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五章
五十六話
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いきなりの出来事に戸惑いを隠せないことは事実である。
いまだ頭をフルで回転させているが、良案は思いつかない。
私に出来るのだろうか、という不安は過る。
その時、美波の脳裏に大雅との日々を記したネガフィルムが凄まじい速度で映る。
初めて会った時、初めて話した時、初めて遊んだ時。
自分から初めて好きだと思った人、自分から初めて告白した人、自分から初めて唇を重ね、体を重ねた人。
その瞬間瞬間を切り取った写真が時系列順にぐるぐると美波の頭の中を回る。
そんな大雅が自分のせいで死んでしまう。
それだけは絶対に嫌だ。
先程のファンファーレが波状攻撃を仕掛けるように鳴り響く。
美波の心はすでに決まっていた。
――分かりました。やります。
こうは言ったものの具体的な案はひとつも浮かんでいなかった。見切り発車も言いところであった。
――自分はすでに死んでいる身だ。最悪の場合……自分の身を犠牲にしてでも大雅を守る。
美波の覚悟は決まっていた。
激しい痛みと冷たくなっていく体、遠のく意識に最後の言葉を残すこともできない悲しみ。
もうあんな思いは二度としたくない。
最終的に消えてなくなる運命。
その運命に変わりはない。
水族館の時は思ってもいないことを勢いに任せて言ってしまった。
こんな関係のまま終わりなんて絶対に嫌だ。
大雅とはきちんとお別れをしたい。
生まれてきてくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
私と一緒にいてくれてありがとう。
これからは自分のやりたいことをやって、幸せになってね。
本当にありがとうございました。
それを伝えられた段階で私の後悔は完全になくなるだろう。
美波は朧気ながら確信していた。
――虎之助さん。
――ん? なんだ?
――最後に、ひとつ、訊いてもいいですか?
美波が虎之助に訊く。
――未来を変えることは絶対にしてはいけないことだ、とあなたは言いました。……それをしてしまうと、あなたはどうなるんですか?
――俺か? そうだな……現世にとどまり続けた挙句、やってはいけないことをやろうとしているのだから……おそらく、この魂が生まれ変わることはなく、消滅してしまうだろうな。
虎之助はまるで冗談でも言うかのような軽口で何事もないかのように言う。
――…………。
――お前が気にすることはないさ。
虎之助は自嘲気味に言い、美波はそこに得も言われぬ寂しさを感じ取っていた。
――気になっていたことを訊くことが出来た。最後に八千代と話すことも出来た。だから、この魂が消滅しようが、俺にもう後悔はないんだ。
清々しいほどに晴れた声音で虎之助が言う。
そこに嘘偽りは一片も混じってはおらず、その全てが虎之助の本心であった。
――お前に俺自身の経験から老婆心ながら伝えておく。
虎之助が一度、思い切り息を吸い込む。
――言いたいことがあるのなら、躊躇するな。その時に伝えるんだ。いいか? 忘れるなよ。
その言葉を最後に頭から虎之助が消える。
いまだ頭をフルで回転させているが、良案は思いつかない。
私に出来るのだろうか、という不安は過る。
その時、美波の脳裏に大雅との日々を記したネガフィルムが凄まじい速度で映る。
初めて会った時、初めて話した時、初めて遊んだ時。
自分から初めて好きだと思った人、自分から初めて告白した人、自分から初めて唇を重ね、体を重ねた人。
その瞬間瞬間を切り取った写真が時系列順にぐるぐると美波の頭の中を回る。
そんな大雅が自分のせいで死んでしまう。
それだけは絶対に嫌だ。
先程のファンファーレが波状攻撃を仕掛けるように鳴り響く。
美波の心はすでに決まっていた。
――分かりました。やります。
こうは言ったものの具体的な案はひとつも浮かんでいなかった。見切り発車も言いところであった。
――自分はすでに死んでいる身だ。最悪の場合……自分の身を犠牲にしてでも大雅を守る。
美波の覚悟は決まっていた。
激しい痛みと冷たくなっていく体、遠のく意識に最後の言葉を残すこともできない悲しみ。
もうあんな思いは二度としたくない。
最終的に消えてなくなる運命。
その運命に変わりはない。
水族館の時は思ってもいないことを勢いに任せて言ってしまった。
こんな関係のまま終わりなんて絶対に嫌だ。
大雅とはきちんとお別れをしたい。
生まれてきてくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
私と一緒にいてくれてありがとう。
これからは自分のやりたいことをやって、幸せになってね。
本当にありがとうございました。
それを伝えられた段階で私の後悔は完全になくなるだろう。
美波は朧気ながら確信していた。
――虎之助さん。
――ん? なんだ?
――最後に、ひとつ、訊いてもいいですか?
美波が虎之助に訊く。
――未来を変えることは絶対にしてはいけないことだ、とあなたは言いました。……それをしてしまうと、あなたはどうなるんですか?
――俺か? そうだな……現世にとどまり続けた挙句、やってはいけないことをやろうとしているのだから……おそらく、この魂が生まれ変わることはなく、消滅してしまうだろうな。
虎之助はまるで冗談でも言うかのような軽口で何事もないかのように言う。
――…………。
――お前が気にすることはないさ。
虎之助は自嘲気味に言い、美波はそこに得も言われぬ寂しさを感じ取っていた。
――気になっていたことを訊くことが出来た。最後に八千代と話すことも出来た。だから、この魂が消滅しようが、俺にもう後悔はないんだ。
清々しいほどに晴れた声音で虎之助が言う。
そこに嘘偽りは一片も混じってはおらず、その全てが虎之助の本心であった。
――お前に俺自身の経験から老婆心ながら伝えておく。
虎之助が一度、思い切り息を吸い込む。
――言いたいことがあるのなら、躊躇するな。その時に伝えるんだ。いいか? 忘れるなよ。
その言葉を最後に頭から虎之助が消える。
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