【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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四章

三十七話

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 暫し頭を撫でた後、八千代は虎之助に訊く。
「それで、虎之助。ご飯を食べながらでも構わないのだけれど、あそこで何をしていたのか、教えてもらえるかしら?」
 訊かれた虎之助の体が一度跳ねる。
 まだ緊張しているのか、何かをしたり訊いたりする度に怯えるような反応を見せる。過去に何があったのかまでは分からないが、相当な傷が心の中に存在していることは自明の理であった。
 顔を俯かせたまま、虎之助はそれ以降の反応を示さない。
「おい、お前。何か言ったらどうなんだ?」
 痺れを切らした寛大が虎之助を睨む。
「寛大、止めなさい」
 それを八千代が制する。
「話しづらければ話さなくても大丈夫。でも、家がどこなのかだけは教えてもらえる? きっとご両親は心配しているだろうから」
 八千代が努めて優しく言葉を落とす。
 その言葉に虎之助がかき込んでいた茶碗を置き、おもむろに口を開く。
「……家は、山の中。母は、病で、床に臥せている。父は……もう、いない」
 たどたどしく小さい声でやけに息継ぎの入る話し方であったが、それでも長い前髪の間から見える色の違う瞳には力があった。同時に悲しさや苦しさ、辛さもその瞳には同居していた。
 
 ――忌み子と除け者にされ、日々を必死に生きながら、その先の果たすべき役割をしっかりと見据えた瞳。
 
 八千代はそんな瞳を見るのが初めてだった。
 自分の親族も、口うるさく世話をしてくれる爺も、町で働く人々達にも、そんな瞳をした人はいなかった。
「……そうなの」
 若干の驚きと戸惑いを感じながら八千代はさらに思う。
 
 ――虎之助はまだ幼い。なのに、どんな人生を送ってきたらこんな瞳をすることが出来るのだろう。
 
 その時すでに八千代は偶然町で会い、助けただけの少年虎之助に興味を惹かれていた。
 そこにまだ恋とか愛とかの感情はなく、ただただ好奇心を刺激されたのだった。
 
 ――もっとこの子のことが知りたい。もっとこの子が何を考えているのか、分かってあげたい。この子の心に近づきたい。
 
 その感情のみが八千代の中を占拠しており、その他の雑多は思考の外であった。
「虎之助は今いくつ?」
「……十三」
「じゅ、十三⁉ 私より三つも上じゃない⁉」
 八千代が心底驚き、目を見開き改めて虎之助の体を見る。
 確かにやせ細った腕と頬に小柄な体躯は到底十三には見えない。
 女性でありながら余程八千代の方が力を出せそうな見た目をしている。
「……悪かったな、小さくて」
 八千代が口を開けたまま驚いていると、虎之助が恨めしそうな目をして言う。 
 切れ長の目が芯の強さを強調するが、八千代にはその目すらも好奇心の対象であった。
「いや、そんなことはないわよ。小さくてもそれはそれで……それはそれで……ん?」
 八千代はフォローをしようと言葉を重ねようとするが、自分で言っていて、訳が分からなくなってしまった。
「……ふっ」
 それを見ていた虎之助の表情が少し崩れる。
「あっ、笑わないでよ!」
「だって、お前……ふっ、はっはっはっ」
 最終的には堪え切れなくなった虎之助が頬に米粒を溜めたまま、盛大に笑いだした。
 米粒が豪快に飛ぶ。
「お、おい! 口に入れたまま笑うな! ご飯を飲み込め、ご飯を!」
 寛大が顔に付いた米粒を取りながら顔を顰める。
   しかし、虎之助は笑うことを止めない。
「……もう……ふっ、ふふふ……」
 その様子を横で見ていた八千代もそれにつられて笑う。
 
 ――人目を気にせずこんなにも笑ったのはいつぶりだろうか。
 
 今回みたいにこっそり町に出て、人と触れ合う中で笑うことはある。宮廷にいる時よりもいくらか解放されてはいる。しかし、町の人は皆、自分の事を知っており、人によっては悪意の視線を送る人もいる。そのため、町に出たとしても……というより、むしろ外に出た時の方が人の目を気にしている。
 だからこそ、何の気兼ねもなく笑えることに八千代は幸せを感じていた。
 周りを気にせず笑う二人に米粒を取りながら怒る一人。
 その場はまさに混沌としていた。
 同時に重い空気が吹き飛ばされていたことも事実であった。
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