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第9章 ヤカロザ決戦
2.情の無い世界
しおりを挟む黒い会議室の、無駄に高い天井を見上げ、座り心地の良い椅子に浅く腰掛け、テーブルの上で両足をくむ。
戦闘後の会議はとんでもなく怠く。メインで最も重要人物の席はいつも空席。そんな空間に嫌気が刺し、フェルは立ち上がった。
「あーあー、もうやってらんないっすよ~殺ればいいんでしょ殺れば」
「おいフェル、話はまだ終わって…」
「何の話があるって言うんすか?プロト。見ました?あの雑魚」
「蛇男のことはお前が相手にするような奴じゃなかった、ただそれだけの事だろう。お前がそこまで気にする必要性はどこにもない」
プロトは、なに食わぬ顔を崩さず、そこまで早口にいうとフェルに再び座るよう目で合図する。
「チッ………」
「では続ける。前回のハリスナ国王殺害により、セカンドアース全ての王を殺害することに成功し……」
「…ノーベがいなイ……」
ローレンの水気を帯びたその声に、フェルは反射的にノーベの忘れ物だと見られる銀斧を振り返った。ショーケースに並べられた5つのシルバーアーム達の中に、巨大な斧が別の存在感を放っていた。まるで、主人を失った、とでもいうような。
「ノーベはどうなっちゃったノ!?ぼく、何も聞いてないんダ。ノーベはいつもぼくに必ず言ってくれてたのニ」
「ノーベは任務に出てる。ボス直々の任務だろう」
「嘘ダ!なら何でプロトは銀斧を磨いてたノ?そんなことはノーベがやることなのニ、ノーベは何処に行ったノ!?ぼくのノーベを何処にやったノ!?」
「僕が始末したよ、この手でね」
この声……フェルの身体中を、ある種の寒気が走り、循環していた血達が騒つく。振り返る間もなく、気づけば、空席は空席ではなくなっていた。
「久しいな、アク…」
「あぁ、プロト。それからレブルブルートップ5…いや、4の諸君。こうして話すのはいつぶりかな?」
冷たい白髪。光の無い銀眼。嘲笑う口元。醸し出す威圧感。レブルブルー長官…アク・アルテミス。
「そこの君はどうして泣いているのかな?何か悲しいことでも?」
「なんデ…なんでノーベを殺したんダ……」
「あぁ、そんなことか。簡単だよ、邪魔だったんだよ。目障りだったんだ」
アクは、会議室を一望すると、少し考えるような表情を作る。一瞬だけ眼が合うが、慌てて回避する。
「相変わらず、フェルはつれないなぁ~僕はフェルのこと、好きなんだけどね」
アクの視線が次に捕らえたのは、端の席に腰掛けるアインの姿だった。表情を赤髪の下に隠し、腕組みをしたままのアインを、アクは少しだけ目に止めるが、今回は何も言わないようだ。
「ま、家族ごっこが嫌いな奴はそのままでいてもらえればOKなんだけど……」
アクの冷酷な目が、悲しみに震えるローレンを射る。
「この組織に情はない。あるのは復讐のみだ。もし、この僕の言葉に逆らうと言うのなら……」
アクの手にした銀の剣がテーブルの上に突き立てられ、そこから走った亀裂を辿り、悲鳴のような奇声と、突風が肌を吹き付ける。亀裂の奥から顔を覗かせた、黒い影が怯えるローレン目掛けて接近する。
「ローレン!!」
銀拳を発動させれば届く距離だ。フェルは右足に軸を置き、大きく前に飛び出そうとする。その瞬間、前髪を熱が掠め、右の壁に爆音と共に穴を作った。
悔しさに歯を食いしばり、その攻撃を放ったと見られる方を向く。
銃口から煙を吐く、その銀銃を片手に構え、未だに俯いたままのアインが座っていた。
「どうして……アイン先輩………」
「…………この世界は……そういうもんだ」
「僕の言葉に逆らう者は……みんな殺してあげるよ」
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