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第7章 ハリスナ国
4.ハリスナ国王
しおりを挟む広々としたテラスから、薄暗い空気が流れ込んできた。薄いガラス窓から差し込む、その光が、下の世界の息苦しさを物ともしなかった。それはとても理不尽で、惨めにも思えた。
黒髪の少年が、担架に乗せられ城門を潜っていく姿が、今も目の裏にこびりついて離れなかった。失望としか思えない。そんな光景に、幼馴染であり、家族である1人の死さえ感じていた。
「ところで、君はシーレッドのトップ集団の1人だと聞いたが、随分と麗しい少女なのだな」
大理石の机に踏ん反り返り、大様な態度をとる男が、隣に控えるミアナの腕を突いた。
「そんな!と、とんでもない!」
「いや~謙遜なんか必要ないよお嬢さん」
ハリスナ城への侵入が成功し、城門前には、最後の王。とだけあってか、シーレッド団員でわんさかと警備体制がとられていた。レブルブルーの攻撃もなく、妙に静かな空気が辺りを包んでいた。
不機嫌そうなヤドクが、腰の銃を抜かぬよう。それを密かに見守るのがブームの役割…のようなものだった。
「にしても、どーしたものだろうか。アクチノイド人は何故そんなに我らを嫌うのだ?我は何故殺されなくてはならぬのだ?」
それが質問なのか、独り言なのか。自己解決をしたのだろうか。ハリスナ国王はヤドクをチラリと睨みつけ、ふぅと深いため息を吐く。
「なぁ、ミアナ殿、そなたはどう思う?」
「……ア、アクチノイド人は……その、えっと……」
「国王方に恨みでもあるのではないでしょうか?」
ミアナの言葉に割り込んだ声に、国王はさぞ不愉快そうに眉間に皺を寄せヤドクを見た。ヤドクは至って平然とした顔の裏で……ドヤっていた。ブームには分かる。
「我らに恨み?我らは何をしたという?突然の襲撃、突然の虐殺!完全なる受身ではないか?」
「……本当に、突然だったのでしょうか…?」
「…何が言いたい?」
ハリスナ国王は、ヤドクを見る目を細め、代わりにミアナの腕を引き寄せた。
「きゃっ」
ミアナの体を抱き寄せ、自分の膝の上に無理矢理座らせる。ヤドクが腰に手を伸ばし、拳銃を抜くが、それをすかさず阻止した。
「何考えてるヤドク。相手は国王だ、何があろうと銃口を向けるわけにはいかないだろ?」
「そんなことぐらい……」
囁くような会話の後、ヤドクは震えながら拳銃を腰の鞘に収めた。それまでの過程を楽しむように見届けた国王は、さて次は、と小さく呟き、コートの内ポケットから、冷たい鉄製の物を取り出した。
ゆっくりと勿体振るようにそれを伸ばし、膝の上に座るミアナからまず披露していく。
「……ッ」
ミアナの小さな悲鳴を耳で楽しみ。国王は取り出した物をヤドク達の方にも見えるように、ミアナの右頬に当てた。
「何を!」
今にも飛び出しそうなヤドクを押さえ、ブームは出来る限りの落ち着いた声で、国王の横顔に問う。
「それは一体?」
「……見てわからぬか?毒じゃ」
銀の筒から伸びた鋭利な細い針。その先端から緑色の液体がヒタヒタと赤いカーペットを濡らしていく。一滴が、ミアナの頬を長く伝う。
ミアナの白い肌を舐めるような緑色が這い、固く瞑られた瞳が恐怖に震えていた。
「そんなもの…なんのために!」
「ははは、分からぬとは随分と腑抜けな」
国王は、ニヤリと唇の端で嘲笑い、ヤドクを見る。
「……ヤドク・カーマンと言ったか?貴様…いったい何を知っているという?」
「…本だ。過去の戦闘記録を残した本。あれは、ある研究者たちが書いたものだった…4年前に始まった戦争のものでなく。6年前から書かれた…な」
「6年前?つまり、アクチノイド人の存在はこの戦争が始まる前から知られていたってことか?」
ブームの質問に、ヤドクは小さく頷いた。
「……あなた達国王は、研究者だったのではないですか?あの本は…あなた達の物だったのでは?」
国王は、憎悪とその他の感情の混じったような、充血した目をヤドクに向けた。
「……あぁ、我らは研究者であった…貴様らのルーラーとやらを作ったな……」
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