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過去編 近い日に
5.赤髪の兄人
しおりを挟む話すわけじゃない。会うわけでもない。
ただ、顔を見に来ただけだ。
そう自分の気持ちを殺して、今日も誰か知らない奴と話すイヴを物陰から見る。
ま、実際に会ったとしても、変わってしまった俺をイヴに見せるわけにはいかない。
「アダム~!」
「なんだよ、ついてくんなよ」
そう切り捨てられても、イヴはその少年を追う。黒髪の少年は、どこか自分に似ていて…ふとイヴが昔の自分を追いかけているようにも見えた。
足元の木の根に足を取られ、イヴが盛大に転ぶ。
「イ………」
もちろん、伸ばした手が届くこともなく、出そうとした声は暗黙に消される。
実際に転んだイヴを助けたのは、俺のなり変わりであるアダムという少年の手だった。
「ほら、さっさ起きろよ馬鹿」
照れ隠しなのだろうか。黒髪の少年は、不自然にそっぽを向いたままイヴに手を取るよう促した。
「…う、うん!」
少し頬を赤く染めたイヴに、兄として成長を嬉しく思うのと同時に、悲しくもなる。
楽しそうに笑うイヴの顔を、こうして遠くで眺めているだけで十分なのだ。それなのに…どうして、こんなにも……辛いのか…
あれからもう5年も経ったのだ。
イヴが自分のことを忘れていても、おかしくはないはずだ。そのほうがいいのかもしれないが…
『お兄ちゃん!』
イヴの声が聞こえる。幻聴でも、久しぶりのその声は嬉しかった。
ふと顔をあげると、辺りはすっかり暗くなっていた。アダムとイヴの方を向く、こんなに暗いのに、二人は一向に孤児院に戻る気配はない。
この辺りは、アインの所属する盗賊グループがあり、夜間はとても危険なエリアだ。イヴたちには早く帰ってもらわなくては困る。
焦る気持ちと比例するかのように、その声はアインの耳に届いた。
草木を踏みおる音と、ガシャンという刃物の絡み音。それらが知らせる意味を、アインは嫌というほど知っていた。
「よぉ、アインさんよ~どーした?こんなところで?ここは俺らの領地だが?」
歯という歯。もしかすると、そうとは言えないのではないか?という場所にまで金歯を植え込んだ見栄えの悪い男が目の前に立っていた。暗いパープルのジャケットは、高級なものであるにもかかわらず、その男が着ることによって半額以下にまで価値が下がって見えた。
「……ここは、俺が先に見つけた」
「あ?」
この男が、アインの所属する、まさにそのグループのボス格であることは承知だった。だが、ここでおとなしく立ち去れば、イヴとの生活を捨てて、盗賊として生きるとまで誓ったのが水の泡だ。
「お前、誰にその口叩いてんのか分かってんのか!?」
男の子分の一人が、唾を飛ばしながらそんなことを叫んだ。今の声なら確実にイヴ達にも聞こえているはずだ。それで危険だと分かってくれて、それに加え逃げていてくれればいいのだが…
「まぁいい。威勢がいいのは嫌いじゃない。お前の噂は聞いている。妹だっけ?そいつがここらの孤児院に住んでるんだろ?捨てたんだってなぁ?」
汚い。男の全てが汚い。
「そんな兄貴。兄貴失格だな!」
「……あぁ、失格だな」
面倒だ。知ってる。分かってる。
俺は兄貴なんかにはなれない。兄貴のふりを頑張ってるだけだ。一人の妹でさえ、この手で守ってやれない。最低な奴だ…
「妹はどこだ?噂では、かなりの美人と聞く」
「………………黙れ」
「あぁ?」
男の鼓動が聞こえる。
醜く動くその波動を…止めたいと思ったのはー
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