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 レオンは屋敷の奥まったところまで走り、驚きの声をあげた。伯爵の部屋があるはずの屋敷の外壁に、大きな穴が空いていたのだ。

 レオンが伯爵の安否を心配していると、穴の中から誰かが出てきた。黒いローブをまとい、フードをかぶっていたので、顔はわからなかった。

 フードの人物は、風魔法を使っているのか、ふわりと地面に降りたった。続いて穴から、剣をたずさえた男が飛び降りてきた。冒険者のジャンだ。

 ジャンはかかんにフードの人物に間合いをつめ、剣を振り上げた。フードの人物が何らかの魔法を出現させた。おそらく攻撃魔法だろう。

 レオンは危ない、と思った。ジャンは剣士であって魔法使いではない。ジャンが攻撃魔法で倒されてしまうのではないか。レオンが息を飲んだ瞬間、驚いた事に、ジャンは魔法を一刀両断して、無効化してしまったのだ。

 レオンはとなりに立っているアルスに聞いた。

「ねぇ、アル。ジャンさんは魔法を無効化できる剣を持っているの?」
「いいや。ジャンの奴は剣技で魔法を斬ったのじゃ。面白いヤツじゃのう」

 ジャンという冒険者は、とても強い剣士のようだ。ジャンの後から、魔法使いのポールが風魔法を身にまとわせて地上に降りて来た。

 レオンはアルスを連れて、ジャンとポールの側に駆け寄った。

「ジャンさん!ポールさん!」
「レオン、アルス」
「あいつが殺し屋なんですか?!」

 レオンの質問に、ポールが厳しい顔でうなずいて答えた。

「ああ。伯爵さまの部屋に忍び込んで来たのだ。奴が殺し屋だ」
「伯爵さまは無事なんですか?!」
「ああ、ジャンが撃退してくれた。私が伯爵さまに防御ドームを張った。私が無事なかぎり、伯爵さまは守られるだろう」

 レオンはホッとしてうなずいた。騒ぎを聞きつけたのか、屋敷の者たちがわらわらとやって来た。その中にはガブリエルもいた。ガブリエルはまだ就寝していなかったらしく、メイド服姿のままだった。

 ガブリエルは近寄って来た使用人たちに、大声で退避するよう言うと、胸元のペンダントを引きちぎって、魔法の剣を携えた。ガブリエルが獣のような声でうなる。

「貴様、伯爵さまの命を狙う殺し屋だな!フードを取って顔を見せろ!」

 フードの殺し屋は、レオンたちが取り囲んでいるというのに、慌てる様子は一切なく、フフッと低くて笑って言った。

「ザコどもが何人束になって来ようとも、俺の敵ではない」
「ぬかせ!」

 ガブリエルは大声で叫ぶと、フードの男に斬りかかった。いつものガブリエルらしくない、まるで冷静さを欠いている。レオンは危険だと直感した。

 レオンが止める前に、ジャンがガブリエルの肩を掴んで止めて言った。

「早まるなガブリエラ。相手を見定めるのが先だ」

 ジャンは、気が立っているガブリエルの前に立つと、後ろに控えているポールに目配せした。ポールはこころえたようにうなずいた。

 レオンも何かしなければと、ジャンたちに近寄ろうとしたが、アルスに手をつかまれて止められた。アルスを見下ろすと首を振っている。ジャンとポールの戦いを見ろと言っているのだ。レオンはゴクリとツバを飲み込んでからうなずいた。


 
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