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二通目⑤

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ユリさん

どうして返事をくれないんですか。
待ってるのに!
すごく勇気を出して書いた手紙だったのに!
返事くらい、くれたっていいじゃない!
無視しないでよ!
ユリさんは残酷です!
私たちが、こんなに苦しんでるのに!
苦しいのに!
どうしてあなただけ笑ってるの!


カッと頭に血が上って、目の前が真っ赤になった。
苦しい位に胸がどきどきして、まっすぐ立っていられない。
今まで感じたこともないような激しい怒りが、身体の奥から湧き上がってくる。
ユリはめまいを感じて、テーブルに手をつき、身体を支えた。
ふと、さっき秀夫が食べていたトーストの皿が目に入った。咄嗟にその皿をつかみ、床に向けて力いっぱい投げつけた…

パンのポイントを集めてもらった白い皿は、床の上で一度跳ね、割れることなくカラカラとまわった。
とても間抜けで滑稽なその光景に、ユリはだんだん落ち着きを取り戻す。
皿を拾い上げ、他の食器も重ねてシンクに下げる。手近の椅子に座り、改めて『佐藤 綾乃』からの二通目の手紙を眺めながら、ユリは自分の感情を思い返した。

前回と違い、白いレポート用紙に乱暴に書きなぐられた手紙だった。
相変わらず、意味は分からない。
なぜユリが、責められなくてはいけないのか。
なぜ見ず知らずの『佐藤 綾乃』の希望をかなえてやらなくてはいけないのか。
理不尽な手紙だとは思う。
気味が悪いし、どうしたらいいのかもわからない。
しかし…たかが手紙だ。
いらただしいが、激昂するほどのものではない。
ユリは気が付いた。
この手紙はきっかけにすぎない。

本当は、自分はもうずっと前から怒っていたのだ。
約束を守ってくれない。ユリの立場をわかってくれない。二人のことを、一緒に考えてくれない。そばにいてくれない…
『察してほしいは我が儘よ』母の言葉を思い出す。
秀夫と話そう。お互いが考えていることを、きちんと話して、きちんと聞こう。
子供のこと。同居のこと。毎日が寂しくて仕方ないこと。
趣味や飲み会を、やめてほしいわけじゃない。ただ、もう少しユリと向き合ってほしいこと。触れ合いたいと、思っていること…
このおかしな手紙のことも、やっぱり相談しよう。

二人の将来のことを真剣に話そう。
二人で幸せになる。そのために、結婚したのだから。












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