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八十話 大本番の夜会ですわ ③
しおりを挟むいよいよ私たちの番が回ってきて国王陛下と王妃殿下に挨拶をさせて頂いた。
陛下はフィンレルが領地を盛り上げていることを評価して下さったり、私にも言葉をかけて下さり思ったよりも好意的に接して下さり安心したわ。
王妃殿下も他の方たちと変わらない微笑みを向けて下さり第一関門突破という感じ。
次はいよいよ王太子殿下ギルバード様と王太子妃殿下のエレナ様に挨拶だ。
「サウスカールトン侯爵久しいな」
まず王太子殿下がフィンレルに声をかけて下さる。
「王太子殿下お声を賜り大変光栄にございます。
お陰様で夫婦共々元気にしております」
「そうか、それは良かった。
夫人と会うのは初めてだな、この度は子が生まれたと聞いた、おめでとう。体調はいかがかな?」
王太子殿下が私に声をかけてくれたのだけど、子が生まれたことを殿下から仰られて、王太子妃エレナ様の顔がピクッと動いたのが視線の端で見えた。
「王太子殿下、王太子妃殿下にお初にお目にかかり恐悦至極にございます。
お気遣いの程大変有り難き幸せにございます。
お陰様で家族全員健康で励んでおります」
私はあえて子のことには触れず家族と言うことにしたの。
なるべくエレナ様を刺激したくないからね。
だけど王太子殿下ギルバード様が次に口を開こうとしたその時にエレナ様が割り込んできた。
「フィンレル久しぶりね!」
エレナ様がフィンレルを名前呼びおまけに敬称も付けずに話しかけてきた。
私はギョッとして顔に出そうになったけど何とか堪えたわよ。
でもエレナ様の方を見てしまった。
その時、エレナ様はフィンレルに甘く蕩けるような視線で見た後、勝ち誇ったような目で私を見てきた。
ヤバい!ヤバい!噂には聞いていたけど、エレナ様ってやっぱりヤベェ奴だよ!
王太子妃なのにアンジェリカ様とかみんなには聞いていたけど、常識も何もあったものじゃないんだね!
「王太子妃殿下昨年の舞踏会以来にございます。
お久しゅうございます」
フィンレルはあえてなのか会ったのは昨年以来ですよね?いうふうに表情を変えず言葉にした。
「そんな、フィンレル!「エレナ公の場で止めなさい。失礼した侯爵、それから夫人。
今宵はゆっくりと楽しんで行くがよい」
さらにエレナ様がフィンレルに何か言おうとしたところでギルバード様が注意して止めてくれた。
良かった!ほんと助かったよ。王太子グッジョブだよ!
「はい、王太子殿下、王太子妃殿下それでは失礼致します。
ではベレッタ行こうか」
フィンレルは両殿下に頭を下げて私に甘く微笑んで見つめてきた。
「はい」
私は返事してフィンレルと腕を組んで殿下たちの前から去った。
フィンレルがベレッタ行こうかと言った時に、エレナ様が片足を前に出したけれど、それ以上は近寄ってくるとこも声をかけてくることもなかったわ。
殿下が止めてくれてたみたいなの。
殿下は今まで子に恵まれずとも側妃を娶ることに反対していたと聞いていたから、それはそれはエレナ様を溺愛しているんだろうメロメロなのねと思っていたけど、実際にお二人を前にすると何だかそうじゃないような気がしたの。
これは私が感じたことだけど、殿下がエレナ様を諌める時の視線は冷たいもので、熱を感じなかったのよね。
まあエレナ様の言動が頂けないものだったからかもしれないけどね。
それからフィンレルと私は貴族全員の挨拶が終わるまで、アンジェリカ様とジークハルト様とずっと一緒にいたわ。
すべての貴族の挨拶が終わり今日は舞踏会ではないので、初めにダンスを踊るのではなくまず歓談から始まる。
あとでダンスを踊ることもあるけど、別に踊らなくても構わないの。
給仕からグラスを受け取り、それぞれが歓談を始める。
フィンレルと私はアンジェリカ様夫妻、メリアンナ様夫妻など顔見知りの人から挨拶をしたり話をしていると、何とカサンドレル公爵夫妻の方からこちらに歩み寄ってきた!
フィンレルと私は彼らに礼を取る。
アンジェリカ様とジークハルト様が少し後に下がる。
「やあ、サウスカールトン侯爵閣下と夫人。
夫人とは初めてだね」
カサンドレル公爵閣下が声をかけてきた。
近くにいるとさらにその存在感を感じてピリピリとするくらい迫力のある方だわ。
「カサンドレル公爵閣下お声をかけて頂き光栄にございます。
お久しゅうごさいます」
「カサンドレル公爵閣下、夫人お初にお目にかかります。
サウスカールトン侯爵が妻ベレッタにございます。どうぞお見知りおきを」
フィンレルと私が続けて挨拶をする。
「そんなに堅っ苦しい挨拶はいいよ。
侯爵閣下は結婚して嫡男が生まれたんだってね」
センブュート帝国第二皇子だったカサンドレル公爵閣下が気安い言葉で話す。
でも微笑んでいるけど、目は笑っていない。
この人は絶対油断ならない人だわ。
「はい、お陰様で子に恵まれることが出来ました」
「それは良かったね、おめでとう。
侯爵閣下は夫人を溺愛していると噂になってるよ」
カサンドレル公爵閣下がその背の高いところから私を微笑んだまま見下ろしてくる。
その顔が私を見定めているようで緊張が高まる。
「それは閣下の耳にも入っておりましたか。
ええ、ベレッタは私にはもったいないくらい素晴らしい女性で、私を何よりも大切に思っています」
フィンレルが熱い視線で私を見つめながら言うけど、ちょっと褒め過ぎじゃないかしら?元婚約者の前よ!大丈夫かしら。
「ほぉ~そうかい。
夫人はどうなんだい?」
閣下が意味ありげに微笑んで私をその高い位置から見下ろしてきたわ。
「はい、フィンレル様はわたくしも息子もみなを大切にして下さっております。
公爵閣下ご夫婦も大変仲睦まじくされているとお伺いしておりますわ。
お二人で乗馬をされ遠出をされたりしているのだとか」
私はここでフィンレルと打ち合わせていた通り、閣下が乗馬が趣味なことをあえて出して公爵を見上げながら答える。
フィンレルと共にカサンドレル公爵夫婦のことを予め調べておいて相談していたのだ。
「おぉ~私たちが乗馬をしていることを知っているのかい?」
閣下は判を押したような微笑みを浮かべて私に答える。
「はい、存知上げております。
それにセンブュート帝国にはこの国ではない競馬という馬を競走させる競技があるのですよね?
その競技用の馬のオーナーに閣下と夫人がそれぞれなっておられることも聞き及んでおりますわ」
そうこの国には競馬はないが、センブュート帝国には競馬があり、貴族や裕福な商人などが馬のオーナーになっていたりするのよ。
閣下はその競馬という競技の立ち上げを初期から関わっているそうで、今後国内だけでなく国外にも普及しようと動かれているのだとか。
サウスカールトン領は馬の養育をしていて、今まで数多くの優秀な馬を輩出していて、国内でも一番と言えるくらいの馬の品質を誇っているから、相手の出方を見るよりこちらから積極的に話を持っていこうとフィンレルと対策を練って決めたのだ。
「ほぉ~そこまで調べておられるのか?」
カサンドレル公爵閣下はその野生的で迫力のある美貌の顔をニンマリとさせた。
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