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15.距離
しおりを挟む「……庭にさ、花を植えようと思ってユーグに頼んでたやつが今日届いたんだよ」
俺は背もたれに腕を組むように置くと、無視をし続ける男へ静かに語りかけた。
「面白いほど種類豊富に取り揃えてくれててさ。今玄関とこ圧巻だぞ? ある意味。
あれ全部植えられたら綺麗だとは思うんだけど、どう整備して植えていくか迷っててさ。
花はいいんだけど、ある意味って言ったのは数が多かったからで……。あんま簡単にものを言うべきじゃねぇなってつくづく思ったわ。それかもっと具体的に言うべきだったのかなって。
ははっ! でもこういけるって思ってたのに想像との乖離が凄すぎてなんて言うべきだったのかもわかんねぇわ」
「……」
「想像ではさ、完璧にできてたんだぜ? でもいざその準備したり、準備物を見るとあれ? これなんか違うなって思わねぇ? 俺、何作ろうとしてたんだっけとかさ。やべぇなってちょっと焦ったり」
「……」
「なにから手ぇつけていいのかわかんなくて一人だと大変だなって思ったりもして。
でも用意してくれたからにはやらなきゃダメじゃん? 俺も植えたいのは植えたいからさ。
あ~どうしよっかな? 何から植えればいいと思う? やっぱりちっさい花から植えて大っきいのか? あれ? 普通は逆か? でも俺のイメージってちっちゃい花壇だからなぁ。最初にそのイメージ完璧に再現して広げていくのもありか? ウェルトはどう思う? あと色は何から植えてくべきだと思う? お前何色が好きだったっけ?」
問いかけて、ピクリとも動かない綺麗な顔にジト目を送った。
「……おい、こんだけ喋ってんのにガン無視決め込むつもりか?」
「…………」
「いつもみてぇに鬱陶しいって顔もしねぇの?」
「…………」
そうか。無視し続けると。
「へー……。言っとくけど、なんか言わねぇ限りぜってぇいなくなってやんねぇからな?」
「…………」
じぃっとガン見する。それでも返事はない。表情も動かさないし目も開かない。
「……。よし。ならそのまま寝たふり続けてろ。俺はこのまま見続けるからどっちが先に諦めるか勝負といくか」
俺はそう言って、そのまま寝顔を見下ろし続けた。
今日は風が吹いていないから、草の音もせず、虫や鳥も漂う瘴気で近寄らないこの場所は、すごく静かなものだった。
しばらくジッと見て、俺は無意識にウェルトの目元へと手を伸ばしていた。
触れる寸前にそれに気づき、手を戻して顎をつく。
……昔ならこんな狸寝入り、こうして声をかける以外にも椅子を揺すったり、触ってイタズラしてやったり、大声だして驚かせたりと、目を開けさせるための方法はいくらでもあった。
でも、今そんなことをすればどれだけの瘴気が舞い、俺の胴にいくつの穴が空くか、または真っ二つどころか何等分にわかれるかわかりゃしない。
対処はできるだろうけど、触れるのを戸惑ってしまう自分の手に、ウェルトとの距離を感じてしまう。
……ウェルト……。
心を壊してから、ウェルトはいつも寝ようとばかりする。何か意味があるのか?
……なんとなく、焦るからやめてほしい。
俺が瘴気でウェルトの気配を探し出せない時には、だいたいこうやって眠ってることが多い。
眠って……そのまま溶けて消えて、目覚めなくなるんじゃないのかと思うほどに、ウェルトの存在が希薄していくように感じるんだ。
それがすごく怖い。
だから朝は絶対に起こすし、話しかける。
「……すぐに触れられる距離にいんのにな」
もう昔みたいに触れたくても触れられないなんてことはない。
なのに、頭を撫でてやりたいのに撫でてもいいのか考えてしまう。近いのに一つ一つに気を遣う。
親友だってのに、労わることも、心配することもしづらくて、もどかしくてもの寂しい距離だ。
こっちは復讐なんてもんして、止めるにやめられなくなって災厄の王だなんて世界に恐れられて、魔王とか呼ばれ出したりして。壊れてからは神とも呼ばれるようになったお前に、言いたいことはいっぱいあるんだぞ? なのに、お前が今を拒絶しているせいで何にも話すことができない。
「……。ウェールト」
いい加減黙って見続けるのも飽きてきて、ちょっかいを出すことに決めた。
手を握りしめ、ちょっとくらいなら大丈夫か? と、そっと手を伸ばしてウェルトの前髪を摘んだ。
おお、なんも飛んでこない。瘴気も出てねぇ。嫌じゃねぇのか?
あ、もしかして裏庭にいたの、俺がさっき一緒に裏庭で寝るかって言ったからここにいたり?
「ふっ」
そんな本当かどうかもわからないことを考えて、笑う。
好きにやらせてくれるようだからとそのままゆっくりと頭を撫でた。すると、頑なに開かなかった目が開き、漆黒の瞳が姿を現す。
「起きたか?」
「……」
「見えてるか? ウェルト」
「……うるさい」
「お前が無視するからじゃん」
ぼーっとしてるから聞いたのに、偉そうな言葉が返ってきた。
無表情なのに不機嫌なのが見て取れるな。
けど、こんな不機嫌でも、ウェルトの心に触れられてるような気がして嬉しくなっちまうんだよな。
「寝たふりはもういいのか」
「…………なんの用だ」
「話聞いてただろ?」
「……なんだ」
「俺の話、聞いてなかったのか?」
「……なんの用かと聞いている」
「枯れた植物ばっかに囲まれてても気が滅入るだろ? 一緒に花植えに……見にいこうぜ」
危ない危ない。
初めっから手伝わす気満々なのバレるところだった。
「……誰の許可を得て花を植えると?」
「え? 俺の許可?」
へー、誰の許可とか聞くんだ。
内心ちょっと驚きながらもにっこり笑えば、ウェルトは目を据わらせた。
んな顔しても全く怖くねぇぞ。逆にそんな顔もできるようになったのか~って感心しかしねぇわ。
「お前に許可仰いでもどうせ却下するだけじゃん。話を聞こうともしねぇし。お前の部下も好き勝手に事後報告で色々やってんだ。別にいいだろ? それが嫌なら部下任せばっかにしてないで仕事しろよ」
「…………」
「ほんといい子ばっかだよな~。この国の天辺はまるっきり国に興味なんてないってのにちゃんとお前を敬って自分達で役割分担して、運営して、少しでもどっかの誰かさんが心安らかに過ごせるようにってせっせと毎日働いてんだから。なのに、そんな王様はイライラしてばっかで怖い怖い! 花くらい好きに植えさせてくれてもいいのに」
嫌味ったらしく大袈裟に言ってやれば、ザワッと空気が波立った。
風もないのに聞こえる枯れ葉が掠れ合う音に周りを見みてみれば、薄ら瘴気が立ち込めてきていた。
言った内容まではあんまり伝わってない気がするが、嫌味を言ったというのはわかったみたいだ。
「……去れ」
「なんで? 俺と一緒に寝たかったんだろ?」
「……」
冷ややかに一瞥くれると、ウェルトは静かに目を閉じた。
「んなキス待ちしてもしてやんねぇぞ?」
「…………」
揶揄えば、ピリピリとした空気が漂い出す。
ちゃんと話を聞いてるくせにすぐ無視すんだから。
「俺、玄関とこの庭で花植えてるから、気が向いたら来いよ。……寝てるより、断然そのほうが面白いと思うぜ」
クスッと笑い、今はここまでだな、と俺はまたウェルトへと伸びかけていた手を引いて、言うだけ言うとその場を後にした。
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