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番外編 セカンドアース日常
8.受け止める者
しおりを挟む憂鬱というか、喪失感というか…素直に言ってしまえば居場所がないような。そんな面持ちで、フェルは意味もなく暗い廊下を歩き回っていた。
ふと行くてに影が差し、それが大柄な男の影だとわかる。
「どうかしたのかフェル?顔色悪いぞ?」
ノーベは、その理由など完全に見通しているとでもいうような余裕を顔の隅に隠し、フェルを見下ろした。
「……別に…」
「またアインのことか?」
「………ここ一週間、あいつの行動を監視してるけど…あいつ、何考えてんのか全然分かんないし…」
「ああ、だから同室を許したのか?監視するために?」
「てわけでもねぇけど…怪しかったから……」
ノーベは、そんなフェルの困り果てた表情に小さく吹き出し、わしゃわしゃと金髪を掻き撫でた。
「うわ、何すんだよテメェ」
「ま、うまくやれよ」
ノーベはそう言うと、その巨体を廊下の暗闇へと隠した。その後ろ姿に、フェルはある種の違和感を感じる。
今まで、ノーベは何かと塞ぎ込んでいるかのように沈黙していたはずが、今日は何故か昔のノーベに戻ったように見えた。
ま、あのノーベは嫌いじゃない。
気休めのために立ち寄った、本部内にあるカフェに入る。モダンな雰囲気の店内には、レブルブルーの白い団服を身にまとった下級団員たちがワイワイと噂話に花を咲かせているところだった。
その中の一人が、フェルの銀装束に気づき、ヒソヒソと周りの連中に呼びかけ始めた。気づけば、店内はガラ空きとなり、一人残されたフェルは、店内で最も景色の良かろうテーブルに腰掛けた。
ビクビクしながら注文を聞きにきたウエイターから、メニューを引ったくり、そのメニュー内容に舌打ちをする。
別にこの店のメニューに文句があったわけではない。ただ、なんというか……
「……やっぱ要らねぇ」
「は、はい…申し訳ございませんでした」
何故か謝る定員に腹が立ち、そんな風に腹が立つ自分にも腹が立ち、フェルは椅子から勢いよく立ち上がり、ウエイターの胸ぐらに掴みかかった。
「も、申し訳ございません!フェル様!どうかお許しを!」
顔面に、恐怖という名の色を塗りたくり、店外からの野次馬がこちらに気づかれぬように視線という名の野次を飛ばしていた。
いてもたってもいられなくなり、銀拳を発動させる。銀のナックルがウエイターの目と鼻の先で一瞬輝き、その眩しさにウエイターの目が閉じられる。
これで何人目だろうか。おれに殺される奴ってのは、どんな気分なのだろうか。
素直に言えば、いつか誰かに…この拳を……
バシッ
初めて聞く音に、フェルはふと顔をあげた。
ぼやけた視界の前で、確かに己の拳が何者かに止められ、威力を失う感覚があった。
「やめとけ…」
その拳を辿って、腕、肩、首……そして見えた赤髪に、フェルは何故か脱力しかけた。
アインは、そのルビーレッドの瞳をフェルから離し、震える定員をその手から剥ぎ取った。呆然と立ち尽くすフェルをアインは一度見ると、何も言わずにその場を去っていった。
そうだ……おれは…誰かに、この拳を……
止めて欲しかったのだ……
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