セカンドアース

三角 帝

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第9章 ヤカロザ決戦

9.緑のパーカー

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  後方から殴りかかってくる男共を蹴り倒し、そのすぐ直前に前方から現れた男を振り返り際に拳で殴る。この作業を続けてから早10分ほどは経過していた。
  レブルブルーといっても、シルバーアームを所持するトップ5以外は雑魚に過ぎない。このままの戦闘を続けていても拉致があかず、パラはアントを発動させ男共をなぎ倒し、その場から去った。
  しばらくアントに揺られると、遠くの第二部隊あたりが苦戦しているところに着いた。所々に仲間の無残な姿も確認でき、パラはアントから降り、周辺を見回した。

『撤退命令。撤退命令。直ちにヤカロザ国から撤退しろ』

  通信機からヤドクの声が聞こえてきた。慌てて通信機のスイッチを切り替え、応答モードに設定する。

「どういうことだ!まだ戦いは終わっていないではないか!撤退などとどういったことを根拠に言っている!ヤドク・カーマン!」

  それに返事はなかった。
  同じような質問が多くのシーレッド団員から浴びせられているところなのだろう。

「……撤退など、あり得ないだろう」
「やぁやぁそこのお嬢さ~ん、撤退命令だってね~逃げたほうがいいんじゃない?」

  そんな声が遠くの頭上から聞こえて、パラは真上を見上げる。高い高層ビルの屋上に白いコートをはためかせ、高貴な雰囲気を漂わせる白髪の男と、その隣には青髪の男が書類を片手に立っていた。
  そうか…こいつらか……。
  パラは改めて、辺りに散らばっている仲間の屍を見た。

「やるなら早くやってください。あなたのお遊びに付き合ってなんていられないですよ、ボス」

  青髪の男は表情を眼鏡の奥に隠し、そう言った。その言葉に不満げに口先を尖らせた白髪の男は、ひとつ大きなあくびをし、足を大きく踏み鳴らした。
  高く頭上にそびえたつ高層ビルが、ゆっくりゆっくりと傾いた。
  その光景をただ呆然と見つめ、動けずにいるパラを白髪が屋上から飛び立つ直前、見下ろした。その瞳の色が一瞬だけ榛色に輝いた気がし、パラは頬を伝う熱い物を初めて認識した。

「ごめんよ。パラ」

  その言葉は、自分に対する情は一切無く、あるのはただの哀言葉だった。

『僕について来なよ』

  あの言葉は最初から……ワタシを迎える言葉ではなかった。
  ワタシは騙されていたのだ。これまでも、いや、きっとこれからも…
  体が少しづつ重くなっていく、絶望感と、自分の醜さが目に染みる。それは涙となって地に跡を残し、誰にも気付かれずに消えていった。
  巨大な瓦礫が目の前に転がり、ドスンという音を立て地を揺らした。身体中が震え、硬直する。

  死にたくない……

「……やだ…………」

  瓦礫同士が重なり合い、轟音となって空から降ってくる。その様子を見ることもなく、パラの体がそれらのひとつに押し潰された。崩れ落ちるビルの軋み音と、体内から漏れる乾いた息とが、命のパラメーターを刻々と記す。
  間も無く、このビルは崩壊し、パラは誰にも気付かれずにこの生を閉ざすのだろう。そう考えると、これまでの自身の相手へ対する言葉のひとつひとつが痛く感じた。
  
  死にたくない……

  傲慢だ。死に際もこんなに無残だなんて。一人を好み、一人で生きていたはずなのに、誰かを頼ることも、信頼することも、何もなかったはずなのに……

「馬鹿だな……やっぱり怖いよ…」

  死ぬのは怖い。一人は怖い。
  だけど…こんなワタシにはもう誰も……

「ホンッと、お前って最後の最後まで馬鹿だなぁ」

  うつ伏せに倒れたパラの頭上で、誰かの声がした。緑色のパーカーを着た、ふざけた後輩の口調によく似ている。

「……お前、どうして…戦闘……は」
「はっはー!んなもん放棄してやったよ」
「な…んで……」
「……心配すんなよ、お前は一人じゃない」

  身体中の力を振り絞り、体を起こそうとするが、虚しく、力を入れたはずの腕は痺れ、体を起こすどころか首の向きを変えることさえ困難だった。肩で荒く息を吸い、それが最後の呼吸だと言わんばかりに息を吐いた。ふと目元を覆った大きな掌は、温もりの中に、感じたことのない優しさが混ざっていた。

「……オレがいてやるから…ずっと……」

  ブームの掠れた声が、どうしようもなく儚くて、パラは遠のく意識の中、必死に瞼を持ち上げた。
  天空から射す僅かな光が、少年の笑顔を照らし、瓦礫がその後を追う。


『なぁ、パラ?』
『なんだ?』
『もしさ、オレがお前のこと……』
『ん?』
『いや、やっぱなんでもない』
『…変な奴』
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