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「…………」


 ん?


 …まだ3秒も経っていないのだけれどもう終わり?至高の土属性はどこに行ったのかしら?我が親ながら本当に呆れるわ。お姉様達も土ぐらい言わせてあげなさいよ。ちょっと同情してしまうでしょ。


「あ、あ、あ…」


「な、な、何を…」


 姉達の魔法によって母は腰まで伸ばしていた髪を切り刻まれところどころ禿げており、父は父で髪の毛が縮れてぷすぷすと煙が立っている。2人とも怪我はないようで手加減はされていたようだけれど見た目がすごく残念な姿になっている。その横では二次被害でカーバルの下が大変なことになっている。


「う、あ、あ…」


「………」


 この程度で、しかも自分に向けられた攻撃でもないのに怯えすぎだとも思うが争いごととは一切無縁の小心者のカーバルにとっては仕方のないことなのかもしれない。だとしても引いてしまうが。


「…詠唱をしようとしている時点で私達には勝てませんわよ?今の時代、無詠唱なんて当たり前なのですから」


「土属性が至高だと言っている暇があるのならきちんと魔法の腕を鍛えるべきでしたね。口先だけのあなた達が俺達に勝てるわけないでしょう」


「「ヒィっ!!」」


 高圧的に見下ろす姉とジージルに両親は蹲りながら恐怖に顔を染める。姉が言うように無詠唱が当たり前だとは言わないけれど散々土属性以外の他属性を馬鹿にしていたくせに、こんなにも弱いだなんてどう生きてきたらそこまで自分の属性に自信が持てるのか疑問しか湧かない。父も母も学園は出ているはずなのにどうしてこうなんだろう?


「さぁどうしますか?まだ続けますか?」


「私達、まだあなた達に試したい魔法がたくさんあるのだけれど?」


「ひっ、ミ、ミルー!!た、助けてくれ!!」


「ミルーお願い!この出来損ない達をどうにかしてっ!!」


「ミ、ミルー…?」


 …あれだけ自信満々だったくせに結局は私に頼るのね。


「………はぁぁあ」


「「ミルー(様)?」」


 両親の言葉に姉達の側から離れ両親の元へ行く。私が姉達から離れたためか両親が嫌な笑みを浮かべる。


「ミルー流石は私達の自慢の娘だ!!やはりミルーは私達の味方だよな!」


「当たり前よ!!今まで可愛がってあげたのだから!!さぁミルー!!あのゴミどもに目にものを見せてやりなさい!!」


「嫌よ」


「「……え?」」


 よく今まで姉達の側にいた私がまだ自分達の味方だと思えるものだ。


「お父様。お母様ごめんなさい。悪いけど私お姉様達の味方だから」


「な、ミルー!?何を言っているんだ!!」


「あなたも見ていたでしょう!!あいつらはなんの非もない私達にこんな酷いことをしたのよ!!」


「…はっ!笑わせないで。お母様達がお姉様達の喧嘩を買ってただ負けただけでしょう?それになんの非もない?今まで散々なんの非もないお姉様とジージルを虐げていたくせにどの口が言うのよ」


「「ミ、ミルー?」」


 私が自分達に逆らっていることが理解できないのか呆気に取られる両親。


「…私はお姉様達と違って酷いこともされなかったし愛情を持って育ててもらったとは思うわ。だけど大した意味もなくお姉様やジージルを虐げるお父様とお母様を見るのは大嫌いだったわ」


「そ、それはあいつらが出来損ないだからでっ!!」


「出来損ない?さっきのことでわかったと思うけれどお姉様もジージルもお父様達では足元にも及ばないくらい強いわ。それに虐げていたのは本当にそれだけの理由なのかしら?」


「ど、どう言う意味だ」


「だってお父様もお母様もいつも笑っていたじゃない。ただ楽しかったたけでしょう?自分に逆らわない、逆らえない人達を虐げて見下して。それがどれだけ醜い顔をしていたのか知ってる?」


「「………」」


「…お父様達にはここまで育ててもらって本当に感謝はしているわ。だからこそ最後にチャンスをあげる。…お姉様達に謝ってお父様。お母様」


 私は姉達とは違って父と母から愛情をもらって育ててもらった。それがたとえ歪なものだったとしても簡単には捨てられない両親への愛情だって持っている。ここから逃げ出したい。そう何度も思ったことはあるけれど、もし両親が改心しようとしてくれるのなら私はそんな両親を見捨てられない。2人を見下ろしながら言葉を待つ。


「………な」


「なぁに?もっと大きな声で言ってくれる?」


「……っふざけるなよミルー!!何故私達がこいつらに謝らなければならないのだ!!」


「ミルーあなたまで私達への恩を仇で返すつもり!?こんな奴らの味方をしてさらに私達に謝れですって!?どうしてこんな子に育ってしまったのかしら!!最悪だわ!!」


「この恩知らずめ!!散々今まで可愛がってやったのに使えない!!今までの私達の労力を返せ!!」


「ルルーもミルーも私達最大の欠点だわ!!あなた達なんて私達の子じゃない!!」 


「今すぐに3人ともこの屋敷から出て行け!!」


「……そう。それが2人の答えなのね」


 私に向かって罵詈雑言を吐き続ける両親。わかってはいたが直接言われると心に来るものがある。


「ミルー…」


「ミルー様…」


 両親達の言葉に俯いてしまった私を姉もジージルも心配気に見つめ声をかけてくる。でも…


「………ふ」


「ミルー?」


「……ふ、ふふふふふ」


「……ミルー様?」


「ふふあははははは!!」


「「「!?」」」ビクッ


 ああ、ほんとダメ!笑いが止まらないわ!


「「ミ、ミルー(様)?」


「あらやだごめんなさい。大きな声で笑ってしまって」


 姉もジージルも私が急に笑い出したことで呆気に取られているがまさかこの程度で傷つくと思われていたら心外だ。


「笑ってしまうのも仕方がないわよ。だってお父様もお母様も予想通りの返答をするんですもの。相変わらずなんの捻りもない人達」


 本当に決まったような言葉しか吐かないのだから。でも欲しい言葉は手に入れたわよ。


「今お父様もお母様も私のことをこの家の子ではないと言ったわよね?しかも出て行けって。ならお望み通り出て行ってあげるわ!」


 お姉様が言ったのよ。逃げるのではなく正々堂々と出て行きましょうと。言質はとったし最後のチャンスも与えてあげた。これでもう思い残すことなんて何もない!


「さぁ!お姉様!ジージル!行くわよ!」


「なっま、待て!!ミルー!!本気で出て行くつもりか!?」


「当たり前でしょう?お父様達が言ったのよね?」


「だが貴族としてぬくぬくと育ってきたお前が平民に混じって暮らしていけるわけがないだろう!!」


「あら?そんなことやってみなければわからないわよ?それにお父様達より生活能力はあるから」


「ミ、ミルー?今なら謝れば許してあげるわ。戻ってきなさい!」


「別に許してもらわなくて結構よ」


 今更何を焦っているのか。


「じゃあねお父様。お母様」


「っ衛兵!!っいや、誰でもいい!!今すぐこいつら3人を捕まえろ!!」


 父が大声でそう叫ぶも誰も来ない。


「おい!!誰かいないのか!!」


「ふふ。気づかないものね」


「子爵は全くそう言うのを気にしない人ですからね」


「我が親ながらほんと呆れるわ。…お父様いくら人を呼ぼうとも誰も来ないわよ?」


「何!?」


「だってみんな逃げ出した後ですもの」


「なっ…」


 父は屋敷のほとんどの雑事を姉とジージルにやらせていた。そのため、使用人の数も最低限でほとんどいなかった。そして、その最低限残ったもの達は皆父達の言動に呆れ、姉達の味方だった。もうとっくにみんなこの屋敷からいなくなっているのにそれすらも気づかないなんてどこまで愚かな人達なのか。だけどここからが面白いところ。


「ふふ。さぁここからが大変よお父様お母様。誰も使用人がいなくなった屋敷でどうやって過ごすの?周りに助けを求めても今までのお父様達の態度に手を貸してくれる人達はどれほどいるかしら?」


 父達は流石に姉達へのようにあからさまな差別はしなかったが自分達より上の爵位の貴族であってもその節々に隠しきれていない悪意ある差別的な言動が多々あった。たかが子爵と大人の対応として見逃してもらっていたことも多かったが父達はそのことに気づいてすらいない。そんな中で父達に味方してくれる人がいるかどうか。逆に目障りな存在を徹底的に潰そうと思っている連中は多いはず。国には姉達への虐待の報告もしているしどうなることやら。


 まぁこれから父と母がどうなろうともう私達には関係ないわね。


「ま、待ちなさい!!ミルー!!さ、さっきの言葉は謝ってやる!!だから帰ってきなさい!!お前は私達の娘だろう!私達を守らないかっ!!」


「そうよ!娘なのだから親を守るのは当たり前でしょう!!私達はずっとあなたの味方だったのに!!なぜ裏切るの!!」


「裏切ってなんかいないわよ?だって私はあなた達の味方ではないもの。私はずっと昔からお姉様達だけの味方よ」


「「ミルー!!」」


「ふふ!それじゃ今度こそさようならお父様。お母様!」


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