駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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十一

恋バナ

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「マジ、ナオちゃん、タツの部屋に泊まったんだ!」
「し~っ、声大きいよ。リュウヘイさんに知れたら叱られそうだから」
「わかってるよお。でも、ナオちゃん、大胆すぎだよ」
「なんで。男同士なのに?」

 ただ今尚と未沙は、三階ロビーの自動販売機の前。この日は約束通り、昼からみっちりと竜平の個人授業を受けていた。午後四時を過ぎて、ようやく休憩の許可が出たのだ。

「だってさ、ナオちゃん、自分がユニセックスな魅力の持ち主だって、自覚してるでしょ。タツってば、ライクじゃなくてラブな目でナオちゃんのこと見てるって思うこと、けっこうあるよ」
「ええ、そうかな? でもさ、そこんとこ、僕もよく分かんないんだ。ねえ、友情でもさ、ヤキモチって焼くと思う?」

 尚に自覚は無いだろうが、ほとんどガールズトークである。

「焼くよぉ! 女の子同士のグループ内なんてしょっちゅう。けっこうそれが面倒だったりするんだあ」

 未沙が大げさに肩をすくめ、眉間に皺を寄せた。

「だから、私は女の子の友達を作るのが苦手なの」
「タツヤさんに僕って『ヤキモチ焼きの女みたいだ』って言われたよ。でもね、僕ってこんなだけど、やっぱり男だと思うんだ。女の子を本気で好きになったことがないから自信は無いけど、でも、女子にはなれないって自信ならあるもん」

 尚はアイスカフェオレのボタンを押すと、未沙が次のコインを入れるために隣に立った。

「あのね、ナオちゃんが自分の身体のことを気にするのはわかるけどさ、男だって男に恋するし、女だって女に恋するんだよ。恋に性別は関係ないんだよ」

 未沙の顔をまじまじと見た。

「すごい。斬新な考え方だね。漫画の世界だけだと思ってた」
「そう? ちなみに私の初恋の相手は女の子だよん」

 思わず入ったばかりのカフェオレを溢しそうになる。

「そ、そうなんだ」
「引く?」いたずらっ子のように口角を上げた。
「う、ううん。恋愛は自由だし……」
「なら、ナオちゃんだって、自分の気持ちに正直になっていいんじゃない。タツのこと好きなんでしょ?」
「ないないないない。好きだけど、好きだよ、でもそんな好きって」
「アハハハハ、冗談だよ! そんな『好き』を連発しなくってもいいじゃん」

 未沙がお腹を抱えて笑った。

「もう!」
「怒らないで。でもさ、答えはすぐに出さなくっていいと思うよ。ゆっくり育む友情も燃え上がる愛情も、どちらも素敵じゃない?」

 未沙が腰をかがめ、慎重に熱いミルクティーを取り出した。竜平はこんなに暑い日にもかかわらず、ホットミルクティーを頼んだのだ。

「でも、友情って、冷めないの。だからその分、安心する」
「愛情は?」
「恋愛はいつか冷める時が来る。なーんてね」

 尚と未沙で二つずつのカップを持った。



「今日は早めに帰ろうか」

 そう龍也に促され、尚は五時の鐘と同時に部室を出た。

「じゃあ」

 まだ遊び足りないけれど、一人で考えたいこともあったから、電車で帰ることにした。

「またね~」

 未沙が手をひらひらと振った。

 ――またね……いいな。この感じ。

 次にもまた会える安心感が胸の中にじわりと広がる。電車に揺られながら未沙の言葉を脳内に再現していた。

 ――「友情ってさ、冷めないの」……裏切りは「冷める」ってこととは違うのだろうか。なら、何で友達同士なのに虐めたり悪口言ったりするんだろう。

 前の席のカップルが手をつないだまま座っている。

 ――さすがにタツヤさんとは、あんなことをしたいって思わないなあ。

 目を閉じると、今でも隣で寝息を立てていた龍也の体温を左腕に感じる。じんわりと温もりを宿した胸に、キュンとした痛みが加わった。

 柔らかい痛みを味わいながら、まだ暮れない空を仰いだ。
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