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ブーム君とヤドク君の秘密
8.双子の片割れ
しおりを挟む「本当にオレらって双子なんだなー」
まだら模様の汚れがこびりついた全身鏡を前に、青パーカーを着たブームが何度か自分の頬をつねる。
「ほら、パーカー交換して、分け目変えただけで…な?」
「うーん、でも本当にバレないのかな?」
「バレないバレない!ヤドクの演技はピカイチだし~オレだって負けてねーし!」
「……そういう問題かなぁ」
「あ、てか母さん帰ってくる前にオレ縛られないといけねぇじゃん!ヤドク!思いっきり縛ってくれ!」
「はいはーい」
ブームが椅子に腰掛けると、ヤドクが縄で体を結ぶ。
「うわ、容赦ねぇな」
「仕方ないだろ?キツくしとかないとバレちゃうかもしんないし」
「まぁな」
時刻は午前0時を回った辺りだった。
「んじゃ、ボクはゴンさん家行けばいいんでしょう?」
「そ、こんちゃーって言えば泊めてくれる!」
「そっか……」
「どうした?」
「いや……その………本当にいいの?」
「え?何がだよ」
「その…ボクの代わりに……」
「そんなつもりじゃねぇよバーカ、早く口も塞いでくれ」
ヤドクが部屋を後にし、足音が遠のいていく中、ブームは何故か嬉しくも思えていた。出来損ないと言われ、毛嫌いされていた自分が、今日だけはあの人の特別になれると思うと幼稚な思考ではあるが、とても嬉しかった。
*
「ただいま~」
早朝、玄関で靴を脱ぐ音が聞こえ、ついつい期待で目を輝かせてしまったが、ほんの少しの自制心を発動させ、慌ててヤドクらしい演技をとった。
家を出た時と、全く変わらず椅子の上で縛られたままの少年に、女は安心したのかふぅと長いため息をついた。
「ヤドク~良い子ねぇ~じっとしてたの~?」
頭を後ろからわしゃわしゃと撫でられ、その手の冷たさに驚く。
ヤドクならどんな反応をするのだろうか…いや、あいつのことだからどうせ無視だ。
ブームは口を縛るタオルの下で、顔は似れども別人の演技に必死になる。無言でうつむく、ただそれだけの演技のはずが、妙な汗をかいてしまう。
「汗?あら大変。お腹も空いたでしょ?今から用意するからね」
母親はそう言って、それが何の意味としてつけられていたのかさえ危うくなるほど簡単に、縄を解き始め、最後に口のタオルを外すと、頭を無理矢理自分の方に向かせ、目を見ろと視線で合図してきた。
「ねぇ。ヤドク……やっぱりご飯は後でも良いかしら?」
何を言ってるのか、分からなかった。
急に真剣な表情になる母親の冷めた視線を前に、体は言うことを聞こうとしない。頭を掴む力はその細身から出る力とは思えぬほど強く、自然と唇が恐怖に震える。
なんだよこれ…どういうことだよ……
今まで、ヤドクは愛されてばかりだと思ってた。だけど……
「ご飯の前に、汗を流しましょ?」
「……う、うん」
あれ?
なんとも拍子抜けな展開に若干ついてこれていない思考を無理に引きずり、ブームは一人考え込む。
確かに前から、あの人のヤドクに対する想いは異常…というか、どこか外れているような気はしていたが、それはヤドクがオレを毛嫌いするあの人に対して何かしら反抗するからのことであって……
つまりそれって…………それって…
「…………ヤドクが…心配で?」
なんだかパッとこない結論だが、胸が痛むような気もする。家族というものがオレの中で壊れてしまってから、オレはいつも…いつも?
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母親の束縛であることに
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