【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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五章

五十五話

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 ――桜井美波、聞こえているか?
 再度美波の頭の中に響く。
 そして同時に先ほどまで見ていた光景が消え、辺りが暗くなる。
 まるで狭いところに閉じ込められてしまった感覚に驚きはしたが、なぜか怖くはなかった。むしろ温かい毛布に包まれているかの如く優しさを感じていた。
 暗闇の中、一筋の光が灯る。
 その光と声の主は間違いなく大雅だった。
 しかし、美波はその正体が大雅ではないことを感覚的に理解していた。
 ――…………虎之助さん、ですか?
 美波は声帯を震わせたわけでもなく、口や舌を動かしたわけでもなかったが、しっかり伝えられているのが分かる。
 ――そうだ。
 直接流れ込んでくる音声に多少の気持ち悪さを覚えたが、それよりも今のこの現状の方が気になっていた。
 ――これは……。
 ――八千代の力を少し借りてる。そう長くはもたないがな。
 美波が目を見張る。
 ――八千代さんと、会えたんですね。
 ――……ああ。
 ――良かったです。
 虎之助と八千代の過去とその想いを知っている。
 その分だけその事実を知れた美波の心に嬉しさが充満していた。
 しかし、それだけに一つの疑問が浮かび上がる。
 ――でも、それならそのまま一緒に成仏すれば良かったんじゃないんですか?
 思ったことを素直に訊く。
 八千代に会えたということは虎之助自身の後悔はもう解消されたのだろう。
 さらに言えば、そのまま八千代とその後を文字通り永遠にともにすることだって可能だったかもしれない。なのに、なぜ再び現世に戻ってきたのだろうか。
 それが美波には不思議で仕方なかった。
 ――俺もそうしたかったんだがな……まだ一つやらなきゃいけないことがあるのを八千代に教えてもらってな。
 そう言って、虎之助が黙る。
 目も体も動かせない暗闇で沈黙は純粋な恐怖でしかなかった。
 ――あの、それは……。
 ――北条大雅の体を割と長い期間借りていたこと、それを言わずに騙していたこと、自分の気持ちだけを考えてお前達のことを蔑ろにしてしまったこと。おそらくこれが最後の機会だろうから、改めて謝る。本当に申し訳なかった。
 虎之助は美波の言葉を遮って言う。
 言葉だけで姿形は見えていないにもかかわらず、深々と頭を下げているのが分かる。短い付き合いだが、この人はそういう人だ。
 ――いえ、そんなことは……それより。
 ――本来ならば北条大雅はここで死ぬ運命だった。俺もお前も関与しないもう一つの未来。そこで北条大雅はお前を撥ねた車を運転していたのが先生だったことを突き止め、自首するよう勧めたが、先生はそれを聞き入れず、北条大雅を殺した。俺とお前が関与した今、過程は変わってしまったが、それでも収束する未来に変化はない。
 美波が否定するがそれを遮って、虎之助は一方的に話し始める。
 もう一つの未来?
 大雅が殺される?
 収束する未来に変化はない?
 美波には虎之助が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。というより、銃弾が放たれ、今まさにその危機にあるこんな時に、そんな途方もないことを言われても戸惑いが広がるだけであった。
 ――それを変えることは絶対にしてはいけないこと。もし、それをしてしまえば、大雅を取り巻く人間、ないしは環境そのものが変わってしまうからな。
 虎之助は話すことを止めない。
 どうやら美波の意見や考えは行動の判断に含まれていないらしい。
 ――ただ、それでも俺はお前と同じで北条大雅にはもっと生きていて欲しいと願っている。俺に出来ることはこれくらいしかないけれど、許してくれると嬉しい。それで……。
 ――ちょ、ちょっと、待ってください!
 美波が混乱した頭を回転させ言葉を絞りだす。
 ――未来がどうとか、それを変えるだとか言われても、話が飛躍しすぎて私には良く分かりません! なので、とりあえず、何をどうすれば大雅を助けられるんですか⁉ それだけ簡潔に教えてください!
 これ以上にないほどの思念を送ると、美波の頭が若干の熱を持つ。
 言葉ではなくその熱が自身の思いを伝えられる唯一にして最大の手段であることを美波は知っていた。
 ――……ごくり。
 虎之助がひとつ唾液を飲み込む音がはっきりと聞こえた。
 ――いいか。一度しか言わないから良く聞け。
 そう言って、虎之助が言葉を継ぐ。
 ――放たれる銃弾は二発。一発目はすでに放たれ北条大雅の腹部に命中する。二発目は北条大雅を確実に殺すために放たれ、それは頭部に命中する。その二発を防ぐことが出来れば先生が北条大雅を殺すことはできない。
 虎之助の言葉に美波が驚きを隠せないが、それを無視して虎之助はさらに言葉を継ぐ。
 ――一発目は俺が何とかして防ぐ。お前の役目は二発目を防ぐために北条大雅を起こすことだ。
 美波の頭の中に籠る熱が高くなっていく音がする。
 美波を焦らせるその音は同時に迷いを断ち切るためのファンファーレであった。
 ――分かったな?
 念を押すように虎之助が圧をかける。
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