【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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五章

五十三話

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 ――ありがとう、八千代。これで俺はもう何も残すことなく、この世を去ることが出来る。
 八千代に伝え、考えることを放棄し目を閉じる。
 ――それは私も同じよ。……でも、あなたにはまだやらなきゃいけないことがある。これから、あなたがしなくてはいけないことは……。
 八千代がそう言うと同時に虎之助の瞼の裏に映像が流れ込む。
 それは心臓と頭を撃ち抜かれ死んでいる北条大雅とそれを見て涙を流す桜井美波、そして、血走った眼で高笑いをする先生の姿であった。
 ――これは……。
 ――この後に起こる未来よ。
 ――……君は、一体……。
 ――私には、生まれつき他の人とは違う力があるの。まあ、生前も死後もその力については結局良く分からなかったのだけれどね。
 八千代が苦笑いを浮かべる。

 ――これからその力使ってあなたに桜井美波さんと話す時間をあげる。

 間違いなく八千代は生まれ変わり美波になった。
 その時点で八千代という人物の魂は上書きされている。しかし、それでも八千代はこうして虎之助の前に現れた。
 機序や原理は分からない。
 しかし、目的ははっきりしていた。

 〝虎之助にこれから起こることを止めてもらうこと〟

 ――だから……その先はもう言わなくても分かるわよね?
 ――…………うん。分かってる。俺はせめてもの罪滅ぼしをしないといけないからな。
 重ねていた体を剥がし、虎之助が地面に目を落とす。
 ――……ただ、それをしてしまったらもう二度と君には会えないかも知れない。確かではないが……おそらく、俺の魂は消滅してしまうから。
 目に力を込め、零れそうになる涙を抑える。
 八千代に訊きたいことは訊けた。気持ちを確かめることができた。最後に抱きしめることもできた。後悔はもうない。
 その思いを胸に抱えながら、しかしそれでも虎之助は目の前に広がる現実を放すことに躊躇いを感じていた。
 ――ふふふ……虎之助はやっぱり馬鹿ね。
 八千代が口を抑えながら笑い、言葉を継ぐ。
 ――そんなこと、私が一番良く分かっているわよ。分かった上で言っているの。
 虎之助の頭にクエスチョンマークが飛び交う。
 そんな虎之助を尻目に八千代は言葉を継ぐ。

 ――私も一緒に消滅する。

 途端、虎之助の表情が驚愕に変わる。
 ――君はそんなことしなくても、また生まれ変わればいいじゃないか。桜井美波に生まれ変わったみたいに……俺のことは気にしなくても大丈夫だ。
 戸惑いと悲しみの表情で八千代に訊く。
 その表情を見て、八千代が眉尻を下げる。
 ――確かに、世の理を考えるとそれが自然なのかもしれない。でもそれ以上に、私はあなたと一緒にいたいのよ。
 その言葉に虎之助は下唇を強く嚙み、瞳から涙が零れる。
 ――それに、そもそも消滅したとして、本当に生まれ変われないの? その先は何にもないの? 誰かが証明した? 
 八千代が不敵な笑みを浮かべながら胸を張る。
 ――ね。誰にもわからないでしょう、そんなこと。
 虎之助はもはや涙をこらえることをしなかった。止めてしまったらそれこそ、自分の気持ちに嘘をついてしまう気がしたのだ。
 ひとしきり涙を流した後、一度深呼吸をし気持ちを整える。
 ――分かった。八千代。改めて誓うよ。
 八千代を見据える。虎之助にもはや迷いはなかった。
 ――俺はもうお前を手放さない! 俺とお前は魂が消滅しようが、ずっと一緒だ!
 ――……うん!
 そして、もう一度唇を重ねる。
 互いの感触を確かめるようにゆっくりと舌を動かす。
 柔らかい感触に涙が混じる。
 八千代の鼻から抜ける息が心地よい。
 名残惜しさを感じながら離すと、虎之助は笑みを浮かべ言う。
 ――よし、じゃあ、行ってくる。
 ――行ってらっしゃい。
 八千代も涙を流しながら満面の笑みを浮かべる。
 虎之助は天に昇りそうになる体を上から抑えつけ、再び大雅の中に戻った。
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