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第3章 SEARED
6.眠る少年
しおりを挟む白一色で統一された広々とした個室。たぶん、女性用であろうレースで縁取られたダブルベッドの中央に、黒髪の少年が眠っていた。長い睫毛に白い肌。冷淡なオーラを醸し出す少年に、昔から憧れていたとは、言う意味も、もうないであろう。
ヤドクは、光で満ちたその幻想的な空間に、今にも寝入りそうになる。
数時間前、白い壁に寄りかかる少年を見た。血で浸った床と、そこで泣き崩れるミアナの後ろ姿。まるで、四年前のあの火災を連想させる悲惨な情景。
呆然とする状況の中、ヤドクは逆方向へと駆けていく影を見つけた。黒のローブを身にまとった男の姿だ。フードの端からちらつく、あの男の赤髪の鮮やかさに、ヤドクは見入った。人の気配を感じさせない、慣れた逃走ぶりに、ヤドクは追う間もなかった。
「ここにいたんだ」
ふいにかけられたその声に、ヤドクははっと顔をあげる。考え込み過ぎたせいか、焦ったような仕草を取る。
「あ、ミアナ」
「様態は?」
彼女の視線は、あいからわずこちらを向かない。
「ろっ骨に傷が入ったんだって、だけど、大事には至らなくて、臓器にも影響は見られないらしい」
「……よかったぁ」
ホッとしたような。優しい表情。奥の方がズキリと軋み、ヤドクは無意識にミアナから視線をそらす。
「ありがとう、アダムのこと心配してくれてたんだ?」
「そうだね、あくまで幼馴染だしね」
「家族……だよ」
「……………ミアナはそれじゃ物足りないんじゃない?」
「そんなことないよ、家族がいるだけ幸せよ」
「……アダムのこと…好きなんだよね?」
何か、客観的な空気が部屋を包んだようで、ミアナの頬が染まるのと反比例して、ヤドクの心は凍っていくようだった。
「そ、そんなこと……やっぱり、アタシ、分かりやすい……のかな?」
「……いいや、そんなことないんじゃない?ただ、それだけボクに見られてるってこと」
「へへ、なにそれ~」
「でもね、アタシ。ふられちゃったみたいなの」
「……そうなんだ」
知ってた。あの日の夜の二人の会話は、一言一句覚えている。ミアナの嘆くような告白も、アダムの捨てるような合間も……全部。
「それから、なんだか……避けられてるみたいでさ。あはは、馬鹿だよねアタシ……イヴの代わりはいないのにね」
「…………」
「……ヤドク…?」
「…ならさ…………」
言ってはいけない。2人の間の沈黙がそう言っている。だけど、今言わなかったら…一生、この気持ちは伝えられないかもしれない。
「……ミアナ。あのさ……」
「…ヤッポーイ!お!?2人ともいたのかよー見舞い行くなら行くって言ってくれりゃーいいのにー!あ、てか、これって全員集合的な!?ふー!テンションあが……」
扉を開け放ったブームは、漂う空気の重さに気づくのに数秒遅れた。突き刺さるヤドクの視線と交差し、ある種の殺気を生み出していた。
「……あ、ありゃ?お、お取込み中?」
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