96 / 122
第三章 旅立ち
第96話 ケリーとの戦い
しおりを挟む
セロとケリーは、丸馬場の両端で対峙する。
セロはニックから受け取った訓練用の木剣を構えて、そっとため息をついた。
騎馬戦のルールは簡単だ。
落馬するか、戦う術を失って降参するか。そして、三人の騎士が「ケリーが手を抜いた。」と判断した時点で勝負が決まる。
心配しなくても、ケリーが手を抜くことはないだろう。騎士たちもケリーに期待しているから、彼が不利になる状況に追い込むことはないはずだ。
馬場の外で見守るニックと、青年たちの視線が痛い。
『さあ……始めようか。』
セロはケリーの瞳を見つめた。
わずかに息を止める。
息を吐き出す瞬間、セロは力強く馬の腹を蹴った。
二頭の馬は、同時に駆け出した。
外野の騎士たちが瞬きをしている間に、二本の剣が馬場の中央でぶつかって、乾いた音をたてる。
「……くっ!」
ケリーの振り下ろした剣に、じりじりと押さえつけられる。グレイスターの方が、ヴェルーカよりもずっと背が高い。
この状況、明らかに不利だ。
セロはケリーの攻撃をいなすと、グレイスターの背後に回り込んだ。グレイスターも、ヴェルーカの動きに合わせて素早く踵を返す。
攻撃をかわしていられるのも、時間の問題だろう。逃げてばかりいては、いつか必ずとどめを刺される。
小柄なヴェルーカが、グレイスターと互角に立ち回るには……。
セロはヴェルーカとともに、ケリーの剣が届く範囲から抜け出した。
柵に沿って走りながら、次の手を考える。
体の大きなグレイスターは、ヴェルーカほど小回りが得意ではないはず。細かい動きでケリーたちを油断させることができれば、勝機が見えるかも知れない。
出たとこ勝負にはなるが、試してみる価値はあるだろう。
丸馬場の埒沿いを回っていたセロは、ふいにヴェルーカの向きを変えた。
鋭く切り込む動きに翻弄されたのか、グレイスターもケリーも、わずかに反応が遅れている。
セロは素早く剣を構えて、ケリーの隙を突いたが、その一手はいとも簡単に弾かれてしまった。
木剣を弾き飛ばされたセロの手が、ビリビリと痺れている。砂の上に転がる剣を目で追うセロの前に、グレイスターが堂々と立ち塞がった。
沈んだ顔の騎士を背に乗せて。
「終わったな」
「なんか、呆気なかったぜ」
ケリーの背後から聞こえる声に、セロは首を傾げてみせた。
セロの微笑みはきっと、グレイスターのお尻に隠れて、外野には見えないだろう。
「……それは、どうかな」
静止していたヴェルーカは、セロが言い終わる前に駈け出した。
ケリーは慌てて剣を振るうが、何の手応えもなく空を切る。
まるで、乗り手が消えてしまったかのように。そこにいるはずのセロが、捉えられなかった。
「えっ?」
ケリーが驚いてふり返ると、剣を片手に走り去るセロがいた。
青い瞳が、動揺するケリーを鋭く見据えている。
セロは馬体の側面に体を伏せ、ケリーの攻撃を避けると同時に剣を拾い上げたのだ。
少しでもバランスを崩せば、落馬していただろう。ヴェルーカが小柄だったからこそ、成せた技だ。
ヴェルーカは急転回すると、馬場の外に集う観客へ豪快に砂を撒き散らす。
鞍の上で、セロは木剣を構え直した。
砂ごと掴んだせいでジャリジャリしているが、そんなことを気にしている暇はない。
ケリーの焦りを感じたのだろう。
グレイスターは大きな体をひねって、咄嗟にふり返るが、そこにセロの剣が飛び込んでくる。
これでは、自ら剣に突き刺さるようなものだ。
自身の腹に向かって突き出される木剣に、ケリーは目を見開く。
『……息が、できない……っ』
セロの動き、野次馬の声。目の前のすべてが、走馬灯みたいに、ゆっくり流れていく。
黒く沈んでいく世界で、あの日の恐怖がケリーを襲った。
セロはニックから受け取った訓練用の木剣を構えて、そっとため息をついた。
騎馬戦のルールは簡単だ。
落馬するか、戦う術を失って降参するか。そして、三人の騎士が「ケリーが手を抜いた。」と判断した時点で勝負が決まる。
心配しなくても、ケリーが手を抜くことはないだろう。騎士たちもケリーに期待しているから、彼が不利になる状況に追い込むことはないはずだ。
馬場の外で見守るニックと、青年たちの視線が痛い。
『さあ……始めようか。』
セロはケリーの瞳を見つめた。
わずかに息を止める。
息を吐き出す瞬間、セロは力強く馬の腹を蹴った。
二頭の馬は、同時に駆け出した。
外野の騎士たちが瞬きをしている間に、二本の剣が馬場の中央でぶつかって、乾いた音をたてる。
「……くっ!」
ケリーの振り下ろした剣に、じりじりと押さえつけられる。グレイスターの方が、ヴェルーカよりもずっと背が高い。
この状況、明らかに不利だ。
セロはケリーの攻撃をいなすと、グレイスターの背後に回り込んだ。グレイスターも、ヴェルーカの動きに合わせて素早く踵を返す。
攻撃をかわしていられるのも、時間の問題だろう。逃げてばかりいては、いつか必ずとどめを刺される。
小柄なヴェルーカが、グレイスターと互角に立ち回るには……。
セロはヴェルーカとともに、ケリーの剣が届く範囲から抜け出した。
柵に沿って走りながら、次の手を考える。
体の大きなグレイスターは、ヴェルーカほど小回りが得意ではないはず。細かい動きでケリーたちを油断させることができれば、勝機が見えるかも知れない。
出たとこ勝負にはなるが、試してみる価値はあるだろう。
丸馬場の埒沿いを回っていたセロは、ふいにヴェルーカの向きを変えた。
鋭く切り込む動きに翻弄されたのか、グレイスターもケリーも、わずかに反応が遅れている。
セロは素早く剣を構えて、ケリーの隙を突いたが、その一手はいとも簡単に弾かれてしまった。
木剣を弾き飛ばされたセロの手が、ビリビリと痺れている。砂の上に転がる剣を目で追うセロの前に、グレイスターが堂々と立ち塞がった。
沈んだ顔の騎士を背に乗せて。
「終わったな」
「なんか、呆気なかったぜ」
ケリーの背後から聞こえる声に、セロは首を傾げてみせた。
セロの微笑みはきっと、グレイスターのお尻に隠れて、外野には見えないだろう。
「……それは、どうかな」
静止していたヴェルーカは、セロが言い終わる前に駈け出した。
ケリーは慌てて剣を振るうが、何の手応えもなく空を切る。
まるで、乗り手が消えてしまったかのように。そこにいるはずのセロが、捉えられなかった。
「えっ?」
ケリーが驚いてふり返ると、剣を片手に走り去るセロがいた。
青い瞳が、動揺するケリーを鋭く見据えている。
セロは馬体の側面に体を伏せ、ケリーの攻撃を避けると同時に剣を拾い上げたのだ。
少しでもバランスを崩せば、落馬していただろう。ヴェルーカが小柄だったからこそ、成せた技だ。
ヴェルーカは急転回すると、馬場の外に集う観客へ豪快に砂を撒き散らす。
鞍の上で、セロは木剣を構え直した。
砂ごと掴んだせいでジャリジャリしているが、そんなことを気にしている暇はない。
ケリーの焦りを感じたのだろう。
グレイスターは大きな体をひねって、咄嗟にふり返るが、そこにセロの剣が飛び込んでくる。
これでは、自ら剣に突き刺さるようなものだ。
自身の腹に向かって突き出される木剣に、ケリーは目を見開く。
『……息が、できない……っ』
セロの動き、野次馬の声。目の前のすべてが、走馬灯みたいに、ゆっくり流れていく。
黒く沈んでいく世界で、あの日の恐怖がケリーを襲った。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる