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ブーム君とヤドク君の秘密
3.双子の強敵
しおりを挟むどのぐらいたっただろうか。
辺りはすっかり暗くなり、頼りになるのは薄く灯る外灯だけ。未だにブランコを漕ぎ続けるオレらの手は錆がこびりついて痛い。だんだんと寒い風が肌をつき始め、息が暖かくなる。
「……お腹…空いたなぁ……」
「あ、そういや持ってきてただろ?なんか」
オレはリュックの中から小分けにしたパンを取り出し早速頬張った。たくさん遊んだ後だからか、そのパンがとんでもなく美味しく感じる。
「…帰らない?ブーム……」
「な、何言ってんだよヤドク!そんなんじゃまたお前…」
「…だって、寂しいじゃん……」
「ヤドク?」
ヤドクは青パーカーのフードを深く被り、その顔を隠す。そのまま勢いよく立ち上がると何歩かズカズカと歩き、オレを振り返った。
真正面から見る、オレと瓜二つの顔は大粒の涙を大きな瞳にたっぷりと浮かべ、鼻の先端は赤く染まっていた。
「ブームはずっと我慢してたんでしょ!?だって…だっておかしいよ!ボクらはこんなんなのに…他の子は……他の子にはお父さんとお母さんがちゃんといて…公園だって…今まで……ブームはたった一人で…一人で……」
涙を我慢した顔が、一瞬で崩れ、ぐしゃりと歪んで大声をあげ始めた。泣きじゃくるヤドクを目の前に、体は凍ってしまう。
でも、違う…
「ヤドクだってそうだろ!?ずっと家の中に閉じ込められて!外の景色だってろくに見れないで!おまけに暴力まで振るわれて!なんだよそれ!お前は…」
しゃがみこんだヤドクの顔を覗き込むと、ヤドクの肩がびくりと震えた。
それがオレの泣き顔に驚いたことだけは確かだが、どことなくその表情に安心のようなものも紛れ込んでいることに気づいた。
「お前は…あいつの玩具じゃないだろ?」
コクリと小さく揺れたヤドクの頭をわしゃわしゃと掻き撫で、抱きしめようとした手をぴたりと止めた。
誰かの気配を感じたのだ。
「ヤドク…ここで待ってろ」
「え…どうしたの?ブーム」
「こっち来んな!そこから絶対に動くなよ?いいな?」
「…う、うん。分かった」
公園からさほど距離が無い茂みの中で動きがある。野良猫や夜行性動物かもしれない…と思ったが、どうやらそういうわけではないようだ。薄っすらと遠くの外灯に照らされて出来た影は……人間のものだった。
「おいヤドク!逃げ…」
喉元に確かに感じる冷たさ…ゴクリと唾を飲むのは少し遅かったのかもしれない。
そうだ。浅はかだった。逃げようだなんて最初から無理なんだ…
「なんだよブーム~鬼ごっこなら俺も誘ってくれよぉ~」
猫撫で声の汚い声と濃い酒の匂いと煙草臭い口臭…間違いなくあの男のものだ。
髪を鷲掴みにされ、向きを無理矢理変えられる。
「ブーム!!」
向こう側でオレの指示通り待機していたヤドクもオレと同様にガラの悪い男に押さえ込まれていた。
「ヤド…ク……」
「ほーらどうだぁ~い?大切な大切なヤドク君が~お前の目の届かない所で~一体何をされていたのかぁ~今から実際にやってみたいと思いまぁ~す」
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