【完結】幽霊彼女と後悔探しの旅

よーじろー

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四章

三十八話

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 ひとしきり笑い一呼吸置いたところで、改めて虎之助に訊く。
「それで、虎之助はどうしてあそこで倒れていたの?」
 ご飯を食べ終え、お茶を啜る虎之助が鼻根に皺を寄せる。
「それが俺にも良く分からないんだ。こんなこと初めてだったから」
 虎之助にさっきまであったたどたどしさは消え、幾分自然な口調で答える。
 そして、お茶を置き続ける。
「町にはいつも炭を売りに来ている。今日もいつもと同じように炭を売っていたんだが、その途中、急にお腹が痛くなった」
「堪え切れなくなって、あそこで蹲っていた、と?」
「そうだ」
 虎之助が目を閉じ深く頷く。
 その仰々しい態度に寛大が鼻の穴を大きくし、虎之助に飛びかからん勢いで足を立てるが、その前に八千代が言葉を挟む。
「寛大は何か分かる?」
 虎之助の方に出していた足を渋々引っ込め、八千代の問いに答える。
「そうですね……何か落ちてる物でも食べたんじゃないですか?」
「こら、寛大!」
 真面目に考えようとしない寛大に八千代が声を上げるが、それと同時に隣からも声が上がる。
「あっ、そういえば!」
 虎之助が思い出したように、目を開ける。
「町で配ってた饅頭を一個食べた」
「それ、お里さんのところでしょう?」
「お里さん? 確か紺色の着物を着て、頬にそばかすがある女だったが……そいつがお里さんという奴か?」
 虎之助の言う容姿は間違いなくお里さんだった。
 普段であれば無償で配るなんてことはしないのだが、何でも何かの記念日らしく、今日は何かの記念日らしく大量の饅頭を配っていた。
 八千代も〝ひとついかが?〟と渡されたが、それを貰わなかった。

 〝人の好意を無下にしてはいけない〟
 〝貰ったら貰った分以上の何かを返さなくてはいけない〟

 爺が口を酸っぱくして言うことの一つである。
 その言いつけを忠実に守るのであれば、饅頭は貰うべきだったのだろう。
 しかし、八千代は幸か不幸か、その前の店で強引に進められた蕎麦を食べていた。
 そのため、お腹が減っていなかったのだ。
「その饅頭に何か入っていた、とか?」
「まあ、そう考えるのが自然だよな」
「でも、お里さんはそんなことをする人じゃないんだけど……」
「人なんて見かけによらないからな。それよりお里さんってどんな奴なんだ?」
「優しくて面倒見が良いから、困っている人がいたら誰でも助けちゃうのよね。だから、その優しさに付け込まれたのかな……」
「そうかもな。でも、じゃあ、そんな人に俺は殺されそうになったってことか?」
「それにしても、饅頭、美味しそうだったな。貰えばよかったかな……」
「ん? 俺の話、聞いてる?」
「やっぱり饅頭はこし餡よね。口当たりが滑らかで口の中で溶けるもの」
「……おーい。戻ってこーい」
 途中かひとりで呆ける八千代の目の前で虎之助が手を振るが、八千代が反応することはない。何やらぶつぶつと呟いては、はあー、と感嘆の声を上げ幸せそうである。
「……こいつはいつもこんななのか?」
「こいつではない! 八千代様だ!」
 寛大が唾を飛ばしながら言うが、八千代の状態を見て小さく溜息を吐く。
「……まあ、いつも通りだ。気にせずともすぐに戻ってくる」
「そう、なのか……それと、ひとつ訊いていいか?」
「……なんだ?」
 横柄な態度で接する寛大に若干、むっとしながら訊く。
「あいつ……いや、八千代、様、は姫なのか?」
「ああ、そうだ。お前も知っての通り、ここは宮廷。この国を治める殿の住む場所であり、八千代様はその一人娘、すなわち姫様なのだ」
 寛大が鼻高々に胸を張る。
「そっか、あいつが……全然見えないな」
「なっ! 無礼者! 発言を撤回しろ!」
「いや、だって、お前、下町をあんな輝いた目で涎を垂らしながら見る姫様なんていないだろ」
「……貴様! 成敗してくれる!」
 そこから約五分。
 饅頭の世界へ飛び立った八千代を待つ間、寛大と虎之助は部屋中を動き回り取っ組み合いをしていた。
 八千代にとっては幸せかもしれなかったが、虎之助と寛大にとっては地獄のような時間だった。
 しかし、それを吹き飛ばしたのは八千代であった。
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