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百十一話 事件が起こってしまいましたわ ①
しおりを挟むその日はラファエルがアンジェリカ様のお子様キャスバルくんにお呼ばれして、アンジェリカと共に王都の外れにある教会に併設されている孤児院を訪れることになっていたのよ。
慈善事業ってやつよね。
キャスバルくんは五歳になった時に公にもお披露目会を開き、貴族令息デビューをしたのよ。
もちろん私たちもキャスバルくんのお披露目パーティーに参加させてもらったわ。
キャスバルくんは五歳ながらしっかりと挨拶をして、立派な礼儀とマナーを披露されて、同年代の貴族令嬢の目をハートにしていたわよ。
ええ、それはとても凛々しく美しい天使で同年代の令嬢だけでなく私たちママ世代たちもメロメロになっていたわ。
そのキャスバルくんは貴族令息デビューをしてからアンジェリカ様が定期的に教会や孤児院で慈善活動をされているのに同行されるようになったの。
それもアンジェリカ様に言われたからじゃなく自ら進んで行きたいと言われたたのだとか。
もう貴族令息として次期後継者としての自覚がおありになるのね~素敵だわ。
うちのラファエルは四歳で三歳から教育を徐々に始めたけど、まだまだそんなことより遊びたい盛りだわ。
でも私は今はそれでいいと思っているのよ。
だってそのうちそういう時期が必ずくるし、いずれ遊ぶより教育とかに時間を取られるようになるのだから今のうちにいっぱい遊んで欲しいと思っているの。
でも今回ラファエルがキャスバルくんの話を聞いたらしく、孤児院に行きたいと言い出したのよね。
よくよく話を聞いているとキャスバルくんが孤児院の子供たちとあんなことしたこんなことして遊んだって話を聞いて行きたくなったらしいのよ。
う~んラファエルは大好きなキャスバルくんに会えるのと、子供たちと遊べるからなんだね。
それで私はレノバングリー公爵家のタウンハウスまでラファエルと一緒に行って、タウンハウスでラファエルたちが帰ってくるのを待つことにしたの。
私は今妊娠中で安定期に入ったとはいえ邸とレノバングリー公爵のタウンハウスまでの往復はいいとして、孤児院までの往復を馬車で移動までは止めておいた方がいいと言われたからなの。
それでラファエルがニコニコしてウキウキしながらアンジェリカキャスバルくんと一緒に出発したのを見送って、アンジェリカの二人目のお子様一歳のアリシアちゃんとお留守番をしていた。
ちなみにアンジェリカ様のことはアンジェ、キャスバルくんのことはキャス、ジークハルト様のことはジーク様と言うようになったの。
ラファエルのことは前からラファだけど、フィンレルのこともフィンって呼ぶようになったわ。
私はベレッタだからみんなそのままベレッタ呼びなの。
それからどれくらい経ったかしら?一時間程かな、黒スーツの壮年の執事長が飛び込んできたの。
扉はちゃんとノックはしたけど、いつも落ち着いていて冷静な執事長が額に汗を浮かべて焦っている姿に何かあったのだわ!と私は席を立つ。
「ベレッタ様!奥様たちが乗られた馬車が王都の街中で強襲されて、キャスバル坊ちゃまとラファエル坊ちゃまの行方がわからなくなったとの報告が早馬でございました!」
「えっ?…強襲?…キャスとラファの行方がわからない?…」
嘘?そんな…どういうこと?王都の街中で強襲に遭った?
キャスバルくんとラファエルの行方がわからない?
私は目眩を起こして倒れそうになる。
「奥様!」
ケイトがそんな私を支えてくれる。
「早馬は王宮にも即向かいましたので、旦那様とフィンレル様にもすぐ連絡が行くはずですが、奥様は馬車の大きな揺れで、キャスバル坊ちゃまとラファエル坊ちゃまを庇おうとして、後頭部を打ち付けて倒れられたそうです!」
私は執事長の言葉を聞いて居ても立っても居られず、外に飛び出そうとする。
「奥様!落ち着いて下さいませ!」
ケイトに腕を掴まれて諭される。
「ケイト、で、でもアンジェが…キャスもラファも!…どうしよう…」
私は額に汗が浮かんできて、寒気がして恐怖にブルブルと震える。
「執事長、また早馬です!」
他の男性、従者の声に執事長が「失礼致します」と言ってから慌てて部屋を出て行くのを堪らず私も後を追った。
早馬でやってきた護衛の報告を執事長と一緒に聞く。
「奥様は意識をすぐに取り戻されて、混乱されていますが、今のところ外傷的には大きな怪我はないようです!
それでラファエル様ですがいったんキャスバル様と共に行方がわからなくなりましたが、路地から街道へ走って出てこられたところをすぐに私たちが保護しまして無事です!
片足の膝を擦りむいているようですが、今のところ大きな怪我などないようです!
ですがキャスバル様のお姿だけが見当たりません。
王都の街中での戦闘でどさくさに紛れて、何者かがキャスバル様とラファエル様を攫おうとしたようです!
保護されたラファエル様の話によると男と女がキャスバル様とラファエル様を攫おうとして路地に引き摺り込んだところ、キャスバル様が男の手に噛みつき、女性を蹴飛ばしたそうで、その隙にラファエル様に走って!と叫んだそうでラファエル様が走って逃げて、すぐ街道で保護されたました!」
キャスバルくん…ラファエルを庇おうと…それからアンジェリカもラファエルも大丈夫なの?!本当にみんな大丈夫なの?キャスバルくんは?
「そうですか?それで奥様とラファエル坊ちゃまは?」
「他の馬車を手配してすぐこちらに戻られる予定です。
ですが奥様がキャスバル様が居なくなったことでかなり混乱しておられるようです」
「そうですか!わかりました!
すぐに主治医の手配をします。
奥様たちはどれほどでお戻りになりますか?
他に怪我人は?」
執事長が冷静に話している。
「あとは奥様付きの侍女二人の軽い怪我だけで、護衛なども戦闘による軽い怪我だけで問題ありません!
街中での戦闘となりましたので、王都の民なども突き飛ばされたり混乱して転んだりということがありましたので、今のところはまだすべて状況を把握出来ておりません!
襲ってきた者を捕らえましたが、すぐにすべて自害したようです!
奥様とラファエル様はあと二十分程で戻られると思います!
キャスバル様の捜索は引き続き行なっています」
「そうですか…わかりました。
また他に何かあったらすぐに伝えて下さい。
こちらからも指示があれば早馬で伝えるようにしますし、こちらからもキャスバル坊ちゃまの捜索を増やします」
「承知しました!私は戻ります!」
早馬でやってきた騎士が再び馬に乗って去って行った。
アンジェリカ、ラファエル…。
キャスバルくんはどこへ?どうかどうか無事でいて!
私はブルブル震え目の前が真っ暗になりそうながらも必死に祈った。
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