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第4章 サロキダ戦
10.黒の会議場
しおりを挟む辺り一面、真っ黒、壁。床。天井までもを覆われた黒の会議場。螺旋型に配置された、変わった造形のテーブルを囲み、噂好きの男達がヒソヒソと会議前の雑談に、心躍らせていた。
黒光りする、シャンデリアのヘビーな灯りが、男達の横顔を、不気味に映し出し、高貴な印象を与える。
「本当にあの方々が?」
「あぁ、今回の会議では、これからの方針を決める大事なものであるから、との参加だそうだ」
「いよいよ、我々、レブルブルーも本気ってことでしょうかね?」
「そういうことになるな。こちら側としても、あの方々が参戦していただければ、怖いものはないのだがな」
「あの方々とは?」
髪を撫で付けるようにセットした男の背後に、いつの間にか青髪の男が立っていた。男と会話していた、緑メッシュの老人が、青髪の男に気づき、席を立ち上がる。
「こ、これはこれは。プロト様!会議開始まで、まだお時間はございましょうに、いったいどういった…」
「…黙れ。で?あの方々とはいったいなんだ?」
青髪の男は、慣れた手つきで、眼鏡を人差し指で押し上げる。光を反射させた眼鏡の奥から、男の鋭利な視線が放たれる。
「それはそれはもちろん!あなた方!レブルブルートップ集団の…」
「…あーだっっる~ぃ!そういうの飽きたぁ~」
不意に蹴り上げられた扉の向こう、ダルそうに壁にもたれかかる、一人の金髪青年が口を挟む。
「そういうのってさぁ~なになに?あれでしょ?媚売りってやつぅ~?そういう奴らってさぁ~……殺したくなるんだよね」
青年の橙色の瞳が、冷たく尖り、その場を凍らせる。
「言い過ぎだ、フェル」
「え?そうっすか?プロトもだいぶビビらせてたくせにぃ~」
「こういう奴らには、そのぐらいの接し方が適当だ」
沈黙に包まれた会議場の中に、続々と現れた別風格の男達。フェルは、まるで貴族にでも挨拶するかのように、中央に長く引かれた赤絨毯を深々とお辞儀しながら、滑るように歩く。途中、赤絨毯のサイドで整列していた男達の一人がフェルの目の前で、瞬きをした。
「へぇ~そういうことするんだぁ~」
フェルの腕が、一瞬だけ空を切り、そして男の腹に突き刺さる。男の口から赤い液体が飛び散り、数メートル先の黒壁に当たって、小さくバウンドすると、静止した。
「あいつ死んだぞ」
「え~よっわぁ~!なにそれカス過ぎっしょ」
吹き飛ばされた男の隣で、震えるもう一人の男の顔を、フェルは一瞥すると、ニヤリとワザとらしく笑って見せる。
「友達だった?」
「め、滅相もございません!あんな無礼者の友達など!」
「そっか……でも、おれさぁ~……友達大切にしない奴。嫌いなんだよね」
そう言って、続けてその男の腹にも同じものを食らわせようと構えたフェルの右腕を、何者かが止めた。
フェルは、邪魔されたことと、男への怒りとで、振り返りざまに左腕を突き出す。が、その腕は空を切り、フェルの攻撃が回避されたことを示した。
「危ねぇよ」
「おー!アイン先輩じゃないっすかぁ~!」
赤髪の青年に、フェルは先ほどとは別人の人柄を顔一面に浮かべる。
「ところでフェル。現在の状況は?」
プロトは優雅に席に着き、眼鏡の奥から、フェルと書類を交互に見る。
「サロキダ戦で勝敗を決めるならぁ~引き分け!ってとこっすかねぇ~」
「引き分けだと?どういうことだ?たしか、俺たちの中からノーベとローレンを出したはずだが?」
「それがぁ~……」
フェルの言葉を遮るかのように、前に出たアインを、プロトは横目に見る。アインの燃えるような赤髪が、シャンデリアの毒々しい光を吸収し、炎を連想させた。彼の腰ベルトについた銀の拳銃に、赤いヘドロがついていることに気づく。
「どうしたアイン?」
「見た……シーレッドの新入り」
「そそ!アイン先輩とおれで見に行ったんですよぉ~サロキダ戦!そしたらぁ~すっげぇ奴ら出てきてぇ~ノーベはローレンが捜索中!」
「捜索中?ノーベがか?」
「はい!そうでーす!緑のパーカーのやつがノーベと殺りあってぇ~…」
「…待て、殺りあうって……あのノーベとか?」
信じられないといった様子のプロトを、フェルは面白げに眺める。
「強いっすよ、あいつら……主役は今日も欠席っすか?」
「欠席だよ、で?ボスはなんて?」
プロトは、手にしていた書類の中から、一枚の紙を取り出した。黄ばんだ用紙に、顔写真が貼られてある。黒髪の少年だ。
「うっわぁ~美少年~!あ、どっかで見たような……」
「アダム・アリーダ。クロウの適合者だ」
「へぇ~これがそのアダムくんって子かぁ~」
プロトは、小さく咳払いし、アインに向き直る。
「アイン。ボスからだ。お前はアダム・アリーダにつけ、なんとしても、殺すように…と」
「おれはおれはぁ~?」
「フェルは……好きにしろ」
「ならおれ!緑パーカー君にしよぉ~っと!」
黄色いマントを翻し、金髪青年が嘲笑う。
「みんなみんな、ぶっ殺しちゃいましょう!」
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