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「ーーそれで本当に大丈夫なのお姉様?」


 3人で屋敷から出るも子爵領を出た辺りで姉は私達と別れると言った。


「大丈夫よ。心配しないで後の事は私に任せてあなた達は行きなさい」


「でも…」


 2日前の話の中で屋敷を出た使用人のことやその他の諸々の全ては姉がどうにかすると話していた。本当に任せても大丈夫なのか不安だ。何故そこまで自信ありげに任せろと言うのか不思議だがいくら聞いてもはぐらかされ詳しい話はしてくれないまま今日まできてしまった。本当に姉1人で大丈夫なのか?


「ふふ。本当に大丈夫よ。私にもそろそろ迎えが来てくれるから」


「………迎え?」


「ええ。秘密にしていたけれど私にもあなたにとってのジージルみたいな存在がいるのよ」


「……ジージルみたいなって……は?え、まさかっ!お姉様いつの間に!?相手は誰よ!!」


 ジージルみたいな存在ということは姉にも恋人?が居るということだ。そんなこと聞いていない。この姉はいつの間にそんな相手を作ったのだ。だから心配ないと言っていたのか?全部任せろと言うのもその人物が後のことをやってくれると?はぁ!?


「さぁ?誰かしらね?」


「ちょっとジージル!あなたは知っていたの!?」


「いや、知りませんでした」


 ジージルを見るも彼自身も驚いているようで目を丸くしていた。


「…何よそれ。カーバル様が婚約を破棄していなかったらどうするつもりだったのよ」


「ふふ大丈夫よ。昔から綺麗な女性の間をフラフラしているような人だったしカーバル様は私が気づいていないと思っていたのかもしれないけれど最近は陰で私との婚約を破棄するってよく言っていたから」


「…そう」


 自分の方から姉に婚約を持ちかけていたくせにあの男…


「でも最後のカーバル様のあの姿はなんだかスッキリしたわ。思っていたよりも私カーバル様のことが嫌いだったみたい。後カーバル様の家のこともこっちで対処するから心配しないで。とても頼りになる人だから」


「…そんな人といつ出会ったのよ」


 なんでそんな対応できる人なのよ…。相手はたぶん貴族よね?カーバルの家に対応できる相手となったら限られてくるのだけれど?…我が姉ながら恐ろしいわ。


「ミルーのお陰よ?お父様もお母様もミルーにベッタリだったから結構自由にできる時間が多かったのよ」


「…そう」


「だから何もあなたは負い目を感じなくてもいいのよ?」


「…別に何も感じてなんかいないわよ。……で相手は?」


「ふふ。それは次また会った時のお楽しみよ」


「………ふん。何よそれ」


「ふふ。拗ねないで」


「まぁ、いいわジージル行きましょう」


 姉に背を向け歩き出す。そんな私に姉はクスクスと笑う。こっちの気持ちなど全てお見通しかのようなその態度にほんと腹が立つ。


「ミルー元気でね。また必ず会いましょう。ジージルも元気でね。ミルーをお願い」


「ええ」


「はい。必ず」


ーー



 姉と別れてからもひたすら前を向いて歩く。


「………」


「……ミルー様」


「……何よ」


「もうルルー様もいませんし泣きたいのなら泣けばいいのでは?」


「はぁ!?どうして私が泣くのよ!」


 ジージルの意味のわからない言葉に咄嗟に振り向く。


「ルルー様に隠し事をされて拗ねてたじゃないですか」


「別に拗ねてなんかいないわ」


 ただ腹が立っただけ。


「寂しいなら寂しいと言えばいいでしょう」


「っそんなわけ!!ゔぅ~…」


「はいはい。ミルー様ってなんだかんだ言いながらルルー様のこと大好きですね~」


「そんなことないわよ!!」


 ポロポロと涙をこぼす私をジージルは苦笑しながら抱きしめてくる。子ども扱いのようでこれにも腹が立つが、仕方がないので甘んじて受けてあげる。


「ほら次に会った時には教えてくれると言っているんですからもう泣き止んで下さい。ーーあんまりルルー様のことで泣かれてしまうと嫉妬するんで」


「……っ!?……は?」


 ジージルの言葉と共に目元に落ちてきた感触に思考が停止し、涙も引っ込む。…今何をした?


「それじゃミルー様これからどうしますか?今までご両親にベッタリされて自由などなかったでしょう?以前言っていたように町に住んでもいいし旅をしてもいいですしミルー様が決めてください」


「…え?は?そんなことより今私に何をしたの?」


「さぁ?なんでしょうね?」


「~~ジージルもお姉様も腹が立つことしないでよ!!」


 本当に2人とも勝手なことしかしない!


「ははは!それでこれからどうしますか?」


「笑い事じゃないわよ!……それに別にあなたと2人ならどこでもいいわよ。でも2人で色々なものが見たいわ」


「そうですか。じゃあ気ままに旅でもしましょうか。あ、ルルー様は大丈夫だと言っていましたがもし追手が来たり魔物が出たりしても必ず俺が守るので安心して下さいね」


「別に守らなくてもいいわよ。私だって特級までの魔法は半分くらいなら無詠唱で使えるんだから」


 姉なら全部使えるだろうけど。


「……え!?で、でもミルー様いつも中級までしか…」


「当たり前でしょう?こんなことが両親にバレでもしたら今よりうるさくなるのは目に見えていたんだもの」


 自分達は中級程度、しかも詠唱ありでしか魔法を使えなかったくせにあの威張りようだったのだ。私が特級の無詠唱が使えるなどと知れたら今より天狗になるのが目に見えている。これ以上両親のせいで恥をかかされるなどまっぴらごめんだ。


「…確かにそうですね」


「ええ。…だからジージル。今度さっきのような馬鹿な真似をするようなら相応の覚悟を持ちなさいよ」


「は、はい」


 睨みつけドスを利かせて出した声にジージルは顔を引き攣らせつつ頷く。そんな彼に少し鬱憤が晴れ、また前を向いてまた歩き出す。


「…今度は口がいいわ。でもする時はもっとロマンチックな所でじゃないと嫌。……後いつまで様付で呼んでるのよ」


「!!ぶふ、は、はいすみません」


「笑うな!!」


 前を歩く私に走って追いついてきたジージルは真っ赤な私の顔を見て笑う。そんな彼に噛み付くように怒鳴るがそのまま手を取られ絡ませるように繋がれた。


「っな!?///」


「じゃあミルー。2人で一緒に色々なものを見に行こうか」


「~///…ええ」




 ーーその5年後、とある国の魔の森と面し国を守る要となっている辺境伯領に1組の夫婦が住み着いた。その夫婦は特級・超級の魔法を無詠唱で操る凄腕冒険者として名を馳せた者達であり、何故か辺境伯夫人と親しげな様子を見せていたそうだ。



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