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過去編 近い日に
6.赤髪の破人
しおりを挟むアリダン国を自身の狩場としていた盗賊グループが、そのボスの謎の失踪により壊滅した、という噂が辺りでは絶えない、妙に騒ついた日々の連呼だ。
アインはいつもの如く、ガス缶の上にあぐらをかき、空を仰いでいた。
いつもと違うのは、あの男がここへ来ないこと。
聞いた話では、ボスを殺したのはあいつでは、と妙に疑われていたらしい。殺されたか、それか、拷問されているのだろう。
ま、そのうち俺にもその容疑が回ってくるだろう。その時はおとなしくボスの遺体のありかでも教えてやるか。
あれから何ヶ月かが立っていた。
イヴの姿も当分見に行っていない。
もう、俺の居場所はここにもない。
アインはガス缶から体を起こし、安っぽい黒ローブに、みすぼらしいがついているフードを深くかぶった。顔全体がすっぽりと隠れ、何故か安心してしまう自分を馬鹿だと笑ってみる。
通いつめていたアリダン国の市場の人たち。大声を出し、出店に客を引き込む奴らは、皆こちらに気づかないふりをする。
そんな中、近くのパン屋から不自然な体勢を保ったまま飛び出した一人の少年を見つけた。手には正式に買われた痕跡のないパンが鷲掴みにされていた。
その姿に、見覚えがあった。
黒髪の少年は、そのまま直進し続け、もちろん見慣れた通りへと姿を消した。
アインは小走りにそれを追いかけるが、曲がり角を曲がると、彼の姿はすでになかった。
気づけば辺りはジメジメと薄暗く、先ほどの通りの賑やかさに憧れて、元来た道を辿り返そうとする。が、フードに隠れて死角になっていた場所から、何者かの動きがあった。
反射的に、盗賊グループの奴らかと身構えるが、見覚えはない。見たことのない銀の装束がよく似合う、人間離れした淡麗な顔立ちに白髪の男だった。瞳は銀の色を放ち、喉の奥が何故か押しつぶされるような感覚に陥った。
「君だよね」
男の声は、実に現実的で、それが妙にミスマッチで、本物のそいつを隠している。
「何がだ?」
「君が殺したんだよね?君のボス…を」
やっぱりグループの奴か?それなら随分と階級は高そうだ。勝てるか?強そうだ。
「大丈夫だよ、僕は君を自由にしにきただけ」
男はそう言って、ふと笑う。その笑顔が、また更にその男を不気味に見せた。
「自由?俺には有り余るぐらいにあるだろ」
「いいや、ないよ」
「…は?」
白髪の男は、その純白のコートをはためかせる。気づけばそこは、愛しい人の…俺の後悔の場所だった。
「この孤児院に、君は縛られているんだ。自由。それは簡単には手に入らない」
男は振り返り、同じように笑う。塗りたくられた表情の奥でアインに語りかけるようだった。
「自由を得るには幾つかの条件がある。1.逆らう、2.後悔、そして…3.破壊……。君は1と2を今までに果たしたんだ。残るは破壊のみ…後悔が邪魔して、君を束縛する。自由を得るにはそれを破壊しなくてはならない」
目の前に差し出された、銀の拳銃…
それを何に使うのか、そんなことはもうわかっていた……
「……破壊…………」
「そうだよ、全てを壊すんだ。要らないだろ?全部、後悔なんて……最初からなかったことにするんだ」
白髪の男の瞳が、脳裏に焼きつく。
アインはゆっくりと、銀銃を構えるー
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