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アルスが幼児な理由

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 レオンが何も言えずに黙ってイスに座っていると、ガチャリとドアが開き、となりの部屋に行っていたアルスとトームが戻って来た。

 アルスは何故か決まり悪そうな、不機嫌な表情をしていた。アルスはトテトテと危なっかしく走ると、レオンのひざにしがみついた。

 レオンはアルスをひざの上に抱き上げながら、何を話していたのか聞いた。アルスは顔を背けて言いたくなさそうにした。

 代わりに校長の肩に飛び乗った精霊のトームが口を開いた。

「アルスさま、いずれレオンにもわかる事です。せんえつながらわたくしめが説明させていただきます」

 トームはレオンを見つめて言った。

「レオン、アルスさまが何故無力な幼児の姿として人間界に現れたかわかったのじゃ」

 レオンは無意識にアルスをギュッと抱きしめた。トームが言いにくそうに重い口を開いた。

「それはな。レオン、お主の精神的な弱さが原因なのじゃ」

 レオンはがく然とした。アルスが無力なのは、レオンが弱いせいなのだ。レオンはブルブル震え出した。アルスが、レオンから離されないように、ギュッとレオンの首にしがみついた。

 トームはそんなレオンとアルスを見て、困った表情を浮かべて言った。

「のう、レオン。冒険者とはとても危険な職業じゃ。レオンが精神的に成長するまで、冒険者になるのはやめた方がよかろう」
「そう、ですね。僕が無理して冒険者になっては、アルを危険な目にあわせる事になってしまう」

 レオンは自分の腕の中のアルスを見た。アルスは目に涙を浮かべ、怒った顔で言った。

「ダメじゃ!オレ様とレオンは冒険者になるのじゃ!レオン!お前にとっての冒険者とは、そんな簡単にあきらめられるような夢じゃったのか?!」
「っ!ち、違うよ。だけど、僕は、冒険者の夢よりも、アルの方が大事だ」

 レオンの弱々しい言葉に、アルスは語気を荒げて叫んだ。

「レオンはオレ様が選んだ契約者じゃ!オレ様は天界から、レオンの事をずっと見ておった。レオンは、とてもガンコであきらめの悪い奴じゃ。レオンが小さい頃、近所のバァさんが、カッタとかいうクソガキに、大切にしていたペンダントを川に投げ捨てられた事があったじゃろう。それを聞いたレオンは、冷たい川の中に入って、ペンダントを探し続けた。当のバァさんがもういいっていうのに、レオンはガンとして探すのをやめなかった」

 レオンは小さな頃の記憶を思い出した。レオンの母はお金を稼ぐために、町に果物を売りに行っていた。その間レオンは、近所の老夫婦に預けられていた。

 老夫婦はレオンを実の孫のように可愛がってくれた。家族ぐるみの関係は、おじいさんが亡くなっても続いた。

 ある日おばあさんが、カッタのイタズラを注意した事があった。カッタはそれに怒り、おばあさんがおじいさんから贈られた大切なペンダントを、彼女からむしり取り、川に投げ込んでしまったのだ。

 おばあさんは高齢で、彼女の契約精霊は火の精霊だったため、川の中に入る事ができなかった。それを聞いたレオンは、大好きなおばあさんのペンダントを探すために川に入った。おりしも季節は冬にさしかかる頃、川の水は氷のように冷たかった。

 おばあさんはレオンに、もうペンダントの事はいいから川からあがってくれと、こん願した。レオンはもう少しだけと、言う事を聞かなかった。レオンは知っていたのだ。おばあさんがペンダントを心から大切にしている事を。

 月明かりが川を照らす頃、レオンはやっとペンダントを見つける事ができた。その後レオンは高熱をだして、一週間寝込んでしまった。レオンの世話をしてくれたおばあさんは、泣きながら怒って言った。

「レオン。私はね、ペンダントなんかよりも、レオンの方が大切なの。それは死んだおじいさんも同じよ?」
「おばあさん、心配かけてごめんなさい。これはね、僕のワガママなんだ。大好きなおばあさんに、大好きなおじいさんが贈ったペンダントをずっと持っていて欲しいって思ったんだ」

 おばあさんは泣き崩れながら、レオンの手を取ってありがとうと言ってくれた。

 レオンが幼い頃を思い出していると、目に涙を浮かべたアルスが怒った声で言った。

「レオンは、自分がこうと決めたら、絶対あきらめない奴じゃ!オレ様は、そんなレオンだから契約したいと思ったのじゃ!レオンが弱いのなら、強くなればよいではないか!オレ様は、レオンの強さをちゃんと知っておるぞ!」

 アルスはそれだけ言うと、わんわんと泣き出した。レオンは胸が苦しくなって、アルスを抱きしめながら、言った。

「ごめん、アル。僕は、アルのためだっていいながら、逃げようとしていた。僕はもう逃げないよ」

 レオンは強くなろうと心に決めた。
 


 
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