駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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うわべだけの会話

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 日が落ち、街灯がともり始めた。
 公園前の側道に、仕事帰りのサラリーマンが増え始める。

「もう、終わろう。いいよね?」

 息を切らした未沙が、ダンスの終了を告げた。

「ヨシカ、ずいぶん上手くなったよ。切れも良くなった。あとはそうね、手足の振りがずれないように気を付けて。 そしたら、もっと切れが良く見えるから」

 四日。占めて四千円。

 高校生になったばかりの良夏は、まだバイトだって見つけていない。
 決して安くない金額である。

「本当に上手くなったかな?」

 自信なさげに未沙に問う。
 これで成果が無ければ、踏んだり蹴ったりだ。

「四日前の動きとは全然変わったよ。自信持って」

 未沙の答を聞きながら、良夏はずり落ちてしまった白いハイソックスをたくし上げた。

 制定より少し短くしたスカート。膝には青痣ができていた。
 最初、未沙のテンポについて行けず、ステップの途中で膝をついてしまったせいだ。

 ――頑張ったもん。

 とにかく今は、未沙の言葉にすがろうと思った。

「お疲れ。ピザでも食いに行こっか」

 龍也がポータブルプレイヤーを片付けながら話しかけてきた。

「行く行く」

 未沙が汗を拭きながら言った。

 もちろん良夏も賛成だ。

 ――行かなきゃ損でしょ。

 こういった飲み食いも、料金のうちなのだから。

 三人はそのまま駅前のファミレスに入った。

 塾帰りの高校生が目立つ。あとは、雑居ビルのOLたち。
 ざわざわと落ち着かない雰囲気が、かえって学生らには居心地がいいのだろう。
 やたら明るい安っぽい照明やガチャガチャと響く食器の音は、一人ひとりの個性を消して、ただの〈学生たち〉というくくりにしてくれるのだ。

「で、ナオ君に何を言ったの?」

 ドリンクバーから戻って来た未沙が、龍也の隣に座った。

「うーん……髪が綺麗だって。あ、いや、男じゃねえみたいにサラサラした髪だって、言ったんだよ」

 龍也は困った顔で答えた。

「それだけ? ほんとに?」
「本当だよ! そしたら、顔色変えてさ」
「タツは空気読めないからねえ。ほかにも余計なこと言ったんじゃないの?」

 容赦ない未沙の言葉に、龍也は肩を丸めた。
 
 そんな龍也を無視して、今度は良夏に尋ねる。

「髪とかにコンプレックスあったのかな?」
「さあ? そんなことないと思うけど。あたしも久しぶりに会ったの。久しぶりにゆっくり話したくて、誘ったんだけどなあ」

 ポテトに手を伸ばす。

「あの子さ、小五までは本当に仲が良かったんだよね。けど、尚が五年生の終わり頃から、急に暗くなってさ。あたしが中学に通う頃には、いじめられてるとか、不登校だとかって噂があって、結局、修学旅行も行かなかったらしいんだあ」

 良夏がコップを手に、腰を上げた。

「ジュース、お代わりして来るね」

 良夏が席を離れるのを、未沙が目で追った。
 視線を自分のコップに戻し、ストローでかき混ぜた。

 ぷつぷつといつまでも小さな泡が消えない緑の液体に、間仕切りのステンドグラスが映り、不思議な色を作った。
 未沙が氷を入れないのは、いつまでもこうやってかき混ぜる癖があるからだ。炭酸が抜ける頃、ようやくコップに口をつける。

「……不登校なのに、頑張って進学校に行ったんだな」

 龍也は勉強が嫌いだったから、尚の選択が信じられない。尊敬に値すると思った。

「違うよ。ヨシカたちの校区からは、新栄に通う生徒が少ないでしょう? だって、ヨシカの通う県立高校だって、結構な進学率だもん」

 アイスティーを手に、良夏が戻って来た。

「何の話?」
「うん。ナオ君さ、わざわざ同じ小学校から通う生徒の少ない新栄学園を、選んだんだなって思ったんだ。新しい、自分になりたかったのかなって……」
「そうなのかな。よくわからないわ。まあ、いいじゃん、ナオのことは。それよりさ、あたしの動き、本当に良くなった?」

 ――まあいい、か……

 勝手なものだ。自分が無理やり連れてきたくせに。

 二人は呆れたものの、良夏はお客様。

 うわべだけの会話。相槌、誉め言葉。
 彼女が満足する〈お友達〉を演じるのがお友達倶楽部のモットーなのだから。







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