理解した。
――この瞳のせいで忌み子と言われ誰からも疎まれてきた。かといって、それを跳ね除けるほどの権力もなければお金もない。〝絶対に諦めるんじゃないよ〟と母に耳にたこができるほど言われたから、何が起きようとも諦めない。気持ちは常に前を向いているつもりだ。……しかし、それでも、俺は齢十三にして、限界があることを知った。何をどうやって努力をしようとも生まれてきた時から人とは土俵が違い過ぎる。これからは冷遇も甘んじて受け入れよう。それが俺の運命なのだろう。
八千代に会うまではそう考えていた。
――どうして彼女はこんな俺なんかにも優しくしてくれるのだろうか。親切にしたところで何も得なんてないというのに……。ああ、頭がぐるぐる回って考えても分からない。いっそ、他の人みたいに冷たく扱ってくれれば、こんなに悩まなくて済むのに、どうして……。
八千代と話していくうちにそう考えるようになった。
名を八千代というその女性は聞けば、虎之助よりも年下だという。
しかし、温かく包み込むような雰囲気は十の歳とは思えない厚みと深みがあった。そして、その温かさは虎之助の冷え切った心を少しずつ溶かす。同じ歳の人間でここまでストレスを与えずに人の心に寄り添うことが出来る人間もいないのではないか、と思ってしまう。八千代と一緒にいることにそれほどの安心感と充実感を得ていたのだ。
そして、今では……。
――今ならはっきりと分かる。俺は八千代のことが好きだ。会ってまだ一日と経っていないかもしれないが、そう思い、感じることが出来たのは紛れもない事実だ。幸い八千代も俺の事を好きでいてくれている。俺は八千代のために生きる。
虎之助は確固たる覚悟をひそかに決め、柔らかい布団に包まり、緩んだ頬をそのままに身を悶えさせる。
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