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ブーム君とヤドク君の秘密
6.双子の束縛
しおりを挟む遮光カーテンの隙間から僅かな光が溢れていた。
足でカーテンを少しだけ開け、外を見ようと身を乗り出す。
「外は危ないわ」
優しさを見繕った声が、ヤドクの動きを止めた。
必死に開けたカーテンは、再び閉じられ、室内には暗い蛍光灯の明かりだけが残った。
「あなたはどうしてそんなに外にでたがるの?外は危ないから、中にいなさいと何度もキツく言ったはずよ?」
「………」
こんな狭い所に閉じ込められ、夜な夜な訪れる男に弄ばれるのと、外でブランコに揺れるのでは危険度が圧倒的に違う。むしろ、中の方が危険だ。というか危険しかないだろ。
「ヤドク…あなたは特別な子なの……父親に似て優秀でおとなしい…冷静で、自制心が高い立派な子よ?あの子と違って…あなたは出来がいいのよヤドク」
「……違う…………ブームを悪く言うな」
「あら、そんな口を利くのね」
バシッー
頬を平手で殴られ、熱を帯びる。ヒリヒリと痛む後味に、必死に堪えようと唇を噛みしめるが、母親の怒りは治ることを知らない。
「あなたは特別な子なの!!どうして私の言うことを聞けないの!?どうしてよ!あなたは私のものなの!!誰にも渡さない!私だけのものなのよ!!私を置いていくなんて絶対に許さない!許さないんだから!」
何度も何度も頬を叩かれ、唇の端にジリリという痛みが走り始める。
狂った母親にそんなことを言わせているのはヤドクではなく、彼女に呆れて家を出て行った父親に対する思いだった。
だが、彼女は知らない…その愛する男が、この世にもういないことを……自分がその命を奪ったという事実を。
「そんなに外に出たいんなら、出てみなさいよ………」
焦げ茶色に落ち着いた母親の乱れた長い髪は、彼女の表情を隠すのに適した長さだった。その髪のおかげで少しは反抗的になれるような気がし、ヤドクは床から立ち上がった。
彼女がキッチンへとふらふらと消えていくのを確認し、閉ざされた遮光カーテンを豪快に開けた。
「うわぁ」
見たことがないほど綺麗な景色。
昼間の空はすごく青くて明るい。鳥のさえずりが今にも聞こえてきそうな快晴だった。
ブームはいつもこの空の下…ブランコに揺られているのかな…
でも、大丈夫!今日からボクも一緒にブームとブランコに…
「逃がさないんだから…」
聞いたことのない低い声に、大きく肩を震わせベランダの窓を背に振り返る。
そこには、鋭利な刃物を片手にジリジリと体をひきづってくる女の姿があった。それが実の母親であることに気づいた時は、それまでのいろいろなんて全部ぶっ飛んでしまい頭の中は真っ白になっていた。
「か、母さん……どうして……」
「いいのよヤドク…抵抗しても……その代わり…………お母さんと一緒に死にましょう?ね?」
「……や、やだ…………やだ!死なない!!」
ベランダの窓に飛びかかり、久々に開けるであろう鍵をガチャリと鳴らす。慌てて外に飛び出そうとしたがフードを掴まれ再び中に引きずり込まれる。
「やだ!助けて!誰か助けて!!死にたくない!」
ヤドクに馬乗りになった母親は、片手にある刃物を首に突きつけ身動きを取れないようにもう片方の手で頭を押さえつけた。
重圧で床に押しつぶされた頭のせいか、徐々に目眩がヤドクを襲い始める。
「お願いよヤドク……私だけのものでいて?ね?お願いだから……私を一人にしないでよ…あなたを誰よりも愛してるんだから…ね?ヤドク?私と一緒にいましょうよ、ね?」
プルルルループルルルルー
突如部屋に響きだしたその音が、母親の理性を取り戻させる。
母親はヤドクから手を離すと、受話器の方へと力なく歩き出した。しばらく事務的な会話を交わし戻ってきた母親は、恐怖で身動き一つ取れないヤドクを見て、優しく微笑む。
「そうよヤドク…やっぱりあなたはいい子ね」
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