セカンドアース

第4章 サロキダ戦

9.操弓毒矢

「なーんダ、もう死んじゃったのカ、つまんないなァ」

  力が入らない。息ができない。こんなの初めてだ。
  ヤドクは、情けなくフラッグの背中にうつ伏せになる自分の姿を、他者目線で想像しながら、言うことの通じない体を、必死に起き上がらせようとする。
  フラッグの心配そうな眼が、ぎょロリとヤドクを振り返る。ヤドクは小さく笑い、唇を流れ落ちる赤い液体を拭う。

「オ！まだ殺る気あるんだネ」
「……子供に危害を与えるのは、好きじゃない」
「まーたそんなかっこつけてル、君は戦闘には向いてないってこト、自覚しテ、みんなの陰に隠れていたほうガ、身のためなんじゃないかナ」
「…………余計なお世話だ」

  ローレンの無邪気な笑顔と、覗く白い歯が、ヤドクの心の何処かを突き刺す。
『みんなの陰に』『向いていない』『自覚』
  そんなのとっくに分かっていた。フラッグの特性を聞いてから、自分が明らかに戦闘系ではないことは分かっていた…だけど、そんなの……彼女を守ってあげられない。
  ヤドクは、精一杯の笑顔を少年に向ける。紫髪の少年は、おとなしそうな可愛い表情を歪ませ、邪鬼に満ちた顔色を露わにする。

「いいじゃン、まだまだいけそうじゃン」
「…遊びたいんでしょ？なら、遊んであげるよ、このボクがね」

  少年の手にした銀の弓矢が、一瞬眩く光り、周囲にドスの効いた紫の煙をたたせた。

「これハ、ぼくの得意技だヨ、この空気を吸っちゃったラ、君は本当に死んじゃうヨ」

  そうか……そういえば、さっきパラから奪った本に『紫の少年』という題名もあった。確か、毒を操る弓矢で、彼の言う特技とは『操弓毒矢』のことだろう…その毒を吸えば最後。彼が言う通り。死んでしまう。
  慌てて口元を覆うが、煙の充満は早く。このままでは、サロキダ国全体に毒の充満が考えられた。早く止めなくては……

「ヤドク！！」

  飛び出してきたのは、白のラビット。ミアナだ。

「ミアナ！ここは危険だ！下でブームの看病を！」
「ブームは回復したわ！ここはアタシに任せて！ヤドクは早く下へ！」
「駄目だ！ミアナを置いて……」
「…行って！！」

  ミアナのコバルトブルーの瞳が、紫の煙に飲み込まれていくかのようで、塞がれていない口元に、ヤドクは何処かとても切なくなった。

「なにな二～つまんないなァ、女の子連れて来ちゃったらやだヨ、ぼく」

  ローレンの邪鬼が、紫の煙と共に消え、無邪気な表情に変わる。
  ちょうどそのタイミングで、ミアナのラビットの空中浮遊時間が終わり、急降下を始めた。ヤドクは、ミアナに言われるがまま、フラッグをストレージストーンに戻し、ラビットの背中に乗る。

「……次ハ、もっと面白いゲームをしようネ」