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アダム君の秘密
2.黒の忘れ物
しおりを挟む「お前、人殺しなのか?」
緑色のダボっとしたパーカーを見に纏った少年は、何の気もなしにそう尋ねてきた。
「…そう…かもな」
「誰殺したの?何人?」
「忘れた……」
「普通忘れる?」
「…よく分かんねぇ」
「無意識か…スゲェなぁ」
さぞ関心した、とでも言うように少年は何度かうんうんと深く頷き、その場を去った。
一体全体、今の現象が何だったのか…ま、そんなことはどうでもよく。アダムが現在最も疑問に思うのは、先ほどの少年が二人存在するということであった。単なる見間違えだとばかり思っていたのだが、そう考えると、どうも辻褄が合わない。
~それは一昨日の出来事だった~
アダムが数ヶ月ほど前、突然入れられることになったアリダン国の孤児院は、寒い時期が近づくと水道管が凍結し、シャワーが使えなくなる。そのため、孤児達は、大浴場と言われる巨大風呂にイモ洗い状態で入浴することになる。人と馴れ合うのに多少の抵抗があったアダムは、脱衣所に入室するなり、同い年ぐらいの男児の裸体に困惑し、恥ずかしさのあまり外へ飛び出した。
「どうしたの?」
ふと顔を上げると、青パーカーにジーンズというラフな格好の少年が、アダムを不思議そうに眺めていた。
みんなと一緒に入浴するのに抵抗がある…などと言ってしまえば、男らしくないなどと思われてしまうかもしれない。そう思うと気が引け、口を詰むぐ。
「あ、もしかして君…アダム・アリーダ君?最近、孤児院に入ってきたっていう…」
「…あぁ」
「そっか~慣れないよね~みんなで入るお風呂なんてさ!ボクも実のところは未だに苦手で…」
少し照れたように少年は目を伏せる。
なかなか友好的な雰囲気の少年に、アダムはどこかホッとした。
孤児院に来てからというもの、ろくに人と会話をすることのなかったアダムにとって、少年は初めて面と向かって会話をした相手だった。
「あ、そうだ!夜になったらまたここに来るといいよ!そしたらみんなもいないし、一人だけでくつろげるよ!」
「……ありがと…」
「ん?何か言った?」
「…な、何でもねぇ」
「そっか!じゃ、またね!」
少年は脱衣所の扉を開き、中へと駆けて行く。その後ろ姿には、アダムが抱えているような悩みや不安や迷いは一切なく、さらなる孤独感をアダムに与えた。まるで、アダムの気持ち全てが小っぽけだとでと言うように…
ぽっかりと穴が空いたような空を、アダムは、一人眺める。
思い出せないものが多過ぎて…なんだか少しだけ寂しくなる。孤児院に来たばかりの頃は、自分が誰なのか、何処から来たのか…何も思い出せなくて、子供達のはしゃぎ声は雑音で、修道女の励ましはエゴで、孤児院はアダムにとっての牢獄同然であった。
「どうしたんだ?」
不意に声をかけられ、フラッシュバックする光景から、現実へと引き戻される。
「…いや、別……に…」
顔を上げずに、視線だけで伺ったその声の主に、アダムは一歩後ずさる。
緑色のパーカーを着た少年は、ニカっと笑うと、先ほど同様に不思議そうにアダムを眺めた。
「あ、お前!アダム・アリーダだろ!オレはブーム!ブーム・カーマンっていうんだ~親しみと敬意を込めて、ブームと呼んでくれ給え!」
なんだかさっきとキャラが若干違うような気がしする…
「…ブ、ブーム…まだ風呂入ってないのかよ」
「ん?風呂?えーっと、今からだけど?」
「は?だってさっき…」
おかしい。そんなはずは…
「どうした?」
「いや、だってさっきお前…入って行って…」
まさかこいつ…俺をからかってるのか?
もう一度まじまじと少年の顔を眺める。どこから、どの角度から、どのように見ても、少年の顔は先ほどの…いや、またさらに不可思議な状況になっている、もしさっきの奴が同一人物だとしたら…わざわざ服を着替えてくるか?
こいつ…本気で俺をからかってるのか?
「んー、よく分かんないけど、よろしくな!アダム!あ、アダムって呼んでいいだろ?アダム!」
「ご勝手に」
「うわーぃ!ヤドクに知らせなきゃ!」
そっちがその気なら…こちとて、黙ってはいられない…
売られた喧嘩は、丁寧に返さなくてはならないのだから
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