セカンドアース

三角 帝

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ブーム君とヤドク君の秘密

9.双子の憧れ

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  青い空、吹き付ける風。揺れるブランコ。自由な手足…

  ギコギコとぎこちなく漕ぐブランコは、楽しくて…ヤドクはただブームが羨ましい限りだった。

  ブームが何故、1日交換だなんて言い出したのか…そんなことは薄々気づいていた。
  ブームは昔から、他人の気持ちを敏感に捕らえ行動する奴だったから、友達も多く、誰とでも仲良く出来ていた。でも、自分のことに対しては鈍感で、だからきっとボクに対する母さんの気持ちを勘違いしているのだろう。自分が本当に欲しいものが、思考の中で狂ってしまっているのかもしれない。

「ねぇ、あなた今日も一人なの?」

  ふいにそんな声がかけられ、顔を上げると、目の前に赤いワンピースの少女が立っていた。少女は優しく微笑むと、何を言うでもなく隣のブランコに腰掛け、ヤドク同様に慣れない動作でブランコを漕ぎ始めた。
  両足をジタバタさせている彼女は、前の自分に似ていて、思わず吹き出してしまった。

「なによー」
「いや、ごめん…漕げないの?」
「漕げないわけじゃないわよー」
「あはは、実は…ボクもなんだ」
「え?」

  少女は不思議そうな顔をし、ヤドクの顔を覗き込んだ。

「え、どうしたの?」
「いや…なんだか昨日と違うなぁ~って思って」

  マズイ!
  そうか、今ボクはブームのふりをしていて…この子は今までに本物のブームと接触があるのか。

「えっと…その……えーっと」
「あなた、名前はなんて言うの?」

  名前を知らない?
  なら、ブームと知り合ってまだ日が浅いのかな?それとも単にブームが今まで名前を名乗らなかった?

「オレの名前はブ……」
「ブ?」

  ふいに言葉が止まってしまい、胸の奥で何かがざわめく。はっきりと明確に、自分の気持ちが見えそうで目を逸らそうと抵抗するが…

「ボクは…ヤドク……ヤドク・カーマン」
「へー!ヤドクって言うんだ!私はギアンっていうの!よろしくねヤドク!」
「う、うん…よろしく……」

  ブームの姿を使って作った初めて出来た友達…なんだか気が進まないが、ヤドクは少し興奮していた。
  友達というものがどういうものかはいまいちよく分からない。ブームが昔、家に友達を連れてきたことがあり、その時は何故か緊張したものの、その和やかな雰囲気に羨ましいと思っていた。ボクも欲しい…と。
  ボクが何故その輪の中に入れないのかは、きっと自分が酷く臆病だからなのかもしれない。どうしても他人を疑ってしまうボクは、人を見ると、その人の本性とやらを探ろうとしてしまう。だけどブームは違って、その人の悪い面より良い面をたくさん見つけて、その人自体を変えてしまう…

「ねぇ!ブランコばっかじゃつまらないでしょ?あっちの砂場で遊びましょうよ!」
「え、あ、ちょっと…」

  少女はヤドクの腕を引っ張り無理矢理砂場に引きずり込んだ。強引な子だとまたまた評価してしまうが、振り返った景色にヤドクは唖然とした。
  ほんの少し前までヤドクの座っていたブランコの上に大量の泥が散乱していたからだ。その後ろの茂みの奥からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「……あれ…なに…………」
「ごめんね…私のせいなの…」
「え?」
「…昨日、私がブランコ漕ぐの下手だからってあなたが後ろから押してくれたの…だけど私……その時、手が滑ってブランコから転んじゃって…あなたは全然悪くないのに…みんな…みんなが……あなたを悪く言うから…怖くて泣いちゃって…」

  ブームが…

「い、いいんだよ…そんなこと……」
「良くないもん!みんな、あなたのことを悪く言うの…お家の人が公園についてきてないことを悪くいうの…きっとお仕事が大変なお母さんなのかもしれないのに!みんなそんなこと言うの!」

  そっか……ブームは…ブームはずっと…ボク以上に我慢して……

「だから、だから私…」
「いいんだよ…君は悪くない」

  ブームならきっとこう言うのだろう。
  ヤドクは少女に少しだけ近づくと慣れない手つきでブームのように頭をわしゃわしゃと撫でる。少女は真っ赤な目尻を何度も擦りながら、ヤドクに抱きつくと、耳元でひぃひぃと嗚咽を漏らした。

「ボクの名前…本当はブームって言うんだ」
「え?」
「明日からも、ボクと…ブームと遊んでくれる?」
「……うん!ずっと友達だよ!ブーム!そして…」

「ヤドクもね」
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