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第三章 アルプス・スキー(オーストリア)

第16話 オーバーグルグルスキー場1

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 サンアントンの町に一先ず別れを告げる。オーバーグルグル迄は列車でエッツタール迄行き、その後はバスに乗り換える。エッツタール迄の車窓からの眺めは素晴らしい。写真で見たアルプスの風景そのままだ。山々やその山腹や麓に点在する家々、水の美しい川、雪を抱いた樹々。

 オーバーグルグルで遇った人たちの第一印象としては、気さくで親切なようだ。地元の人たちはあまり英語は話さず、ドイツ語が主流でどうも具合が悪い。観光案内所はクローズだったので自分でペンションを探す事にする。手ごろなB&Bを見つける事ができた。

 長く旅をしているといろんな事がある。到着2日目は非常に不愉快な一日であった。
 ペンションの朝食はとても美味しくボリュームも十分である。部屋もきれいなのでこのままずっと滞在しようと連泊を申し入れたら、クリスマス以後は満室との事。やむなく適当に探し当てたホテルで『明日からの宿泊は可能か』訊いてみると、今日からならO.K.、明日からなら明日にならないと分らないとの返答。
 こちらは3週間ほども長期滞在しようとしてるのに、例え一日でも無駄にはできぬという事か⁉ そのがめつい不親切さに抵抗を感じ悩んだが、明日再訪したら既に満室になっていたら大変なので今日から宿泊する事にした。

 すぐに前泊のペンションをキャンセルしようとしたが、こちらもこちらで今日の分はキャンセルできないとの事。B&Bなんだから少しぐらいチェックアウト時間を過ぎたからといってそれはないだろうと思ったが、こんな所で喧嘩すると楽しいはずの旅が台無しになってしまう。
 結局この日は二重払いとなってしまった。
 しかも昨夜は160シリングと言ってたが、今日は250シリングになっている。さらに新しいホテルに来てみると、最初に案内されたソファー付きのシングルルームとは別のシングルルームに案内され2食付き420シリングだと言ってたのが460シリングだと言う。
 こちらがこのホテルに宿泊するか迷っているときは420シリングのソファー付きで、前のペンションを引き払ってきた途端460シリングのソファー無しに代えられた。
 流石に少々頭に血が上り説明を求めたが、クリスマスシーズンだからとか他のホテルはもっと高いと言うだけ。クリスマスがどうとか他のホテルがどうとかでなく、初めに420シリングと言っておきながら、何で今になって460シリングなのかの説明が欲しかったのである。

 これら2つの宿泊施設の女将の態度は偶然なんだろうか? もしや計画的に客を或いは日本人を騙そうとしているのではないだろうか? あまりの腹立たしさに部屋に入っても何もする気になれず、ただ怒りを抑えていた。

 P.M.6:30、気を取り直して夕食に降りる。例の女将が愛想よく、1人の男性客と同じテーブルに案内される。先客はオランダ人で、2週間のスキースクールに来ていて既に1週間になると言う。大柄の落ち着いた好人間で37歳だそうだ。

 彼の話でだんだん分かってきた。女将自身、普段は英語を話さないので私との間で英会話力不足によるプライスの誤解を解きたく、常連客のオランダ人に依頼したようである。
 彼自身も一泊420シリングと思っていたようで、クリスマスシーズンには460シリングになるとは知らなかったようだ。
 どうもこの女将は儲け主義のがめつい女で、金銭の取り扱いなどでもざっとした性格に見えるが、悪い人ではなさそうだ。
 とにかくこのオランダ人のお陰で不愉快な気持ちはかなり去った。
 
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