召喚魔法で幼児が現れました僕がなりたい職業は保父さんではなく冒険者なのですが

父の願い

　レオンは弱々しく笑ってから話題を変えた。

「ガブは本当は、ガブリエラっていうんだね？」
「ああ。だけどお父さまは、私の事をガブと呼んでいた」

　ガブとは、ガブリエルとガブリエラの愛称だ。レオンははからずも、ガブリエラの父親と同じように呼んでいたのだ。レオンはガブリエラが、レオンにガブという愛称を呼ばせてくれた事を嬉しく思った。

　ガブリエラは、父親との記憶を思い出してしまったのか、泣き出しそうになるのを、グッとこらえているような表情になった。レオンはゆっくりとガブリエラに語りかけた。

「ねぇ、ガブ。ガブがお父さんのかたきを討っても、何年月日が経っても、お父さんを失った悲しみは消えないよ？だってその悲しみは、お父さんがガブを愛してるっていう証しだから」

　ガブリエラは大きな瞳を、さらに大きく見ひらいてから、顔をくしゃりとゆがめた。ガブリエラの瞳からは、涙がポロポロ流れ、やがておえつになった。

　レオンもアルスも一言も話さなかった。ようやくガブリエラの涙が落ち着いた頃、レオンは口を開いた。

「ねぇ、ガブ。ガブはこれから、お父さんが喜ぶ生き方をしなければいけないと思うんだ。お父さんはガブにどんな生き方をしてほしいって思っているのかな？」
「・・・。そんな事わからない。だってお父さまは、もうこの世にいないのだもの」
「そうだね。だからガブは、お父さんがガブにどう生きてほしいのか考えなければいけない。これは大切な人を失った者がしなければいけない責任だよ。ねぇ、お父さんはいつもガブに何て言葉をかけてくれたの？」
「・・・。お父さまは、私の笑った顔が好きだよ、って。いつも言ってくれた。お父さまが領主として、領地を治めるのは、領民たちと、私の笑顔が見たいからだって、」
「きっとそうだよ。ガブのお父さんは、ガブにいつも笑っていてほしいんだ。たけど、表面だけの笑顔じゃだめだよ？ガブが幸せになって、心からの笑顔にならなきゃ、お父さんは喜んでくれないよ？」
「私は、幸せになれるのかな？」
「うん。僕もアルも、ガブが心から笑顔になれるよう応援するよ」

　レオンの言葉に、ガブリエラは目に涙を浮かべながら微笑んだ。その笑顔はとても綺麗だった。