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リベリオと母

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 リベリオには最近気になる女の子がいる。名前はプリシラ。平民の女の子だ。

 プリシラはリベリオがこれまで会ってきたどの女性よりも美しかった。豊かな亜麻色の髪、透き通るような白い肌、そして琥珀のような瞳。

 見た目の美しさだけではないのだ。プリシラは心までもがまぶしいほど美しかった。

 リベリオが遊びで付き合った女性たちは、貴族や平民、歌手や舞台女優とたきにわたっていた。

 プリシラはそんな彼女たちとはまるで違っていた。どんな女も、リベリオが伯爵の息子だと知ると、必ず目の色が変わるのだ。リベリオにすり寄れば見返りがあるとでもいうように。

 その事をリベリオは当然と考えていた。気に入った女性がいれば、伯爵令息の名をあえて利用した。

 リベリオはプリシラにもたくさん甘ごとをつぶやいた。プレゼンもたくさんした。だがプリシラは高価なプレゼントは決して受け取らなかった。唯一受け取ってくれたのは、最初に出会った時に渡したバラの花だけだった。

 プリシラの望みは、リベリオの母親が自分と父親の事を愛している証拠を探す事だった。

 そんな物あるわけがない。リベリオは幼い頃の母の記憶を思い出した。幼い頃の母は、いつもツンケンしていた。リベリオは母にかまってもらいたくて、いつもドレスにつかまってつきまとった。その度にヒステリックに怒鳴られた。

 リベリオは十三歳になり、魔法学校に入学すると、母の事はキッパリ忘れる事にした。母親など必要ないのだと、自分に言い聞かせた。ついでに父親もいらないと思った。いつも母に口汚く罵られている父親はとてもみじめに見えたからだ。

 リベリオは魔法学校を優秀な成績で卒業し、国家魔法使いの資格を取得した。その後自宅に戻り、父から伯爵になるための勉強を学んでいる。本当の事をいうと、リベリオはちっとも伯爵になんてなりたくなかった。このまま父親が伯爵を続け、自分は女の子と適当に遊んでいたいと思っていた。

 そんなある日、リベリオの生活が一変するような出来事が起こった。リベリオの自室のドアが、控えめにノックされた。リベリオが入室の許可を出すと、プリシラが立っていた。手には分厚い本が三冊あり、その上にいつも連れているモルモットが乗っていた。

「やぁ、プリシラ。どうしたんだい?」
「リベリオさま。お母さまの日記を見つけました。どうかお読みになってください。お母さまの本当の心が書いてあります」

 リベリオはぼう然とプリシラを見つめていた。プリシラは本当に母の日記を見つけたのだ。リベリオはプリシラの手から日記を受け取ると、プリシラは日記の上に乗っているモルモットを抱き上げた。リベリオはうわずった声で言った。

「プリシラ、君は読んだのかい?その、母の日記を、」
「いいえ、私にはお母さまの日記を読む資格はありません。この日記を読む事ができるのは、ご家族であるリベリオさまと伯爵さまだけです」

 プリシラはリベリオに日記を渡すと帰ってしまった。リベリオは自室のソファーに腰を下ろし、テーブルに乗っている日記に手を伸ばした。

 最初の日記はだいぶ古い物だった。母が十七歳で伯爵家に嫁いで来た時のものだ。

 現在の自分よりも幼い母の日記は何ともおもはゆいものだった。十七歳の母は、婚約者に死なれ、その弟の妻になる事をとても不安に感じていたようだ。

 だが父に会ってすぐに気持ちが変わったらしい。とても優しい方だとしきりに書いていた。

 リベリオを腹に宿してからは、リベリオの事一色だった。今日少しお腹をけった、医者は男の子だと断言した。旦那さまは気が早い事にもう名前を十個も考えているらしい。

 リベリオが生まれると、赤ん坊のリベリオの事を事細かに書き記していた。大泣きしていてのに、私が抱き上げてあやしてあげたら、泣き止んでぐっすり眠ってくれた。

 日記の中では、リベリオは母にとても愛されていたのだ。リベリオは我知らず涙を流していた。

 月日が流れ、父親の結婚前の愛人との手紙を見つけてしまった事。この事が母親にとってはとても許しがたい事だったようだ。

 私の目の前で手紙を焼き捨てれば許してあげたのに。旦那さまは、私よりも手紙の女を取ったのだ。平民のくせに、私よりも旦那さまに愛されている。憎い、憎い。

 この頃の日記は、母の怒りの感情で溢れかえっていた。リベリオが母につきまとって怒鳴られらた時の事も書かれていた。

 今日はリベリオが私に花をプレゼントしてくれた。それなのに、私はありがとうと言う事ができなかった。リベリオは日に日に私に似てくる。リベリオが私の愛を求める姿が、私が旦那さまに愛をこうている姿と重なって、自分がみじめで仕方なくなる。

 いつもリベリオに当たり散らしてしまう。リベリオは何も悪くないのに。私の可愛いリベリオ。何で、愛していると言って、頬にキスをきてあげられないのだろう。

 日記には息子に優しくできずに苦しむ母の切実な言葉が記されていた。リベリオは耐えきれなくなって泣いた。

 涙はやがて号泣になった。自分は母に愛されていたのだ。何ともどかしい事だろう。母に愛していると言おうとしても、もうこの世に母はいないのだ。

 胸苦しほどの悲しみの中に、リベリオはほのかな暖かさを感じた。

 
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