ぼくらの森

ivi

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第一章 はじまり

第28話 約束

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 「大草原の遠征軍に選ばれたそうだな?」

 セロが問うと、ケリーは笑って頷いた。

 壁が落とす影で、二人は一休みしている。騎士の訓練場には誰もいない。騎士たちは今頃、食堂で昼食を食べているのだろう。

 鎧姿のケリーが誇らしげに胸を張った。彼が動くたびに、鎧がガシャガシャと音をたてる。

 「すごいだろ?まさか、オレも遠征軍に入れるなんて思ってなかったぜ。……ということはさ、学長はオレの才能に気がついたってことだよな!いやあ、ここまで来るのは本当に長かったぜ!」

 一軍の騎士として選ばれたのは、誇り高いことだろう。

 ケリーが喜ぶ気持ちはよくわかるが、セロの心は穏やかではなかった。ざわつく心のなかで、疑問がぐるぐると渦巻いている。

 「……魔界軍と戦うのが、君の夢なのか?」

 ケリーは首を横にふった。

 「いいや、違うぜ?でも、遠征に駆り出されるってことは、オレにはそれだけの実力があるってことだろ?オレ、嬉しいんだ!やっと、一人前の騎士として認められたような気がしてさ。
 なあ、見ててくれよ、セロ!この間は、不死身の少女にビビって逃げちゃったけど……今回の遠征で必ず、魔界軍をギャフンと言わせてやるからな!」

 ケリーの言葉を聞いて、セロは安心した。

 友達の夢に、魔界軍が干渉するのは嫌だったのだ。

 「どうしたんだ、セロ?」

 「ああ……いや、何でもない」

 浮かない顔をしているセロを見て、ケリーはにやりと口を歪ませた。

 「ははーん……さては、おまえ。オレの夢が魔界軍と戦う騎士になるとか、ちゃっちいもんだと思ってガッカリしてたんだろ?」

 セロは内心ギクッとしたが、顔には出さない。

 「そんな訳ないだろう。君の夢は知らないが……世界を守る騎士のような存在を、目指しているんじゃないか?」

 ケリーはパチンッと指を鳴らした。

 「その通りっ!オレはグレイスターと一緒に、この国を守る騎士になるんだ!今回の遠征で魔界軍をこらしめたら、きっと王様にも注目されるだろ?そうなったら、オレは首都の騎馬隊に入って、この国一番の騎士になるんだ!もちろん、グレイスターはこの国一番の名馬になるのさ!」

 興奮して早口で話すケリーは、子どもが将来の夢を語るときさながらに生き生きしている。

 同じ十七歳とは、思えないほどに。

 「あっ、そういえば。遠征軍の名簿におまえの名前がなかったけど、セロは来ないのか?」

 「ああ、行かないよ。今回の遠征は騎士が主導で、ドラゴン乗りは援護に回るそうだ。ドラゴン乗りは、騎士の半分も招集されていなかったよ」

 ケリーは腕を組んだ。

 「そんな少人数で、魔界軍と互角に戦えるのかな?まあ、それでも勝てるって期待されてるなら、オレは嬉しいんだけどさ。学長は、どんな作戦を考えてるんだろうな?」

 「僕も、この数で魔界軍に太刀打ちできるとは思えない。学舎も夜襲で痛手を負っているから、本当は遠征に行く余裕なんてないはずなんだ。それに、第一回大草原遠征では……」

 はっと口をつぐんだセロの言葉を、ケリーが受け継いだ。

 「わかってるって。四年前の遠征のときは、もっと大勢の戦士が集ったのに……あの結果だった。だから、今回の遠征が上手くいくはずないって言いたいんだろ?」

 申し訳なさそうに俯くセロに、ケリーは歯を見せて笑った。

 「まあ、遠征の詳細は、まだ発表されてないんだしさ。細かいことを気にするのは、作戦がわかってからにしようぜ!」

 ケリーはセロの肩に腕を回すと、ゆさゆさと乱暴に揺すった。

 「大丈夫、安心しろよ。さっきも言ったろ?オレは必ず、魔界軍の奴らをギャフンと言わせるって」

 セロの顔を覗き込んで、ケリーは腹の底から深いため息をついた。

 「はあ……。そんな顔してたら、心配で行けなくなるだろ?ほら、笑えって!……あ、そうだ!出発のパレードのときは、ちゃんと笑って見送ってくれよな?オレ、行進中でもおまえのこと絶対に見つけるからさ。もし笑ってなかったら、一発殴りに行くぞ?」

 セロはふっと笑った。

 「殴られるのは嫌だな。気が向いたら……いや、忘れてなければ、笑って見送るよ」

 「おまえが忘れるはず、ないんだろうけどさ。いつもは無駄に堅苦しいくせに、たまにお茶目になるんだよなあ。普段からそうしていれば、もっと友達ができると思うぜ?」

 ふんっと鼻を鳴らして、セロはそっぽを向いた。

 素直じゃない友達に笑いながら、ケリーはうんと大きな伸びをする。重たい鎧が、また賑やかに鳴った。

 「それじゃあ、オレそろそろ行くわ」

 ケリーの見つめる先では、昼食を終えた騎士たちが学舎からぞろぞろと出て来ている。

 もうすぐ、午後の訓練が始まるのだ。

 セロに向き直ると、ケリーはビシッと敬礼してみせた。

 「それじゃ、またな!」

 意気揚々と去って行く鎧姿を見送って、セロはふうっと息をついた。気楽なケリーは、遠征を控えた騎士には見えない。

 橋を渡り、ドラゴン乗りの学舎へ戻ったセロは、そのまま食堂へ足を運んだ。

 これだけ時間が経っていれば、食堂は混んでいないだろう。早く昼食を済ませて、タークの剣術の訓練に付き合わないと。
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