セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
77 / 185
第7章 ハリスナ国

4.ハリスナ国王

しおりを挟む

  広々としたテラスから、薄暗い空気が流れ込んできた。薄いガラス窓から差し込む、その光が、下の世界の息苦しさを物ともしなかった。それはとても理不尽で、惨めにも思えた。
  黒髪の少年が、担架に乗せられ城門を潜っていく姿が、今も目の裏にこびりついて離れなかった。失望としか思えない。そんな光景に、幼馴染であり、家族である1人の死さえ感じていた。

「ところで、君はシーレッドのトップ集団の1人だと聞いたが、随分と麗しい少女なのだな」

  大理石の机に踏ん反り返り、大様な態度をとる男が、隣に控えるミアナの腕を突いた。

「そんな!と、とんでもない!」
「いや~謙遜なんか必要ないよお嬢さん」

  ハリスナ城への侵入が成功し、城門前には、最後の王。とだけあってか、シーレッド団員でわんさかと警備体制がとられていた。レブルブルーの攻撃もなく、妙に静かな空気が辺りを包んでいた。
  不機嫌そうなヤドクが、腰の銃を抜かぬよう。それを密かに見守るのがブームの役割…のようなものだった。

「にしても、どーしたものだろうか。アクチノイド人は何故そんなに我らを嫌うのだ?我は何故殺されなくてはならぬのだ?」

  それが質問なのか、独り言なのか。自己解決をしたのだろうか。ハリスナ国王はヤドクをチラリと睨みつけ、ふぅと深いため息を吐く。

「なぁ、ミアナ殿、そなたはどう思う?」
「……ア、アクチノイド人は……その、えっと……」
「国王方に恨みでもあるのではないでしょうか?」

  ミアナの言葉に割り込んだ声に、国王はさぞ不愉快そうに眉間に皺を寄せヤドクを見た。ヤドクは至って平然とした顔の裏で……ドヤっていた。ブームには分かる。

「我らに恨み?我らは何をしたという?突然の襲撃、突然の虐殺!完全なる受身ではないか?」
「……本当に、突然だったのでしょうか…?」
「…何が言いたい?」

  ハリスナ国王は、ヤドクを見る目を細め、代わりにミアナの腕を引き寄せた。

「きゃっ」

  ミアナの体を抱き寄せ、自分の膝の上に無理矢理座らせる。ヤドクが腰に手を伸ばし、拳銃を抜くが、それをすかさず阻止した。

「何考えてるヤドク。相手は国王だ、何があろうと銃口を向けるわけにはいかないだろ?」
「そんなことぐらい……」

  囁くような会話の後、ヤドクは震えながら拳銃を腰の鞘に収めた。それまでの過程を楽しむように見届けた国王は、さて次は、と小さく呟き、コートの内ポケットから、冷たい鉄製の物を取り出した。
  ゆっくりと勿体振るようにそれを伸ばし、膝の上に座るミアナからまず披露していく。

「……ッ」

  ミアナの小さな悲鳴を耳で楽しみ。国王は取り出した物をヤドク達の方にも見えるように、ミアナの右頬に当てた。

「何を!」

  今にも飛び出しそうなヤドクを押さえ、ブームは出来る限りの落ち着いた声で、国王の横顔に問う。

「それは一体?」
「……見てわからぬか?毒じゃ」

  銀の筒から伸びた鋭利な細い針。その先端から緑色の液体がヒタヒタと赤いカーペットを濡らしていく。一滴が、ミアナの頬を長く伝う。
  ミアナの白い肌を舐めるような緑色が這い、固く瞑られた瞳が恐怖に震えていた。

「そんなもの…なんのために!」
「ははは、分からぬとは随分と腑抜けな」

  国王は、ニヤリと唇の端で嘲笑い、ヤドクを見る。

「……ヤドク・カーマンと言ったか?貴様…いったい何を知っているという?」
「…本だ。過去の戦闘記録を残した本。あれは、ある研究者たちが書いたものだった…4年前に始まった戦争のものでなく。6年前から書かれた…な」
「6年前?つまり、アクチノイド人の存在はこの戦争が始まる前から知られていたってことか?」

  ブームの質問に、ヤドクは小さく頷いた。

「……あなた達国王は、研究者だったのではないですか?あの本は…あなた達の物だったのでは?」

  国王は、憎悪とその他の感情の混じったような、充血した目をヤドクに向けた。

「……あぁ、我らは研究者であった…貴様らのルーラーとやらを作ったな……」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...