セカンドアース

三角 帝

文字の大きさ
151 / 185
過去編 近い日に

6.赤髪の破人

しおりを挟む

  アリダン国を自身の狩場としていた盗賊グループが、そのボスの謎の失踪により壊滅した、という噂が辺りでは絶えない、妙に騒ついた日々の連呼だ。
  
  アインはいつもの如く、ガス缶の上にあぐらをかき、空を仰いでいた。
  いつもと違うのは、あの男がここへ来ないこと。
  聞いた話では、ボスを殺したのはあいつでは、と妙に疑われていたらしい。殺されたか、それか、拷問されているのだろう。
  ま、そのうち俺にもその容疑が回ってくるだろう。その時はおとなしくボスの遺体のありかでも教えてやるか。

  あれから何ヶ月かが立っていた。
  イヴの姿も当分見に行っていない。
  もう、俺の居場所はここにもない。

  アインはガス缶から体を起こし、安っぽい黒ローブに、みすぼらしいがついているフードを深くかぶった。顔全体がすっぽりと隠れ、何故か安心してしまう自分を馬鹿だと笑ってみる。

  通いつめていたアリダン国の市場の人たち。大声を出し、出店に客を引き込む奴らは、皆こちらに気づかないふりをする。
  そんな中、近くのパン屋から不自然な体勢を保ったまま飛び出した一人の少年を見つけた。手には正式に買われた痕跡のないパンが鷲掴みにされていた。
  その姿に、見覚えがあった。

  黒髪の少年は、そのまま直進し続け、もちろん見慣れた通りへと姿を消した。
  アインは小走りにそれを追いかけるが、曲がり角を曲がると、彼の姿はすでになかった。
  
  気づけば辺りはジメジメと薄暗く、先ほどの通りの賑やかさに憧れて、元来た道を辿り返そうとする。が、フードに隠れて死角になっていた場所から、何者かの動きがあった。
  反射的に、盗賊グループの奴らかと身構えるが、見覚えはない。見たことのない銀の装束がよく似合う、人間離れした淡麗な顔立ちに白髪の男だった。瞳は銀の色を放ち、喉の奥が何故か押しつぶされるような感覚に陥った。

「君だよね」

  男の声は、実に現実的で、それが妙にミスマッチで、本物のそいつを隠している。

「何がだ?」
「君が殺したんだよね?君のボス…を」

  やっぱりグループの奴か?それなら随分と階級は高そうだ。勝てるか?強そうだ。

「大丈夫だよ、僕は君を自由にしにきただけ」

  男はそう言って、ふと笑う。その笑顔が、また更にその男を不気味に見せた。

「自由?俺には有り余るぐらいにあるだろ」
「いいや、ないよ」
「…は?」

  白髪の男は、その純白のコートをはためかせる。気づけばそこは、愛しい人の…俺の後悔の場所だった。

「この孤児院に、君は縛られているんだ。自由。それは簡単には手に入らない」

  男は振り返り、同じように笑う。塗りたくられた表情の奥でアインに語りかけるようだった。

「自由を得るには幾つかの条件がある。1.逆らう、2.後悔、そして…3.破壊……。君は1と2を今までに果たしたんだ。残るは破壊のみ…後悔が邪魔して、君を束縛する。自由を得るにはそれを破壊しなくてはならない」

  目の前に差し出された、銀の拳銃…
  それを何に使うのか、そんなことはもうわかっていた……

「……破壊…………」
「そうだよ、全てを壊すんだ。要らないだろ?全部、後悔なんて……最初からなかったことにするんだ」

  白髪の男の瞳が、脳裏に焼きつく。


  アインはゆっくりと、銀銃を構えるー
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...