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紫蘇鳥

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本編

第13話 命拾い直して、気を取り直して

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 どのくらい、僕は暗い曖昧とした無意識の波間を漂流していただろうか。僕の目は、戻る意識と共にゆっくりと開かれた。
「……生…き…てる…?」
 目が覚めてすぐには、自分に命があることがすぐには信じられなかった。やっぱ僕は死んでるんじゃないか?この疑問がすぐに消えないのは、あの意識を失う前に見た、僕の体から大量に流れ出ていく血を見たからだろうか。
 幸い、思い出して吐いたりしていないのを見ると、PTSDとかにはなっていないと分かった。案の定、僕がいたのは病室だった。点滴が腕に打たれ、ポタ、ポタ、と、僕の命を繋ぐ音を立てていた。その時、まとまらない僕の頭は、今やっと、ナースコールで自分の意識が戻ったのを伝えるべき状況だと判断した。少々、患部である脇腹が痛むが、体を動かしてコールボタンを押した。
 30秒もしないうちに、看護師さんらが僕の所に駆けつけてきた。
「意識が戻ったようで何よりです!」
 看護師の女性は、安心しながらも、僕に対しても安心を促すような、優しくて強い声でそう言ってくれた。その言葉で、段々自分が現世で生きているのがしっかり認識できるようになった。
 ———と、その時、僕は忘れてはならなかったものを思い出し、狼狽えた。
「っ!!そうだ!楓花は大丈夫なんですか?!」
 またもや頭が回らない状態で、必死に看護師に訴えた。しかし、もう1人の看護師が、
「大丈夫ですよ!幸い、楓花さんは命に別状はありませんでした。ですので星宮さん、落ち着いて下さい」
 と、僕のほとぼりを冷ますと共に朗報を教えてくれた。本当に良かった。楓花には絶対に死なれて欲しくなかったからこそ、その言葉を聞いた時には、一瞬強張った体が一気に緩んだ。
「…すみません、今楓花に会うことはできますか?」
「彼女はすぐに回復して、今は充分に健康体ですので、恐らく大丈夫だと思いますよ」
 看護師の女性は、そう表情を緩めて言うと、もう1人の看護師の人を残して、僕の部屋から素早く出て行った。

               ❤︎

 暫く経った。静かな僕の病室に、さっきの看護師が戻ってきた。そして、看護師の後ろから続いて、楓花が歩いてきた———。一瞬見えた楓花は、不安と期待の両方の感情を抱いた様子で、やつれた顔で俯いていた。しかし、僕と目が合った瞬間、彼女はすぐに、目尻から涙を滲ませた。そして、その涙の粒が、すぐに頬を伝って落ちた。
「っ!…瀧くん!」
 彼女はその場にいるのがままならなくなったのか、走って僕に駆け寄り、間髪入れずに、僕を抱き締めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!瀧くん!!!瀧くん!!!」
「楓花ぁ…楓花ぁっ…お前の顔二度と見れなくなるかもって思って…すっげぇ怖かった…生きててありがとう…大好き…」
 聞くはずもなかった、楓花の心からの安堵の大泣きを聞いて、僕もつられていつの間にか静かに泣いていた。彼女の抱き締める強さは、今までに体験した比じゃなかった。申し訳ないところはあるが、看護師さんの目は気にしていられなかった。胸一杯に広がる楓花の体温が、僕を心から優しく温めて、安心させてくれた。心の疲労感が打ち解けていくような心地がした。
 と、突然、彼女の体の力が抜けた。そして、途端に僕の方に重力がかかった。
「おぉっ、おい楓花!大丈夫…って」
 一瞬肝が冷えたが、彼女の肩がゆっくり揺れているのを見て、すぐに寝ているのを察した。しかし、どうしてこんなところで彼女は寝落ちしたんだ?僕が疑問を浮かべていると、看護師が、
「あっ…そういえば、実は楓花さん、最近あまり寝られていないようでして…」
 と、少し心配そうに言った。それを聞いただけで、僕は、彼女が寝られなかった理由が大体理解できた。恐らく、瀕死の重傷を負った僕の意識が数日に渡っていつまでも戻らなかった事が、彼女の安眠をことごとく妨害したのだろう。
「…看護師さん、無理なことかも知れませんが…」
「何でしょうか?」
「楓花と少し一緒にいても良いでしょうか?」
 看護師の2人は、僕の気持ちを読み取ってくれたのか、
「勿論、良いですよ」
 と言って、病室から静かに出ていった。そして、病室にいるのは僕と楓花だけになった。
 暫く彼女と抱き合った体勢のまま、ぼーっとしていた。
「…楓花、怪我人に乗っかるんじゃないよ」
 ふと、楓花にずっとのしかかられるのに筋肉が疲れてきたのを感じて、僕にも楓花にも負担がかからないように、ベッドに楓花ごと横になった。楓花はその動きで、夢の世界から舞い戻って目を薄く開けた。
「あったかい…」
 彼女は、微睡んだ目で、底知れない多幸感に包まれた顔をしていた。久しぶりに、このかわいい顔がまた見られた嬉しさで、さっき止まった筈の涙がまた出そうになった。
「…靴…脱いだ方がいいんじゃない…?」
「ほんと…だね…えへへ…♡」
 そう言って、彼女は寝ぼけながらベッドの足元に靴を揃えて置き、ベッドの周りを囲えるカーテンを完全に閉めた。ベッドの中は薄暗くなる。そして、彼女は再度、僕の横に戻って来た。彼女のふわふわした優しい香りが、僕の心を落ち着かせた。すると、突然、楓花はまた泣き出した。
「…やっぱ…さみしかったぁ…離したくないよぉ…もうずっと…ずっとぉ…」
「へへっ…ここ病室だぞ…?」
 余程僕のことが恋しかったのかは知らないが、彼女は僕に必死になって抱きつきながら、か細くそう言った。いつもの元気な感じが見えないのに、一抹の不安を覚えるところもあった。しかし、兎にも角にも僕達は、ここ最近の騒動で疲れたのだ。今はこうやって抱き合っていよう。根拠は無いが、何となくその方がきっと健康に良い気がした。
 そう思いながら彼女と抱き合っている内に、疲れの溜まっていた僕達がいつの間にかそのまま寝ていたのは言わずもがなであった。

               ❤︎

 「おはようございます。体は大丈夫ですか?」
 僕達の無事を確認しにきた看護師さんの声を聞くと同時に、目が覚めた。やはり、まだ僕の上には、だらしなく寝ている楓花が乗っかっていた。まあ先に起きるわけないか。
「お、おはようございます、僕は大丈夫です。…あ、あと色々とすみません」
 この姿を見られるのは少々恥ずかしかった。僕は楓花を体の上に乗っけながら、看護師さんに軽く謝った。看護師さんは特に気にしていなかったようで、
「大丈夫ですよっ。点滴の管が外れないようにだけ注意して下さいね」
 と言って、また病室から去って行った。楓花はすぐには起きなかったが、僕が彼女の背中をさすさすしていたら、いつの間にか起きていた。
「…おっはぁ」
「おはよ」
「んみゅ…♡」
 重たそうな瞼を少し開いた楓花に、寝起きの挨拶しながら、彼女の頬を指先でむにむにと押した。楓花は寝起き3G回線モードのまま、気持ち良さそうに声を上げていた。お前は飼い猫かよ。
 寝起きに少しいちゃついた後、僕達は取り敢えず起き上がって、ベッドの縁に並んで座った。
「あの子には悪い事しちゃったかもなぁ…」
 楓花は、溜息を吐きながらそう呟いた。彼女が気にしているのは言うまでもなく、あの謎の少女の天使が襲撃してきた時の事だろう。楓花は、心の中に拭い切れない罪悪感を持っているようだったが、彼女だって、今は大分マシになったと言えども、あの天使の初見殺し攻撃で肩に深い傷を負わされた身だ。あの天使に対しても、もっと何か他に手段は無かったのか、と言いたくなってくる。しかし、もしアリスちゃんが、あの天使の少女にとって最愛の人だったりした場合、楓花のやった事も庇うのは難しいかも知れない。だ・が・し・か・しィ!!!僕はうるさいという理由一つであの少女に全殺しされかけたァ!不平等!僕達だって物申す権利あるだろォ!…って、ぶっちゃけ言いたいんだよね。
 …多少の理不尽に対して心の中で怒るのは程々にして、楓花に視線を向けた。楓花のかわいさはやはりいつものように折り紙つきだったが、一方で、今日の彼女はいつもと比べあまり元気が感じられない。思い悩む事が沢山あるのだろう。僕として、あんまり彼女に心を病まれてはいられないのが本音だ。
「退院したら今度こそ西寺達と飯食いに行こうな!」
 彼女の憂鬱を紛らわせるよう、話題を変えた。
「瀧くんの腸に風穴空いてなかったらね!」
「怖ぇこと言うなぁ…」
 言動は若干恐ろしいが、楓花が少し笑ってくれて安心した。しかし、安心しているところに水を差すように、腹部の傷が鋭い痛みを発した。
「ゔっ」
「えっ瀧くん?!大丈夫?!」
 楓花は僕に直様駆け寄って肩を持ってくれた。だが、すぐには痛みは引かないようで、その鈍痛に顔が自然と歪んでしまっていた。
「えっと…まあ一応看護師さん呼んどいた方が良いかもな…」
「今呼んでくるから待ってて!」
 正直、まだ耐えられる程度の痛みではあったが、彼女は僕の言葉を聞くなり、心配からか、肩に傷があるとは思えないくらい、ぴょんぴょん跳ねながらダッシュで病室を後にした。今日も相変わらず嵐みたいだねぇ。姿が見えなくなったのも束の間のこと、大きな音がして、「あいったたたたたた」と楓花の声が廊下にこだまして、僕の耳にも届いていた。
「廊下を走るなってこういうことだったんだね」
 いつの間にか口からそう漏れていた。

               ❤︎

「安静にしておいた方が良いですね。まだまだ治りきってはいないので」
 落ち着いた声で看護師さんは僕らに言った。
「えっと…それってボクも…ですか?」
 楓花は看護師さんに問いを投げた。
「楓花さんも傷は浅くないので、傷が開かないようにできるだけ安静にした方が良いでしょう」
「はぁい…」
 楓花は看護師さんの言うことには従うようではあったものの、不服さが隠しきれていなかった。僕の肩を掴む手に力が篭っていたあたり、僕と一緒にいられないのが心底嫌なのが何となく伝わってきた。と、そこで、看護師さんが僕達の顔を見るなり急に顔を明るくして、
「あっ、できるかは分かりませんが、病室を一緒にするのを検討しましょうか?」
 と何とも粋な提案をしてくれた。僕と楓花は同タイミングで、
「是非とも宜しくお願いしますっ!」
 と、揃ってハモり気味で即答した。
「あと星宮さん、貴方は腸にまで傷が到達していて食物の消化に影響を及ぼす可能性があります。ですので暫くは点滴です」
「…マジですか…」
 それは冗談であって欲しかった(血涙)。

               ❤︎

 一週間程、僕は病院で時を過ごした。やはり僕と違い楓花は思ったほど重傷では無かったようで、部屋を同じにしてもらったもののそのあと2日でケロッと退院していった。やっぱり俺はロンリネス不可避か?と思っていたが、楓花が毎日病院に通ってお見舞いに来てくれた。病院にいる間、それらが物凄く心の支えになった。
 ところで、側から見れば不審過ぎる心中未遂にしか見えないあの少女襲撃事件が、世間でどう処理されたかというと、今まさに調査が難航しているところである。
 そして、その中で主に傍迷惑だったのが一つある。それは、正体不明の損害賠償金だった。その賠償金は、僕と楓花の家から、それぞれが退院する1日前のタイミングで、それぞれ違う額が発見され、そのお金の上には、文章の書かれた色紙が置いてあった。そして、色紙に書かれていた文章といえば、『今回の慰謝料です。掛かった医療費と同じ分と、お詫びの分が入ってます。本当にすいませんでした。』というものだった。まさかとは思っていたのだが、退院する時に提示された医療費とその謎のお金は殆ど同じで、差し引いた分も凄くキリの良い数字だった。僕と楓花は、あの事件の真相を目の当たりにしているただ2人の当事者であり被害者だから、このお金が天かどっかから降ってきたんだろうな、と納得できた。しかし、それで終わっちゃ世間は許してくれぁせんよ。その2連続で起きた不可解な事件にマスゴm(殴マスコミが家に押しかけてきて、普通に日常生活を送るのがままならないくらいに大変なことになった。あの時は、ピンポンを問答無用に鳴らしてきたり、学校から帰った妹を許可なく質問責めして、しまいには泣かせたり(これには僕もブチギレた)と、迷惑極まらんばかりの取材の圧にもう屈するしか手が無かった。母もこんなことは経験したことは無かったので、明らかにいつもより疲弊しているようだった。
 まあ、結局僕達の家から出てきただけでなく、第一発見者が僕達の家族であり、他の人間が持っていた証拠が一つたりとも無かったので、僕達は取り敢えず賠償金は補うことができた。だが、今回それと同時にマスコミの半端なさを知る羽目になった。本当、頼むから勘弁してくれよォ…。

               ❤︎

 そうして、少し前には色々あったが今日は平和に、家から15分くらいのところにあるAE◯Nにて楓花と買い物しているところだ。今日は少し前とは打って変わってペタ平和だ。もうそろそろ、このもぺもペみたいなテンションの上下の激しい毎日に段々慣れてきた…というか耐性が付いたような気がしてくる。
「そこのクレープ屋いぎだいぃ!!!」
「また今度行こーか、俺達だけで行っちゃうと琉奈がまた泣くし」
 煩悩まみれの楓花にさらっと返事を返す。楓花は余程クレープをみたいのか、
「いぎだいもんっ!だぁってぇ…」
 と駄々をこねこねしている。楓花は尋常じゃないクラスで欲望に従順だから、基本こういうのには我慢が利かないのだ。時計を見ると、時間は午前11時。まだ昼ご飯すら食べていない。
「まあまあ、先に昼食を」
 言いかけたところで、楓花がいつの間にか僕の隣から綺麗に消えているのに気付いてはっとなった。まさかと思い、今さっきから話に出ていた、斜め後ろのフードコートの入り口にあるクレープ屋を振り返って見れば、もう既に何かしらを注文しているところだった。もう手遅れやん。僕は思う間も無く両目に手を当てていた。
「…Holy shit…」
 苦笑いと共に言葉が滲み出てきた。本当に楓花は自由奔放過ぎて時に困ってしまう。楓花が注文し終わるのを待って、ルンルンで僕の元に戻ってきた所で肩をガッシリ掴んだ。
「あなたの今日の昼飯はどんなクレープなんですかねぇ()クレープって言ってもさぁほら普通に食事として食べれるやつとかあるよね~?まぁ~さ~か普通に甘いやつ頼んだとか…無いでしょうね?()」
「イチゴのやつ頼んじゃったッ☆」
 楓花はウインク&舌ペロで誤魔化そうとしているが、楓花は琉奈とは逆に、一般おじいちゃんの胃袋を少し広くしたくらいのレベルの少食さんだ。クレープを食べた後に普通の昼ご飯などとてもとは言わないが食べられたモンじゃないのだ。よって昼飯をおやつに食べるようなクレープに変えた罪は誤魔化せないッ!
「後で俺復活記念も兼ねて久しぶりに軽くお仕置きされよか!」
「ふいぃ~…」
 楓花は渋い顔で謎の鳴き声を上げた。
「琉奈にも協力してもらうか!」
「ギャーーーン」
 楓花がクレープを頼んでしまったから、僕も少し早めだがフードコートの店物色してパスタかなんか食おう。クレープ屋の近くの席を見つけて楓花を座らせておいて、フードコート内の店を見始めた。ビッグマックが食べたかったので、マクド◯ルドを見つけるなりそこに向かった。注文を終えて、店員さんから呼び出しベルを貰う。そして、席に戻ろうとして、僕は見知った顔を目撃した。西寺と未伊ちゃんが横並びで歩いていたのだ。
「おーい!久しぶり~!」
 声を掛けると、2人はとても驚いた顔でこっちを向いた。そして走り寄ってきた。先に西寺が到着して、僕の肩に腕を掛けてきた。
「生きてて何よりだわ!調子はいい感じっ?」
 西寺は元気そうにニヤニヤして僕に問いかけてきた。
「至って良好!心配無用!」
 僕もできるだけ元気良く返事を返して、肩に腕をかけ返した。すると、未伊ちゃんがひょこひょこやって来て、
「久しぶりぃ!元気そうで良かったぁ~!」
 と言って、スマホを取り出してカメラを向けた。僕と西寺はピースしてそれに応えた。彼女が撮り終わると、僕達は腕を解いた。
「後でそれエアドロで送って~」
「Androidだから無理だよぉ…」
「じゃLINEでお願いするわぁ」
 2人の写真の共有の話が終わると、未伊ちゃんが、
「今日1人なの~?」
 と聞いてきた。
「いや、楓花と来てる。向こうの方の席で座ってるヨ」
 楓花のいる方を指差すと、西寺が、
「じゃあこの際一緒に食おうぜ!」
 と提案を出してきた。良いぢゃん良いぢゃん。
「おっけ、席案内するわ」
 僕はそう言って、2人を誘導して楓花の席の方に歩き始めた。2人が特に変わったこともなくニコニコしているのを見て、ちょっとばかし安心できた。
 楓花の席に着く前に、未伊ちゃんは楓花の姿が見えるなり駆けていき、楓花にぎゅむっと抱きついていた。楓花は一瞬困惑した顔をしたが、すぐに未伊ちゃんだと分かり頬を擦り付けて抱き返していた。
「楓花たん久しぶりぃ!やっぱかわいいねぇ~♡」
「未伊ちゃんもかわいいよぉっ♡おひさ~!」
 2人はくっつき合って大層再会を嬉しんでいた。なんて平和なんだ。この前に見た、天使の少女のあの絶対零度の視線とは全くの逆と言っても差し支えないだろう。
 2人用のテーブルだったので、横の同じテーブルをくっ付けて面積を2倍にして、椅子も移動させ4人席仕様にした。こうして4人全員席に着くと、今度は各々、昼ご飯ができたのを受け取りに行った。全員席に揃って食べ始める。その内に、自然に談笑が始まる。
「や~怪我だけじゃなくてマスコミも大変だったんだってな!ほんとにお疲れさんだなっ」
「全くだよ、あいつら妹を泣かせやがったんだよぉ嗚呼許せんなぁっ!」
 僕がやるせない気持ちを胸に愚痴を吐いたら、西寺が急にきょとんとした顔で僕を見てきた。
「ん?妹?お前妹いたっけ?」
 いや知らんのかいな。しかし知らないのならまあ仕方ない。
「いるんです~めちゃくちゃかわいくてすぐ泣く妹がねぇ」
 僕はそう言いながら、西寺にメイド服を着た琉奈の写真を見せた。それを見た彼の目はいつの間にか、ガンギマって爛々としていた。そして、彼は絞り出すような口調で、
「…天使かこの子は?」
 と呟いた。ああそうさ、琉奈は天使みたいにかわいいんだよ。
「少なくとも俺と楓花は天使だと思ってる」
 僕がそう言っていると、いきなり手首が掴まれる感覚があった。
「え゛ぇ゛なぁにこの子かわいいかわいいかぁわぁい~い~!!!やばいぃ~会いたい会いたい会いたい!」
 何かと思えば、未伊ちゃんが発狂するくらいの形相で画面の中の琉奈に食らいついていた。やっぱ琉奈は人気者だな。
「ちょいちょい、流石にがっつきすぎ。今度会わせてあげるからさ」
「勝手に話進めんといてぇさ。…良いけどネ」
 楓花は未伊ちゃんの興奮を鎮めるために弁解として話を出しているが、琉奈も交えて会うとなると、僕達の都合が直に絡むのは頭に入れて頂きたい。
 未伊ちゃんが気が済むまで僕のカメラロールの琉奈の写真を網膜に焼き付けてもらって落ち着いたところで、食事がぎこちなくも再開した。
「星宮はやっぱここ来たらマック1択なのか?」
 西寺が後ろのフードコートに目をやりながら聞いてきた。もちろんさぁ~という前に、よくよく考えてみたのだが、普段フードコートで何食べるとかは気にしていなかった。マクドナルドはかなりよく行くが、偶に他の店でパスタやうどんを頼むことはある…って大体粉もんじゃねぇか。どうにもこうにも返答に困った僕は、
「気分」
 と一言で適当にあしらった。すると、楓花が急に腕をツンツンしてきて、横を向いたら、悪どさを孕んだ笑顔の彼女がいた。そして、すぐに彼女の口が開いた。
「今日のも統計に入れたらここ来てマクドナルド頼んだ回数22回中18回だけどほんとに気分なの?()」
 なんで僕自身も知らない事知ってんのっ?!
「はい、ホントはマック大好きマンです」
 別に隠していてもしょうがないのであっさり白状した。言われてみれば、ここに来たら大抵マクドナルドに足を運んでいた。まあそれくらいヘビーカスタマーなのだ。健康に悪いとかは今更言われてもしょうがないんよね。それはそうと、僕のことを楓花はそれだけよく観察してるのかと考えると、関心と共に多少の怖さもあった。
「楓花は瀧くんのことめっちゃ見てるんだね~」
「だって、会える時間は一応限られてるんだからさっ」
 未伊ちゃんにそう言いながら僕の肩に寄りかかる楓花は、その洞察力に見合わないくらいにいたいげな目をしている。やはり楓花の純粋さをふんだんに含んだ雰囲気は、僕だけでなく周りの人まで明るくしてくれる魔法のようで、さっき感じたちょっとの怖さはいつの間にか消えた。
「楓花、食事中だぞ」
「むぅーわかったよ~」
 楓花はピーピー言いながら僕の肩から離れて、クレープに齧り付いた。僕はそれを横目で見ながら、ハンバーガーを口に運んだ。注意した立場の僕が、逆にクレープを頬張って満面の笑みを浮かべている楓花に全身で抱きつきたいのは内緒だ。
 サムライマックを腹に入れて、僕以外も全員食べ終わったところで、西寺が、
「この後はどうするか?」
 と、僕と楓花に聞いてきた。久しぶりに会えたのはとても嬉しいのだが、折角2組ともデートしてる最中だ。この後は別行動の方が良いかなと思い、
「じゃあ今日はここらでおいとまするか」
 と言っておいた。西寺も頷いたので、各々店にトレーを返却した後、僕達は荷物を持ってフードコートから出て、ニ手に別れた。

               ❤︎

 西寺達と別れて、次に僕の頭に浮かんできたのは、楓花の仕置きを何処でするのが良いかという事だった。ここはまあ当たり前だが子供もいるようなショッピングモールだ。トイレでも聴かれる危険が危ない(?)。ということで、最終的にどうしようもないなと思い、家に連れていくことにした。楓花は苦い顔をしていたが、もう一度アリス達に会うのも兼ねてと言ったら渋々OKしてくれた。
「ねね、そういえばどうやって呼び出すの?もうポムポムプ◯ンの中にはツイスターくんいなかったけど?」
家に帰る途中、楓花が聞いてきた。僕は、前に呼び出し用に貰った星形のアクセサリーをポケットから取り出して、彼女に見せた。楓花は不思議そうにそれを手に取って、じっと見つめた。
「…なんか生暖かいね」
「そうなんだよね、なんかすげー力入ってんのかも」
 楓花とそのアクセサリーをしばし観察して、そのままゆっくり家へと帰ってきた。結局琉奈は家にいなかった。確か「パへ食べてくる~」とLINEで来ていたので多分カフェかどっかにでも行ったのだろうとあんまり気には留めていなかった。早速楓花と一緒に自室まで行く。そして、並んでベッドに腰掛けた。
「…じゃじゃじゃ、じゃあ早速アリスちゃん達とぉ…」
楓花が焦り気味にそう言いかけたところで、お仕置きを誤魔化したいのが一目見て分かった。もっと言葉巧みに誤魔化そうよ()。
「先にしといた方が後でめんどくさくならないよ~?」
そう言って楓花の肩に手を置く。楓花はすぐに観念したのか、
「別にめんどくさいなんて思ってないもんっ…///」
と言って、ベッドに横向きに転がった。その瞬間に、彼女の雰囲気が一気に淫らなものに変わった。楓花は状況に応じて色んな印象を見せてくれるのもまた、良いなぁとしみじみ感じる。
「今日は手加減するから大丈夫」
楓花に優しく声を掛けた。そして、僕も続いて楓花の横に寝転がる。
「やるならしっかりしてよ…♡」
今日の楓花は前よりも大人っぽいな。そう思いながら、楓花の体に手を掛けた。よーし、久しぶりに張り切っていくぜ。

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