セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
143 / 185
番外編 セカンドアース日常

8.受け止める者

しおりを挟む

  憂鬱というか、喪失感というか…素直に言ってしまえば居場所がないような。そんな面持ちで、フェルは意味もなく暗い廊下を歩き回っていた。
  ふと行くてに影が差し、それが大柄な男の影だとわかる。

「どうかしたのかフェル?顔色悪いぞ?」

  ノーベは、その理由など完全に見通しているとでもいうような余裕を顔の隅に隠し、フェルを見下ろした。

「……別に…」
「またアインのことか?」
「………ここ一週間、あいつの行動を監視してるけど…あいつ、何考えてんのか全然分かんないし…」
「ああ、だから同室を許したのか?監視するために?」
「てわけでもねぇけど…怪しかったから……」

  ノーベは、そんなフェルの困り果てた表情に小さく吹き出し、わしゃわしゃと金髪を掻き撫でた。

「うわ、何すんだよテメェ」
「ま、うまくやれよ」

  ノーベはそう言うと、その巨体を廊下の暗闇へと隠した。その後ろ姿に、フェルはある種の違和感を感じる。
  今まで、ノーベは何かと塞ぎ込んでいるかのように沈黙していたはずが、今日は何故か昔のノーベに戻ったように見えた。
  ま、あのノーベは嫌いじゃない。

  気休めのために立ち寄った、本部内にあるカフェに入る。モダンな雰囲気の店内には、レブルブルーの白い団服を身にまとった下級団員たちがワイワイと噂話に花を咲かせているところだった。
  その中の一人が、フェルの銀装束に気づき、ヒソヒソと周りの連中に呼びかけ始めた。気づけば、店内はガラ空きとなり、一人残されたフェルは、店内で最も景色の良かろうテーブルに腰掛けた。
  ビクビクしながら注文を聞きにきたウエイターから、メニューを引ったくり、そのメニュー内容に舌打ちをする。
  別にこの店のメニューに文句があったわけではない。ただ、なんというか……

「……やっぱ要らねぇ」
「は、はい…申し訳ございませんでした」

  何故か謝る定員に腹が立ち、そんな風に腹が立つ自分にも腹が立ち、フェルは椅子から勢いよく立ち上がり、ウエイターの胸ぐらに掴みかかった。

「も、申し訳ございません!フェル様!どうかお許しを!」

  顔面に、恐怖という名の色を塗りたくり、店外からの野次馬がこちらに気づかれぬように視線という名の野次を飛ばしていた。
  いてもたってもいられなくなり、銀拳を発動させる。銀のナックルがウエイターの目と鼻の先で一瞬輝き、その眩しさにウエイターの目が閉じられる。
  これで何人目だろうか。おれに殺される奴ってのは、どんな気分なのだろうか。
  素直に言えば、いつか誰かに…この拳を……

バシッ

  初めて聞く音に、フェルはふと顔をあげた。
  ぼやけた視界の前で、確かに己の拳が何者かに止められ、威力を失う感覚があった。

「やめとけ…」

  その拳を辿って、腕、肩、首……そして見えた赤髪に、フェルは何故か脱力しかけた。
  アインは、そのルビーレッドの瞳をフェルから離し、震える定員をその手から剥ぎ取った。呆然と立ち尽くすフェルをアインは一度見ると、何も言わずにその場を去っていった。

  そうだ……おれは…誰かに、この拳を……

   止めて欲しかったのだ……
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...